軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第54話 聖女判別式について

王都の大教会へと赴いた。

教会の表門は神の涙の聖地襲撃という事件など起きていないかのように、いつもと同じ朝の風景である。

その様子を確認してから裏門に回ると慌ただしく人が出入りし、まるでこの場が戦場かのように殺伐としていた。

出迎えたエイブラムが、馬車から降りたグロリアを見てほっとしたようなぎょっとしたような、複雑な表情で頭を下げた。

「申し訳ございません……」

応接室へ移動する途中、今にも舌を噛み千切りそうな顔をしてエイブラムが言う。

それを聞いてグロリアは足を止めた。今日は学友ではなく侍女としてついてきていたケイトも、グロリアの背後で止まる。

「お前はここで私に会うたびに、その言葉ばかり口にする」

言葉に詰まったエイブラムをうながして応接室へ入った。

木目が美しいマホガニー材の応接テーブルを挟んで対面に座るや否や、エイブラムは無言で深く頭を下げる。

「私がここに来た理由はわかっているだろうが……そうだな、まずは顔を上げよ」

エイブラムの後頭部を見つめながら、グロリアは金の髪を払った。ゆるく巻いた髪は胸のあたりで光を弾いてきらりと光る。

「先に答えやすいことを聞こう。導き手のペンダントの修理はどうなっている?」

エイブラムは一拍置いてから、少しほっとした顔を上げた。

「チェーンの修理は終わりましたが、資格のない者が触れたことによって憑いてしまった穢れを祓う儀式がまだ終わっておりません。あと二週間ほどお待ちいただけますでしょうか」

「わかった」

もう一度頭を下げようとするエイブラムを手で制し、グロリアは続けた。

「ではその〝資格のない者〟の扱いはどうなった」

コードウェル公爵家や教会、王家などから殺到した抗議に泡を食ったソールズベリー男爵は、すぐにメロディと縁を切った。すでに彼女は貴族ではないが、まだ学園に籍はある。

聖女ならば平民の孤児でも特例で学園の教育を受けることができるから、聖女判別式で〝聖女ではない〟と断定されないかぎりは退学させられないのだ。

そしてメロディはまだ聖女判別式を受けていなかった。

「メロディという娘を聖女だと肯定する方々から、多くの情報をいただきました。肝心の癒しの力についての情報はなかったのですが……」

とエイブラムはなぜか言葉尻を濁した。

ホワイトホープ教の古い記録を紐解けば、全ての聖女は偶然どこかで癒しの力を使ったことから噂が広まり発見に至っている。

〝××年に○○国の△△村で生まれたピンク髪の少女が聖女である〟というような予言はない。

前世のメロディもカイラを救ったことで聖女ではないかと噂され、それを聞きつけたソールズベリー男爵が彼女を引き取り正式に教会に報告し、聖女判別の儀式を経て聖女となった。

何があって今世の男爵と彼女が養子縁組をしたのかは知らないが、さっさと娘を切り捨てた様子をみるに、娘を聖女ではないと確信しているのは間違いないだろう。

「聖女判別の儀式とは、立会人の前で実際に人を癒すというものか?」

グロリアの質問に、エイブラムは「さようです」とうなずいた。

「それまでに癒しの力を受けたとされる者たちへの聞き取り調査と、儀式での怪我人もしくは病人の治癒の結果を受けて判断されます」

「つまり聖女を聖女たらしめる絶対条件は治癒の力なのだろう? 先ほどソールズベリー……いや、ただのメロディか……を聖女と呼ぶ者たちからでさえ、それを認める情報はなかったと言っていたではないか。あとは儀式をするだけなのに、なぜこんなに時間がかかっている」

エイブラムは煮詰めたコーヒーを一気飲みしたような顔で答えた。

「かの少女を聖女と呼ぶ一部の方々が、その……導き手様と親しい者を立会人として儀式をするな、と。儀式は公正に行うとご説明申し上げているのですが、聞き入れていただけず……」

(エドワードかぁ……)

しょっぱさをこらえるような声を上げたのはA子だ。

ふむ。と、その言葉にうなずきながらグロリアは口を開いた。

「ではその〝一部の方々〟と親しい者を立会人にして儀式をすればよかろう」

「それでは公正さが保たれません」

脳内のA子と、背後に控えていたケイトがエイブラムに同意した。彼女たちの不服そうな様子に苦笑しつつ、グロリアは続けた。

「その代わり、儀式を行う場所は指定させてもらう。そうだな……聖地がいいのではないか?」

「聖地、というと……」

エイブラムがぎくりとした顔をした。

ホワイトホープ教が聖地と定めた場所はいくつかあるが、この場面で紫の導き手であるグロリアが言う〝聖地〟は一ヶ所しかない。

「彼らはメロディを聖女だと信じているのだ。ならばその癒しの力で戦場と化した我が領地、神の涙の聖地を暴徒の襲撃から守るために負傷した者たちを助けることに、なんの不都合があろうか」