軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第52話 そりゃーそうだよねええええ!

そしてその夜、鏡台の鏡越しにA子がブーブー文句を言うのを、グロリアは半分聞き流しながら相手をしていた。

(そりゃーそうだよねええええ! だって最初に会った時に断頭台から見た自分の体っていうか首の! 断面の! 詳細な映像を見せつけてきたんだし、首に刺激があったくらいで泣くほどトラウマとかあるわけないよねえええ! まして意識をなくして引っ込むとかさあ! そんなンないよねえええ!)

「……うるさい」

まさかあの場でメロディが導き手のペンダントを引きちぎってくるとは思わなかったのは確かだ。それによって少々動揺したことも。

あの時の……自分の首が胴体と分かれた前世の最期がふいによみがえり、すっと気が遠くなった。

聖女、エドワード、ブライアン、ケイト――屈辱とともに断頭台から見た顔が、あの場にそろっていたのも影響していただろう。

首の傷を作ったのが、中身は違うとはいえ聖女だったせいもあるかもしれない。

首を斬られた痛みよりも怒りを感じ、何もかもを許せずに、全てを呪って息絶えた。

そういう前世の最期を再現するかのように、怒りが胸の中を埋め尽くしたと思ったら、一瞬意識が無くなっていたのだ。

まさかそのせいでA子がグロリアの体を動かすようになるとは思わなかったけれど、だからといってA子に体の主導権を渡してしまうほどではなかった。

意識を無くしたのは一瞬だけで、実はA子の呼びかけにも応えようと思えば応えられたし、いつでもA子を抑えることができた。

しかしこの期に及んで遠目に見えた王太子とメロディを、「エドワードとヒロインの正ルートはなんだかんだ眼福」などと言ってにやけるA子が現実を知るいい機会だと思ったのだ。

遠くから劇を見るようにこの世界に関わるのではなくて、グロリアの体を動かし、グロリアの肌と目を、五感を通してこの世界をしっかり見させようと考えた。

でなければいつか、何かの拍子にグロリアの身体の制御を奪い、取り返しのつかない失敗をするのではないかという危惧があった。

そう告げると、A子は打って変わってしゅんとした声で同意した。

(確かにグロリアの体を動かせるようになって、私と同じ条件で動いてるメロディの中の人と相対したらなんかゾッとした)

鏡に映った紫の瞳がゆらっと揺れたのは、A子に体の主導権を一時的にでも渡した副作用だろうか。

(グロリアに最初にガツンと言ってもらってなかったら、私もああなってたんだなって。キャラたちだって私と変わらず生活してるのに、スチルとエピソードだけにとらわれて動いてたらそりゃあ―― あ(・) あ(・) な(・) る(・) わって)

でもああはなりたくないなって。と、A子はしおれた声で言う。

(しかもこの世界だって貴族も平民もそれ相応の苦労があるのに、私最初に貴族やめて平民になって趣味のパン作り生かしてお店出すとか言ってたよね。完全にこの世界にケンカ売ってるよ……生きるの舐めんなって感じ)

ハハッと夢の世界を笑い飛ばすような声で笑うA子に、そうだなと、懐かしい世迷言を思い出してグロリアも笑った。

(今日、私変なことしてなかった? てかちゃんと見てた?)

何度も呼びかけたけど返事がなかったから。と、A子が自信なさげに言う。

涙を流して崩れ落ちるA子の様子を、グロリアはちゃんと見ていた。

グロリアの名を呼んでいたのはわかっていたが、この世界に肌で触れた彼女が何を感じるかを知りたくて黙っていたのだ。

(ならさ、私……役に立ったかな?)

グロリアなら涙など流せない衆人環視の場で泣いた、というだけでA子の仕事は終わっていたはずだった。それ以上は特に期待していなかったあの場で、A子は見事に王太子たちへ疑惑の目を向けさせ、メロディの心をえぐることに成功していた。

それだけではなく、ケイトの心にまいた種に水を注いでいたことに、正直グロリアは驚いたのだった。

(そっかー! じゃあよかった!)

明るく笑うA子の声が脳内に響き、鏡の中でグロリアの眉根が寄った。

「私の役に立つということは、復讐の手助けをするということだが……復讐なんて、という主張はもうしないのか?」

(うん。だって……今日メロディたちと話してみて、色々あるルートのなかで、 バッドエンド(それ) をわざわざ選んだのは自分じゃん? って。……だからなんか、それじゃあ仕方ないし、もういいかなって思った)

今、私がそうやって思ったことも、もしかしたら〝わざわざ選んだ〟ってことになるのかもしれないけど……と、A子はカラッとした声で続ける。

(ケイトみたいに扱われようとしてんのかなって、ちょっと思うこともあるけどさ。でも、そういうのも含めて今日、あの時、グロリアの味方を選んだのは私だから)

目が合った鏡の中のグロリアが一瞬、にこっと笑った――ような、気がした。