軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第40話 おもしれー女

「なんですかそれは」

セドリックが限界まで眉を寄せ、「おもしれー女と言われたことが褒められたことになるのでしょうか?」と呟いた。

同意しようと口を開きかけたところで、A子が(あ、あの!)と脳内で挙手しながら発言の許可を求めてきたので口を閉じた。

セドリックがケイトと「おもしれー女は誉め言葉か。そしてエンベリーは何を考えているのか」というのをあれこれ話しているあいだ、グロリアはA子に話すように促がす。

(〝おもしれー女〟ってたぶん漫画が元ネタで界隈じゃミーム化しちゃったやつ! の、原典のやつかもしれない……ってか、それを攻略対象のブライアンに言われたのを自慢するってことは、もしかしたら今世のヒロイン……転生者なのかもしれない!)

なるほど。と、グロリアは紅茶を口に含んだ。

予想していたなかでも、もしかしたらと思っていたことが最も可能性が高そうだ。

A子という、他の世界からわざわざグロリアに取り憑きにきた亡霊がいるのである。他の人間にもそういう存在がいてもおかしくはない。

「しかもメロディ嬢はエンベリー様を介して王太子殿下と親密になりつつあるようで、そのことも最近クラス中に響くように話してくるのです。なぜか、私に……」

(ええ……なんでだろう? ケイトをヒロイン側の人間でゲームと同じお助けキャラだって思ってるのかな? メイドじゃなくて子爵令嬢としてクラスメイトしてるのに?)

「……もしもソールズベリーの養子が殿下の愛妾の地位を狙っているのなら、ケイトへの言動は婚約者の私に対する牽制だろうな」

「ああ、あの殿下なら狙いやすいですし、実際それを希望して僕に自分を売り込む令嬢もいますしねえ。未来の正妃様の邪魔をせず殿下を御せる自信があることを、グロリア嬢に伝えてくれと言って」

「それをお嬢様がお喜びになると思っているのですか⁉」

「なると思っている令嬢が少なからずいるってことです。いちいちグロリア嬢に伝えることはしていませんよ。リストだけは作ってありますが」

目を尖らせるケイトに対して、セドリックが苦笑いをして両手を上げる。

エドワードが自分の邪魔をしないように女をあてがうことはグロリアも考えているが、それはセドリックが作ったリストに載る女たちではない。

(ねーこれって、あんまり認めたくないんだけど、私みたいな転生者がエドワードルートに乗ろうと思って頑張ってるってことだよね?)

脳内で首を傾げるA子に、そうかもしれないなと答えた。

ただし、聖女の意識がどうなっているのかが気にかかるとも続けた。

グロリアが目覚めた時のように聖女の意識はあるが転生者が体を乗っ取って動かしているのか、聖女が転生者の意識に説得されて妙な行動をしているのか、完全に混ざり合っていて別人の人格となっているのか、そのあたりが不明だ。

ただ、もしも聖女の意識があるのならば止めるであろう貴族社会では受け入れられがたい言動をしているようだし、もしかしたらメロディ本人の意識はないのかもしれない。

メロディの身体を動かしているのがA子と同じ転生者なのだとしたら、彼女が入学してきたと知った時に変更した復讐計画をさらに修正しなければならない。

とりあえずは対処可能なところから始めていこう。と、グロリアはことさら悲しそうな顔をして瞳を伏せた。

「殿下とは決して良好な関係とは言えないが、私は……父のことがあったから、殿下に愛妾をと考えるだけで身が引きちぎられそうなほど、つらい」

胸に下げた導き手のペンダントをそっと触り、続ける。

「神もみだらな関係を禁じておられる。王妃となるならそうしたことを言っている場合ではない場面もあることは承知しているが、学生でいるあいだは……殿下が私以外の女性と一緒にいる姿を見たくはない」

「お嬢様……」

〝父のこと〟という言葉に、当然ケイトはつらそうな顔をした。

父親が愛人との息子に殺されかけた。その悲劇を知っているケイトは、ペンダントを触るグロリアの肩をそっとさする。

前世よりも情報通になったセドリックは、コードウェル公爵家で起きた悲劇をなんとなくは把握しているらしい。難しい顔をして黙り込んでいる。

「もしも、それでも殿下が私以外の女性に一時の癒しを求めるのなら、ケイト……お前がその癒しを提供してやってくれないか?」

「な、何を言うのです!」

驚きに目をむくケイトの顔をじっと見つめ、悲し気に見えるように微笑む。

今まで脳内でにぎやかに転生ヒロインについて考察していたA子と、ついでに雰囲気にのまれたらしいセドリックが黙り込んだ。

「殿下がソールズベリーのような女性に興味を持たないように、殿下が理想とする女性を演じて付き合ってやってほしい。……殿下の好みでない私では決してできないことだから」

肩の上でこわばるケイトの手に手を重ね、揺れる栗色の瞳を覗き込む。

「私のために泣いて、怒って、笑ってくれるケイトならば、殿下と一緒にいる姿を見ても大丈夫だと思えるのだ」

グロリアが「だって、ケイトは私の味方だろう?」とすがるように問えば、ケイトはその栗色の瞳に決意の光をみなぎらせ、二度、三度……と激しくうなずいた。