軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

If影虎~2人だけの物語③

「保管庫にあったはずの、何でも願いを叶えるかもしれないハリセンを紛失してた?」

「そうなんです、主任」

「最後に保管庫へ入ったのは誰だ?」

「先週から無断欠勤している、イガチンカ主任補佐です」

俺とラビの関係を子守りだと言った、あの先輩だ。

「それって何十年か前、聖獣ヴァミリアがベルジャンヌ王女に授けた遺品ってやつじゃなかった?」

「真相はハッキリしてないらしいけど、トゲツの高祖父であるミハイル=ロブールが見つけたっていう?」

同僚達が俺に話しかける。

「あー、確かそんな話を父がしてましたね。

本当かどうかわかりませんが、そのハリセンで願いを叶えて蒸発したのが、ミハイル=ロブールの更に上の先祖で、ライェビスト=ロブールだって」

「願いを叶えて……蒸発?」

「え?」

俺の答えに、ざわつく同僚達。

「魔法馬鹿で魔法にしか興味なくて、大方、死ぬまで魔法の研究をしたくて自由を願ったんじゃないかって事らしいですよ」

「魔法馬鹿?」

「え?」

俺の答えに、再びざわつく同僚達。

「無理もないけど、俺だってそんな話を曽祖父が、チラッとしてた気がするなっていう記憶しかないぞ」

「まあ、あの勤勉で有名なミハイル=ロブールの父君で、未だに魔法師界では最強の天才魔法師だったと語り継がれている方だ。

当時の噂に尾ひれがついたんだろう」

主任はそう言うと、1つため息を吐く。

「規定に従い、上に通報する。

時間外業務になって悪いが、彼女は君達の班の班長でもある。

保安局の保安官が来るまでに、君達の班でもう一度、彼女と連絡が取れないか試みてくれ」

「「「はい」」」

そうして同僚2人は、研究所内の監視映像魔法具の解析。

俺は同僚達に頼まれて、先輩に連絡してみる。

はあ、今日はラビアベルの18才の誕生日だってのに……。

『ああ、トゲツ君。

あなたからの連絡なんて、初めてね。

嬉しいわ』

研究所員が何度連絡しても繋がらないと言っていたのに、通信が繋がる。

『どこですか、先輩。

もしかして保管庫にあった魔法具を、持ち出したりしました?』

『…………助けて欲しいの。

私の住むマンションは知っているでしょう。

前に1度、来てくれたもの』

『酔って送ってけって言うから、仕方なく送っただけです。

でも俺は部屋の外で待ってて、先輩を中まで送ったのは、俺と一緒に先輩を送った女性の同僚ですよ。

端で聞いた人が勘違いしそうな発言は、止めてくれ』

思わず敬語を忘れ、憮然と話す。

『ごめんなさいね。

ねえ、お願い。

1度だけでいいの。

可愛い婚約者の為にも、私のマンションまで1人で来て』

『は?

何で俺の婚約者の話が出るんだよ?』

言葉に怒気が籠もるが、ラビの話を持ち出されると腹が立つ。

『保管庫にあったハリセン。

本当に願いを叶えてくれるのよ。

このままだと私、トゲツ君の婚約者を傷つけるどころか……死んで欲しいって願いそうで……怖いの』

『怖いなら願うなよ』

『無理よ。

トゲツ君だって、私の気持ちに気づいていたでしょう?

私の方が、先にトゲツ君を愛したのよ。

なのに後から出てきた子供に、トゲツ君を奪われたの。

ラビアベル=ニルティ……財閥の子供だからって、何をしても許されると思って!』

『ラビアベルは関係ねえだろう!

それに財閥だからじゃない!

ラビアベルだからだ!』

『うるさい!

来ないなら、子供だからって許さないわ!』

ラビへの敵意に、思わず怒鳴る。

しかし俺以上に、先輩は興奮してしまった。

願いを叶える魔法具。

本当にそんな物が存在するか、俺にはわからない。

だが子孫に魔法馬鹿とまで言わしめたライェビスト=ロブールの実力は、記憶している曽祖父の反応を思い出す限り、恐らく本物だ。

万が一、俺の祖先のせいであの子が、ラビアベルが傷ついたら……それだけでなく、命取りにでもなったら……。

『チッ……わかった。

今から俺が1人でそっちに行く』

『本当!?

必ず1人で来て!』

弾むような上機嫌の声に苛立ちながらも、万が一を考えて、恐らく研究所に派遣されるだろう保安官に言伝を頼む。

上手くいけば、保安官を務めるラビの双子の兄が、言伝を受け取るはずだ。

先輩に1人で行くとは言ったが、誰にも言わないとは言っていない。

そうして俺は、1人で研究所を後にした。