軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

If影虎~2人だけの物語①

「あー、くそっ。

何でこんな事に……」

窓のない真っ暗な部屋で意識を浮上させた俺は、小さく呟いた。

気づけば四肢を伸ばした状態で、ベッドに縛りつけられている。

男ながらも、危機的な状況に焦る自分を自覚する。

だけど何と言うべきか…… 既視感(デジャヴ) ?

こんな風に縛られた事なんか、1度もねえはずなのに……。

そして心の根底には、何故か大丈夫だと楽観視している自分を感じる。

「 あ(・) の(・) 子(・) との約束……破っちまったな」

思い出すのは、ミルクティー色の髪に朱色の瞳をした年下の少女。

「ラビアベル」

どこか懐かしさを感じる名前を口にした。

「ラビアベル、ですって?

女の名前よね?

よくも私達2人が初夜を迎えるベッドに寝そべって、私以外の女の、どこの馬の骨とも知れない女の名前を……」

声をした方に顔だけ向ければ、見知った女が顔を歪ませて歯がみしている。

遠くの方では、微かに雷鳴が轟く音が聞こえた――。

※※※※

「ここが……ラビアンジェ=エイナの邸だったとこか……」

麗らかな陽気の中、俺がとある手記を手にして訪れたのは、山の中にある邸。

邸といっても、小金持ちの平民が持ってるくらいの大きさだ。

手記は少し前に亡くなった、俺の曽祖父が遺した遺品。

曽祖父は、四大公爵家から三大公爵家になったばかりの頃の当主、ミハイル=ロブールの息子だ。

世が世なら、俺も公子と呼ばれていたんだろうが、今は貴族制が廃止されてる。

といっても大財閥の御曹司なんだが……まあ、それはいいか。

それにしても、記録では大昔の邸だった。

それも自然豊かな山の中の、ぽつんと一軒家。

なのに……。

「随分と綺麗だな。

保存魔法でもかかってんのか?」

言いながら雑草も生えていない、ある種の奥ゆかしさが感じられる敷地の中へと、歩を進めていく。

「何でだろう?

懐かしい。

まるでラビアンジェ=エイナの肖像画を見た時みたいだ」

そう、ここへ来たのはミハイル=ロブールの妹で、何か色々といわくつきっぽいエイナ家の初代当主の足跡を辿る為だった。

きっかけは曽祖父の遺品を整理してた時。

保管されていた肖像画の中に、生まれたばかりの曽祖父を抱いて微笑む、ラビアンジェ=エイナの肖像画を見つけた。

ロブール家を出た彼女は、家を出た後も兄であるミハイル=ロブールとその妻と、かなり仲が良かった事が察せられた。

その時からだ。

強烈に彼女に惹かれ、彼女の事を調べなければと思うようになって、今日に至る。

懐かしさを覚える異国風の庭を歩き、邸の中に入ろうとドアノブに手を触れた。

その時だ。

「ふふふ、ディアったら。

キャスちゃんも……」

楽しげな少女の声が聞こえて、眉を顰める。

確かこの邸は、随分と前から無人のはず。

ラビアンジェ=エイナが亡くなった後、継ぐ子供がいないからと、曽祖父が、そして今は俺の祖父が管理している。

曽祖父は、いつか何者かが【ある言葉】を伝えたら、その何者かに譲るようにと遺言を遺していたらしい。

「誰だ?」

声のした方へと歩を進め、見つけた不法侵入者に声をかける。

そして振り向いたのは、十代前半と思しき少女。

少なくとも成人はしてなそうな外見だ。

「あらあら?」

そう言った少女は、ミルクティー色の髪に、朱色の瞳をしていた。

途端、俺の心臓がドクリと跳ねる。

【見つけた】と、本能が強く叫んだ。

今すぐ少女を抱き締めたい。

そんな衝動に駆られる。

「……その髪と瞳の色はニルティ家の……」

それでも相手は幼い少女。

対して俺は、今年学園を卒業する19歳。

怖がらせてはいけないと思いつつ、平静を装うも、出てきたのは掠れた声。

更には言葉にも詰まってしまった。

ニルティ家はロブール家と同じく、かつては三大公爵家だった家門の1つ。

何代か前の夫人が、ロベニア国最後の王女だったのは有名だ。

俺と面識があるのは、2人いる嫡男の方。

どちらも黒髪に暗緑色の瞳をしている。

だがニルティ家の末娘とは、面識がない。

確か生まれてすぐにお披露目があったが、俺はタイミング悪く風邪を引いてしまい、見合わせた。

「ムムッ、お母さんを狙う変質者!」

んん?!

突然どこからともなく、女の声がしたな?!

口調は幼いけど、少女よりはずっと年上の声だ。

つうか変質者だって?!

「へ?

うわ!」

文句を言おうと口を開く間もなく、突然、足下の地面が陥没した。

間一髪のところで、横に跳んで落ちるのを免れる。

落ちたら、即死級の深さだぞ?!

「あっぶなっ、って、うわ!」

しゃがんだ状態で背筋をゾッとさせた、次の瞬間。

目の前に少女が立っていた。

びっくりした!

尻もちついちまった!

まさか魔法で転移したのか?!

「……」

可愛らしい顔をした少女は、何を喋るでもなく、自分より低くなった俺の顔に、自分の顔を近づける。

陽に反射してんのか?

朱色の瞳が……キラキラして……。

「……そう。

忘れちゃったのね」

暫くしてから少女は一歩後ろに下がり、どこか寂しそうに笑って、そう呟いた。

しかしすぐに気を取り直すと、俺に手を差し出して、微笑む。

「はじめまして。

私はラビアベル=ニルティ。

顔立ちは違うけれど、菫色の瞳も金髪も、お兄様と同じで、とっても素敵よ。

あなたは、どなた?」

「俺はトゲツ=ロブール。

お兄様って、誰の事だ?

君の兄達とは面識があるんだ。

2人共黒髪で、目は暗緑色だろう?」

言いながら、自分よりずっと小さな手を握り、小さな体に負担をかけないよう立ち上がった。

これが俺とラビアベルの、初めての出会いになる。