作品タイトル不明
695.???? ん?~国王side
「レジルス。もしも公女がお前を男として意識せぬままなら、どうする」
先週、公女が創造した空間で、公女は前世の夫について口にした。
あの時の公女からは、前世の夫に対する深い愛情が窺い知れた。
そう、恐らく公女が女として求めておるのは、前世の夫。
そしてかの夫がおらぬからと、他の者に男としての代わりを求める事もない。
そのように直感した。
既に死んだ夫。
それも前世の夫だ。
公女が、転生した夫と再び逢える可能性は、限りなく低かろう。
しかし公女自身、何度か転生しておるからこそ、余は逢えぬと断言もせぬ。
とはいえ次に夫の魂と巡り逢えたとて、それは前世で愛し合った夫と言えるであろうか?
確かに公女と話す限り、ベルジャンヌ王女だった頃の人格も併せ持つ。
転生しても記憶を引き続き、継続し続けておるのだ。
何度転生しても、公女はある種の同人格で居続けるのかもしれぬ。
しかし他の者は違うはず。
ロブール公子の報告によれば、人の魂は輪廻の輪に入り、再び転生するという。
もちろん前世の記憶を持った人間の話は、滅多に聞かぬ。
皆無ではないが、眉唾物の話だ。
記憶を持っていたとて、当人が成長と共に忘れるとの噂も耳にした事がある。
「さあ?
重要なのは、俺が公女の側にいられるかどうかでは?」
そういえば先ほどレジルスは、側に侍ると申したな。
しかし公女と恋仲、もしくは婚姻したいとは言っておらなんだ。
「いつかは公女に男として見てもらい、やがて公女と夫婦となった上で、俺の死を看取ってもらおう。
俺の死後は他の誰とも再婚せず、公女が俺だけを想いながら孤独に死ぬよう、制約魔法を結ぼうと思っていました」
レジルスよ、最後の言葉が不穏すぎる。
魔法呪から解放された日より、公女以外に興味を示した事がないのだろうが、公女への感情に犯罪臭がする。
公女とレジルスが夫婦となり、添い遂げる可能性は限りなく少ないだろう。
だが、もしそんな事態が起こったら、余が死ぬまでに嫁となった公女を、レジルスの魔の手から逃がすべきか……。
そう言いたいが、あえて無言になるに留める。
「だが公女の、いや、ベルジャンヌ王女の真実を知り、諦めました」
おお、そうか。
報告によればレジルスは、ミハイルと共に過去へ渡り、王女と共に過ごす事で、その過酷な日々を直接目にした。
故にこそ己の 我(が) を抑え、公女を思いやる気持ちが芽生えて……。
「だから公女が、いつでも俺を選べるよう待機すべく、最長で俺が死ぬまで公女の側に侍る事にします」
……息子よ、父親として息子の心の成長を感じ、喜ばしく思った瞬間の、感動を返せ。
断言か。
お前の中では、既に決定事項なのか。
「そうすれば公女は、嫌でも俺の死を看取るはずですから」
「…………そうか」
絶対、何か違う。
人としての最終目標、いや、人生の終焉と言うべきか?
とにかくお前は、ソレで良いのか?
まあ、それ が(・) 良いのであろうな。
うっかり声が 掠(かす) れたぞ。
「何よりそれが動物を飼う者の、負うべき義務です。
動物好きの公女ですから。
きっと飼い主として、責任を果たしてくれる」
???? ん?
余の息子は、突然何を言うておる?
「……そうか」
しかし余は、レジルスの真意をあえて尋ねぬ。
ただただ頷くに留めれば……。
「俺は公女だけのポチですから」
???? ん?
レジルスよ、意味がわからない。
ポチとは何だ?
ベルジャンヌ王女や公女に関連する報告書には、そんな言葉などなかったが……。
余には滅多に表情を変えぬ息子が、僅かだが表情を弛め、頬を赤らめる意味がわからぬ。
レジルスの中の、どんな心の機微により、どんなタイミングで、そのような反応となったか、さっぱりだ。
「何にしてもそういう事なので、譲位と立太子の準備をお願いします」
「良かろう。
半年後だ」
「チッ」
やはりレジルスは、遅いと言いたいらしく、忌々しげに舌打ちする。
「急いで、半年後だ」
しかし仮にも国王の譲位だ。
今から王妃のソフィニカと話し、宰相と共にあらゆる政務を調整したとて、早くて半年後となる。
「チッ」
レジルスは反論をせず、反発心だけはアピールして、転移した。
余は1つため息を吐いてから、ソフィニカの元へ向かった。