軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

623.おどろおどろしい美人〜ミハイルside

__パキィン!

__ドガン!

突然、天から割れるような高音が響き、破壊音が轟く。

「げっ」

直後、青年は呻いて、盛大に顔を引き攣らせた。

いつの間にか壁に背中を押しつけて、尻もちを突いている。

そして新たな人物が、そこには居た。

「……へぇぇぇぇ?

またって言ったかしら?

エッシュの介入があって、現実世界と魂が潜りこんだ過去の世界で瞳の力を高めたミハイルを連れて、こっちに戻って来てみれば?」

「つ、つつつ月和……」

おどろおどろしい女が現れた?!

この黒髪の女は誰だ?!

月和?

いや、本当に誰だ?!

突然現れたのは、肩口で髪をそろえた女性。

青年と同い年くらいか?

髪は弛くウェーブがかかり、パンツ姿。

黒目黒髪で、人種としては青年と同じだろう。

女性にしては少し背が高く、美人。

平素の顔なら、普通に美人。

なのに美人が過ぎて、おどろおどろしさに拍車をかける、やべえ雰囲気しか感じさせない美人。

いや、もう自分で何を言っているのかわからない。

「へぇぇぇぇ?

そっか、そっかぁ。

結局、 影(・) 虎(・) では縁を切れなかったって事ね?

オッケー、オッケー。

うふふふふ、元カノへは完全犯罪を考えておくから安心してちょうだい?」

「いや、元カノも、あっちの世界じゃ、もう寿命的に……」

「でも、言ってあったわよね?」

「ヒュッ」

絶賛ブチギレ状態の女性……なあ、もしかすると……もしかしなくても……この女性って……。

影虎(エイト) と呼ばれた青年も、悲鳴と息を飲んだ音が一緒くたになった声を出している。

「忘れちゃったかしら?

あの時、元カノにホテルのベッドに縛りつけられて、跨られた影虎に、言ったわよ?

ああ、もちろん影虎の影虎は、反応していなかったって今も信じているのよ?

服がはだけていても、ズボンのチャックはまだ閉じていたし。

けれど今度私に黙って元カノに拉致されたら、新居のベッドに縛りつけて、あらゆる危険から影虎を隔離して、前も後も私がしっかりお世話をするって。

ね、言ったわよね?

それで良いなら私の夫になってって、その場でプロポーズしたわ?」

いやいや、どんな場面のプロポーズだよ?!

しかも言葉の使い方が、どことなく不穏!

破廉恥小説家のR指定が入った、亜空間に奉納する類のやつじゃないのか?!

「あの時は月和さんのお陰で、未遂で終われました!

もちろん俺も俺の俺も、何も反応してません!

その節は、ありがとうございましたっ!

でもそれはそれでアブノーマル宣言、んんっ、黒歴史……いや、何でもないっす!

何十年も経ってたんで、うっかり調子に乗りました!

俺もすぐ月和さんからの、デンジャラス逆プロポーズに、イエスって言ったのしっかり覚えてます!」

影虎(エイト) と呼ばれた青年は、ガバッと土下座する。

それより、よくイエスって即答できたな……。

「あらあら、いいのよ?

私が働いて、家事も育児もするわ?

あなたはベッドで寝そべって、時々私を乗せたり後ろを向いたりして快適に過ごして?

私なしではいられない、サポートだらけの生活を提供するわ?」

「嘘です、襲われてませんっ!

俺がストレス社会と乱闘しながら、子供ができたら、子育ても是非ご一緒させて下さいっ!

月和さんこそ家でゆっくり、お気を楽にして、子供達と過ごして下さいっ!

美味しいご飯だけ作って食べさせてくれると、嬉しいですっ!

さあせんしたっ!!」

なおも影虎が土下座し続ける女性、 月和(ツキナ) 。

俺の知るレジルスをも凌ぐ、ドス黒い何かを漲らせて、影虎をギョロリと見下ろしている。

そんな月和が片方の手に握っているのは……。

「なので壁にミニチュア黄金マンモスの牙突き立てて、壁足ドンを美脚でやるの止めて下さいっ!

けど、どうせやるならスカートでやってくれると、ラッキースケベ的なの期待できて、嬉しいですっ!」

パラパラと結界の欠片が頭上に落ちるのも気にせず、影虎は土下座し続ける。

そう、月和は片方の手で金毛の生えた小さな象の頭を掴み、片足を壁にめりこませている。

ちなみにもう片方の手は、上げた足の膝上に置いて、拳は臨戦態勢だ。

雰囲気が殺る気満々のこの女性……もう俺の妹だと確信している……確信しているのに、俺の本能だけでなく、理性すらも否定したがっている。

「まあいいわ。

今のやり取りは月和の生涯を通じて、影虎が証明してくれたもの」

暫しの膠着状態の後、めりこませた足と象を引っこ抜きながら……妹……コレは俺の可愛い妹だ……くっ、どんな姿でも可愛い妹、妹、妹……妹がそう言った。

「ところでアヴォイド……アヴォイド?

まあまあ、やっと永眠できたのね」

「………………殺すな。

誰のせいで気を失ったと……」

今まで無言だったのは、気絶していたかららしい。

殺られてなくて良かったな。