軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

610.古語〜ラルフside

「腐敗臭?

しかし少し前に会った時には……」

そう言ってニルティ公爵が、自分の契約するヴァミリアを見やる。

ベリード公爵も同じように、ドラゴレナを見る。

しかし聖獣達は首を振り、公爵達も困惑したように眉を顰める。

俺とポチも顔を見合わせるが、地下牢で悪魔らしき陰は見ても、臭いまでは……。

「ラグォンドル」

不意に、王女が竜の聖獣を呼ぶ。

すると何百人も入れそうな 謁見の間(空間) の、半分を占める大きさの竜が忽然と現れた。

蠱毒の箱庭で聖獣となった、元黒蛇だ。

瞳は聖獣に昇華した時から変わらず、藍色に金が散っている。

「「まさか……」」

「うん。

ラグォンドルは聖獣。

私が昇華させて、ずっと隠してきた」

「貴様……貴様は……」

目を見開いて驚く公爵達。

そして王女の答えに、わなわなと体を震わせる国王。

国王の王女を睨みつける目には、怒りの他に嫉妬が窺える気がする。

「ラグォンドルは悪魔に気づいてた。

他の3体とラグォンドルの違いは、歪んだ誓約を1度でも結んでいたか、いないかだ

私と公爵達……国王、君もかな。

違いはラグォンドルのような聖獣と契約しているか、いないか」

王女の説明になるほど、と納得する。

「エビアスとまともに話す……と言っても何かを命令しに来るだけの関係だったけど、ここ1年くらいの間に、気の所為だと思っていた腐臭は、エビアスから発していると特定できるくらい、強くなってる。

そしてラグォンドルが言っているんだ。

蠱毒の箱庭で、自分や魔獣達の正気を奪った時に臭いと同じだって」

「蠱毒の箱庭……そう言えば 魔獣集団暴走(スタンピード) が起こって……」

「まさか、あのスタンピードも悪魔が……」

半ば確信したように公爵達が話す中、国王が静かに王女を指差した。

「オルバンス?

……はっ、待て……」

『オルバンス=ラト=ロベニア◯、聖獣の主◯◯◯命じ◯』

ベリード公爵が制止する間もなく、国王が古語で何かを喋る。

俺は正直、古語はほとんど習っていない。

学園の科目に古語はなく、領主教育の延長で、兄が習っているのを遠くから耳にした事がある程度。

国王の名前と、古語での聖獣や主が何たら〜としか、わからない。

「グルルル……」

しかしポチは正確に理解したらしく、怒りを顕にする。

国王の口調から、何かを自分の名前にかけて聖獣に命じたのだと推察する。

「ヴァミリア!」

「ドラゴレナ、止めるんだ!」

不意の叫び声に、ポチから視線を戻す。

公爵達が制止しようとする聖獣達が、王女を真ん中に挟み、今にも攻撃しようとしている。

片や炎を纏うヴァミリア。

片や男の腕程の太さの棘蔦を王女の足下から出すドラゴレナ。

「当主の宣誓を忘れたか。

如何に四大公爵家と言えど、このロベニア国王への裏切りは許さぬ。

そなた達の宣誓を通し、余は聖獣の主として短時間ならば命じる事ができる。

己だけが聖獣の契約者として、聖獣を意のままに操れるなどと思うな。

跪け」

「「っ」」

どうやらあの古語の解釈は、間違っていなかったらしい。

公爵達を跪かせた国王は、悠然とした足取りで王女の前に進む。

「今になって新たな聖獣の存在を知らしめたのは、何故だ」

「君も、公爵達も。

今すぐ聖獣にかけた契約という呪いを解く気はない?」

国王を完全に無視した王女が、静かに問う。

「今の聖獣達を見て、君達は何も感じない?」

「ヴァミリア、ドラゴレナ」

すると今度は国王が、王女の問いを無視して聖獣達に王女を攻撃しろと言外に告げる。

途端、王女の体に火と蔦が纏わりつく。

宙に浮くラグォンドルが王女の背後に回ると、火が消えた。

蔦もどこかから現れた水刃が切り裂く。

更に他の2体の聖獣を薙ぎ払おうとしたのか、尾を振りかぶる。

「ラグォンドル、それは駄目」

しかし、物理攻撃は王女が止める。

「ベリード公、ニルティ公。

聖獣との契約を解除して欲しい。

これ以上、聖獣達を悲しませないで良いように」

そう言いながら、王女はすぐ近くに浮かぶ2体の聖獣それぞれに、手を伸ばす。

ヴァミリアの頬に触れた手は、炎に炙られて爛れる。

ドラゴレナの頬に触れた手は、何かの樹液でかぶれるように爛れる。

爛れるに留まっているのは、ラグォンドルのお陰なのか?

それとも個々の聖獣達が、それ以上酷くならないよう、進行を抑えているのか……。

気づけばヴァミリアもドラゴレナも、涙を流していた。

王女は無表情なまま、溢れ始めた聖獣達の涙を優しい手つきで拭い、大丈夫だと言うように撫でる。

「しかし……」

「我らの意志だけでは、できんのだ……」

言い淀むニルティ公爵。

そしてベリード公爵が不可能だと告げた。

二人共、聖獣の涙に思うところはあるのだろう。

苦悶の表情を浮かべている。