軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

597.俺は変態ではない〜ミハイルside

「そんなお前の憂いも、私が後夜祭で発表する慶び事で晴れるだろう」

扉の向こうから聞こえるエビアスの言葉。

何となく含みがあるな?

「慶び事?」

恐らく王女も、含みに気づいたか?

「そうだ。

私の門出に相応しい仕掛けを要求している、とだけ伝えておいてやる」

「……慶び事に、門出……ブランジュ=ベリードも関わるのかな?」

ブランジュ=ベリードは、エビアスの婚約者だ。

婚約者の卒業というタイミングでの慶び事や門出となるなら、思いつくのはエビアスの婚姻。

「は、相変わらずの愚図だな」

「くっくっ、言ってやるなハディク。

おい、ベルジャンヌ。

ちゃんと現状を受け止めろ。

今や私の魔力はお前を遥かに凌駕しているのだ。

獣などと契約して魔力をかさ増したお前より、私の方がずっと魔法の才がある事を忘れるな。

お前がこの先も王女として生き残りたいなら、つまらない詮索などせず、せいぜい言われた事をやれ」

エビアスが饒舌になったが、ハディク諸共、聞くに堪えない蔑み方だ。

「ブランジュはしょせん、政略結婚。

私にとっての慶び事は、欲しい物を手に入れる事だと何故わからん。

まあ良い。

金は恵んでやる。

その分、盛大な仕掛けを用意しておけ。

いくぞ、ハディク」

「無様な王女にとっても、慶び事になるだろうよ。

せいぜい、盛大な仕掛けでエビアスを盛り上げるんだな」

ガシャン、と何か金属と机らしきものがぶつかる音と共に、2つの足音が遠ざかる。

「何ですか、あれ?

言い逃げ?

珍しく金を置いていくなんて。

確かにいつもより無駄に上機嫌なんでしょうけど……気持ち悪いし、ムカつきます!」

リリ、奇遇だな。

あり得ない状況に襲われているのもあって、気配を消している俺も、気配を顕にしてでも、無礼な男達に攻撃を仕掛けたくなったぞ。

「今さらだから、腹も立たないけど、ベリード公女には影で色々と手を貸してもらっていたから、エビアスが何をしたいのか気にはなるね。

学園祭後のパーティーで発表……でもベリード公女は関係ない……」

「 姫様のムカつく婚約者が、他の女に現を抜かしているのが、晴れるとも言ってましたね。

本当に現を抜かして、ロブール公子が姫様から離れるなら、私は応援しますよ。

でも、それはないと思います。

多分、現を抜かす相手はシャローナ=チェリアです」

「そうか、エッシュはロナとそんな関係に……」

「なってません。

姫様がそういう誤解をするのは、さすがに可哀想だと思うので、一応、否定しておきますね。

そもそも姫様が、ロブール公子に、シャローナを、気にかけろ、って言ったから噂になったんですよ?」

なるほど、リリの短く強調した言葉で、王女に対する祖父の印象が、噂とかけ離れていた理由を察した。

「そう、だね?

リリ、どうしてそんなに呆れた目をするのかな?

覚えているよ?

死んだと報告を受けた国王にとって、ロナの生存は少しばかり邪魔に感じる。

だからロナには、エッシュとなるべく一緒にいるように伝えたし、エッシュには無理を言って、卒業後に教師として学園に残ってもらったんだから」

「……忘れてましたね?」

「うーん……仕掛け……火花はどうかな?

火の花……光る感じとか?」

王女よ……リリの言う通り、本当に忘れていたのか。

不自然すぎる話の切り替え方だな。

「姫様……もうロブール公子の事、気にするの止めましたね?

ロブール公子の言った通りになってて、ちょっとだけ、本当にちょっとだけ、気の毒かも……」

「そうだ、前に採取してた魔光苔でも培養しようか。

各属性の魔力をそれぞれ分けて与えれば、6色に光るし」

リリの事も気にするの止めたな。

多分、わざとだ。

「え?!

もしかして自分の魔力を与えて増殖させる気ですか?!」

そんな王女にリリが突如、驚いた声を上げた。

「昔、それで私と遊んで、小屋をピカピカ光らせた挙げ句、屋根に苔を増殖させたせいで、屋根を腐食させたの忘れたんですか?!」

王女よ、何をやって遊んでいた?!

俺もビックリだ!

「魔力を与えた苔の繁殖力を侮っちゃ駄目だってのは、覚えてるよ?」

「ちゃんと思い出して下さいね。

苔の根をこそぎ落とそうにも、魔力を与えた魔光苔の繁殖力が凄すぎて、落としたそばから生えてくるし。

ピカピカ光る屋根に気づいたニルティ公爵が、あまりにド派手すぎるのが気に入らないからって、ヴァミリアを派遣したから事なきを得たんですよ。

姫様の与えた魔力の濃度が濃すぎて、聖獣の火でないと繁殖を抑えられない苔とか、あり得ないですから。

扱いに気をつけないと、学園中がピカピカ光り続ける苔の無法地帯になっちゃいます!」

「うーん……てことはやっぱり火が必要かな……燃やす感じ」

「……学園が火事になっても……まあ、それならそれで、こんな学園なんて燃えてもいいか」

いや、良くない!

良いはずないだろう!

「少々燃えても、それはそれで……」

ん?

王女の足音が扉に近づいてきた?

__シャッ。

「大丈夫じゃない?」

カーテン、開いたな?

__ガチャリ。

「ところで君、久しぶりだね?」

扉が開いて、藍色に金環が浮かぶ瞳と目が合った。

「うわ、変態野郎……ん?

ロブール公子じゃ、ない?

ミハイル?

今頃、隣国から戻ってきた?」

ロブール公子ではあるんだが、確かにリリの知るソビエッシュ=ロブールではない。

「久しぶりだな、リリ。

俺は変態ではない。

たまたまここにいただけだ」

「キリッとした顔してるけど、上着の襟を木に引っ掛けて吊るされながら盗み聞きとか、やっぱり変態野郎だよ」

「久しぶりだね、ミハイル」

くっ、今は未来のロブール公子だとは絶対に名乗れない。

「王女、久しぶりだな。

少し前に、隣国から戻ってきたところだ」

ベランダの向こうから伸びていた太い木の枝。

そこに上着の襟を引っ掛け、ギリギリ爪先立ちで気配と音を殺して盗み聞きしていた俺は、平静を装って王女に挨拶をした。

何でこんな事になったのか、俺にはわからない。