軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

572.ナナコちゃん

「本当に連れてって良いんだな?」

まだ日が昇りきる前の時間帯。

少し霧がかった曇天の中、私に念を押すのはリャイェン。

腕には私の母親であるアシュリーを抱えている。

ロナ達と別れ、神殿に戻ったのは夜だった。

リャイェンに状況を説明してすぐ、アシュリーの事をリリに頼んだ。

頼んだ通りの時間に、アシュリーは私達が暮らしていた小屋から、リリが魔法具を使ってこの場所へ転移させた。

この魔法具は、ポチで動作と安全確認をして完成したばかり。

これから騎士団で、要人の万が一に備えた緊急避難用魔法具として運用されるだろう。

リャイェンのすぐ後ろには、昨日エッシュに頼んであった商船が停泊している。

船の上にはミハイルとラルフの姿がある。

私の魔力で随分と大きく育った卵は、ミハイルが抱えている。

卵は亜空間収納から出した。

ミハイルもラルフも、霧で霞む視界だろうに、私を気遣わしげに見つめている。

「うん。

卵とその人の事をよろしく。

君達が国に戻る頃には、全ての記憶が封じ終わって目を覚ますはずだ。

卵は……どうかな?

いつ孵化してもおかしくないから。

孵化したら、ピケルアーラと呼んであげて」

ロナとエッシュと別れた私は、エッシュに船を手配してもらってから、すぐに神殿に戻った。

『お父様もお祖父様も、何もしないと言っていました。

でも、お祖父様はもしかすると……』

別れ際、ロナが濁した言葉が気になる。

私の予定ではリャイェンの魔法抗体ができるのも、毒の特効薬ができるのも、数週間は先だった。

エナDはそもそも、できていなかったはず。

ミハイルとラルフ、それにポチも良い働きをしてくれた。

もし2人と1匹がいなければ、きっとチェリア家に宛てた手紙を出せたのは、早くても来月。

それならそれで、ロナ姉妹が手紙の存在を知る事もなかったかもしれないけど、こんなに手際良くエッシュが商船を手配してくれる事もなかった。

国王かスリアーダから私へ、秘密裏に治水工事を命じられ、リャイェン達流民は労働を強制されていたに違いない。

私は閃けば、大抵の物は思い通りに作る事ができる。

けどポチの働きが無ければ、エナDの閃きは生まれなかったと思う。

まだできていないエナDを当てにして、魔力に物を言わせ、特効薬を早く完成させる。

そうする事で国王やスリアーダ達の意表を突く。

そんな事、絶対に不可能だっただろうな。

「わかった。

この人は、もしかしてベルの……いや、それにしちゃ若すぎか?」

アシュリーは私がずっと仮死状態にしていたから、時間が止まっていた。

ここに来てすぐ、仮死状態を止めて起こした。

1度覚醒させてからでないと、確実に記憶を封印できない。

起きた時、アシュリーが昔のように錯乱状態にならないよう、私は姿を見せずに念話で会話した。

記憶を封じるのは、アシュリー自身も望んでくれた。

アシュリーは記憶を封じる前に、手紙を1通したためている。

「その人は、名無しのナナコちゃん。

ナナとでも……」

「うん、名前は国に戻ったら改めて考えるわ」

はて?

首を捻る。

わかりやすく、かつ事実を表す名前だと思ったのにな。

リャイェンが気の毒そうな目を私に向けてくる。

意味がわからない。

「と、とにかく世話になったな」

「こっちこそ、うちの国民が色々とごめんね」

改めて頭を下げる。

そもそもリャイェン達が流民となってしまったのは、ロベニア国の王妃であるスリアーダが元凶だ。

私も知ったのは先週くらいだけど、そこに触れると国際問題に発展しかねない。

もしリャイェン達がロベニア国に言及してくれば……うん、間違いなく証拠不十分のいちゃもんとして、ロベニア国が報復と見せかけて口封じで隣国を蹂躙しかねない。

リャイェンが私を、ロベニア国の王女だから信じられないと言った言葉は正しい。

それに、この国で噂されるように、私は性悪なんだろう。

真実は口にしない。

ただ、誤魔化して謝罪するだけ。

「よせ。

顔を上げろ。

今回の事がなくても、俺達の国は衰退してったはずだ。

その時には流民どころか、他国からはもっと蔑まれた存在になってたかもしれねえ。

けど、この国でベルに出会った。

ベルは俺達の国を立て直す糸口も、その方法も教えてくれた。

感謝してんだ」

アシュリーを片腕に抱え直し、リャイェンは私の顔を上げさせながら早口で喋る。

「それより心配なのはベル、お前だ。

なあ、お前も一緒に亡命しねえ?

俺が面倒見る」

「それは無理だよ。

後始末もしなきゃいけない。

その人だけじゃなく、私まで一緒に行くなら間違いなく国王が君達を討ちに出る。

それに今回の事で手を貸したエッシュも、ロブール家も沙汰が下るのを防げない」

アシュリーに執着する国王を、まずは止めなければならない。

エッシュの独断だからとロブール公爵が切り捨てる可能性もある。

けど、そもそも何でエッシュは船を動かせたんだろう?

この船はロブール公爵家の小型商船。

ギリギリだけど、流民達全員を運ぶにはこれくらいの大きは必要だった。

エッシュの独断で動かすにしても、ロブール公爵の許可なしで?

こんなに素早く、タイミング良く?

できるものかな?