軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

502.ベタベタなモブ役

「取り出せ」

ジャビが私の方を向いて命令する。

自分では取り出せないのだから仕方ない。

ラグちゃんが泉に聖獣の力を、これでもかというくらいにこめているもの。

悪魔が触れれば、怪我では済まないでしょうね。

愚か者は……あらあら、眠ったの?

とっても神経が図太いのね。

なんて思いながら、泉に手を触れる。

途端、泉の水が膨張したかのように膨れ上がり、ブワリと私を包む。

『ベルジャンヌ! ベル! どうして俺を置いていく!』

想いが、慟哭が 伝わる(聞こえる) 。

「ラグォンドル……」

私は、ベルジャンヌは、本当に後に遺した聖獣を悲しませていたのね。

あの時の私は自分1人が居なくなったくらいで、こんなにも聖獣達がつらい想いをするなんて考えもしていなかった。

いえ、そんな発想すらできなかったの。

忘れてくれるとどこかで思っていた。

「……ごめんね」

両手を前に出して水を圧縮して集め、抱擁するように抱き締める。

ラグォンドルが水に含ませた聖獣の力を吸収しながら、キラキラした細かな粒子に意識をやる。

悪魔の力を内包した昔の自分の一部だったもの。

聖獣の力の抜けた水は重力に従うように、バシャリと一気に下に落ちて周囲を水浸しにする。

「ああ、俺の欠片……」

歓喜に震う声で、ジャビは私の周囲を眺める。

私は宙に浮く煌めきの中から、今度はベルジャンヌの魔力を抜き取って吸収する。

残るのは赤黒く煌めく粒子。

『 何故(なにゆえ) 、お前など生まれた!

何故、捨て置くよう命じたのに、なおも生きておった!』

『私の、私だけの陛下だ!

お前の母親さえいなければ!』

『庶子が王太子を、この俺を差し置いて優秀だなどと!

許されるものか!』

『『『死ね!

ベルジャンヌ!』』』

あらあら、久々に 姦(かしま) し親子3人の声を聞いたわ。

私を取り囲むように宙に浮く悪魔の粒子は、宿す怨嗟を私に向かって吐き出す。

「さすがのお前も、かつての家族の怨嗟は聞くに堪え……何故そんな出来の悪い子共を緩く微笑ましく見守る、年寄り臭い顔を……」

「まあまあ、ついうっかり。

だって久々に聞くと、あまりの子供じみた当てつけと責任転嫁に呆れてしまったのだもの。

何だか若いわねぇ」

正直、前世で86年も生きていれば、人格を比較検証できるくらいには色々な人間を見たわ。

それに愛し、愛される喜びも知っている。

それも踏まえて3度目の人生ですもの。

「それに、ありがち。

芸がないわ」

「どういう意味だ」

「小説で頻繁に登場する、継子に寄ってたかって罵詈雑言を吐く定番中の定番、ベタベタな悪役、いえ、これは悪役に失礼ね。ベタベタなモブ役の台詞じゃない?」

とはいえ私も自分の書く小説のモブ役に、ベタベタな台詞を言わせていたわ。

「……小説の定番……ベタベタ……」

あらあら、ジャビの顔が引きつった?

体に拒絶反応でも発現したの?

まあまあ、突然のハッとした顔に変化したわ。

会わなかった長い時間の間に、随分と表情豊かな悪魔になっ……。

「お前もトワの小説を読んでいたのか」

「ハッ、まさかジャビ……」

「勘違いするな。

クリスタの記憶にトワの小説が存在……この国、大丈夫なのか。

並ぶ程の人気が?

衆道……今は薔薇と言うのか?

あの教会も……あの教皇は何を朗読して、何を布教しようとしているんだ。

破廉恥な」

まさか側妃は読者様?!

薔薇派ですって?!

しかも教会の朗読会に参加済み!?

腐教活動にハマッていたっぽいのだけれど?!

しかもジャビの頬がほんのり赤い?!

私に番えとか何たら、R18指定に抵触しかねない発言をしていたくせに、そこは照れちゃうの?!

「ふっ、ジャビ。

あれで破廉恥だなんて。

あなたもまだまだね」

けれど、そう。

市販されている小説も、腐教で使う朗読用の台本も、せいぜいがR15指定!

R18指定には及ばない!

「何故お前は勝ち誇ったような顔を……ゴホン。

ふん、危うくお前のペースに飲まれるところだったな」

いえ、意外な読者様に驚きつつ、素直な感想を伝えただけよ?

「さあ、俺の力の欠片よ!

主の元へ還ってこい!」

気を取り直したジャビは、かつて自分と1つだった力に干渉した。

赤黒い煌めきはザッと音を立ててジャビへと集まり、取り囲む。

さっき私が取りこんだように、ジャビもまた自分の力を吸収していった。

全て吸収し終わった時、側妃の物だった体中に巡っていた呪印がひときわ煌めき、一瞬で消えた。

ジャビが、悪魔が、完全に顕現した瞬間だった。