軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

436.料理本〜ミハイルside

「そう、今日も帰って来ないの。

結局、会えず仕舞いだったわね」

一昨日から俺と共に王都のロブール邸へ訪れた祖母が残念そうに藍色の瞳を落として微笑む。

妹は明日の文化祭に向け、どうやら数日前から離れにも戻っていないらしい。

仕方ない。

2年Dクラスは当初、パフェ店を出店企画として提出していたが、Aクラスと被ってしまった。

学園の決まりで学業優秀なAクラスから優先して決定されてしまう。

Dクラスが出店品目を決定したのは、冬休み開始直前。

特に文化祭の補助金が少ないクラスだから、自分達で材料を調達するのがDクラスのセオリーだ。

今年度の2年Dクラスの出店には、並々ならぬ数の集客が見込まれているから、食材調達が大変なのだろう。

冬休み前に販売される前売り券は、出店品目が決まっていないにも拘らず、2年Dクラスが断トツで即日完売となったのには驚いた。

何でも2年Dクラスの学生達がアルバイト先や訪問する孤児院に持ちこむ未知の食材や、調理法が商人達の噂となり、料理本が出れば即日完売。

これもあって期待値が高いらしい。

余談だが、執筆者は不明だ。

ジョンから妹と昔から仲良くしているロブール邸の料理長が、本を寄贈されたと喜んでいたと聞かされた。

破廉恥小説家は、破廉恥以外も題材にできたらしい。

挿絵は破廉恥本の趣きと異なる本格的な絵だったが、絵師が違うのか?

更にチーム腹ペコの野営キャンプを間近に見た引率冒険者。

そして腹ペコチームリーダーのとある学生冒険者が時折持参する弁当を見た冒険者。

彼らたっての願いで初心者向けキャンプ飯という本が、春頃に出ると料理長が浮足立って執事のジョンに耳打ちしたらしい。

破廉恥小説家(妹) よ、手広くやっているな。

そちらの方面に書くジャンルを変更しないだろうか……。

「私達が 本邸(ここ) へ訪れる事は伝えてあったのだろう?」

おっと、思わず兄として妹に想いを馳せすぎた。

どこか気分を害したような祖父の言葉で我に返る。

祖父からすれば、祖母を尊重していない行動に感じて不快に思ったのかもしれない。

先代とはいえ本来、四大公爵家の当主となっていた者への敬意は、公女であっても払うのが慣例だ。

「お祖父様、お祖母様。

Dクラスの中でも2学年は毎年、出店そのものの準備だけでなく、食材調達でも学園祭前からは忙しくしています」

「お嬢様も残念がってらっしゃいました。

代わりにですが、本日はお嬢様が育てた食材と調理方法で作った料理を出すよう申しつけられました。

こちらは明日の出店でも用いる予定の、アイスプラントという新種の植物の葉を使ったサラダです。

お嬢様自ら乾燥させた音波狼の翼を炭火で焼き、浸けて香ばしさだけでなく味に深みを感じるようになった食前酒も是非」

「新種の植物に……音波狼?

ラビアンジェが?

しかし食材としては……」

「ラビアンジェが使う食材や、ひと手間加えた料理も絶品ですよ。

全学年主任としてラビアンジェの料理を見たらしい、レジルス第1王子もわざわざ取り寄せたいと仰ってきたほどです。

是非」

本来、食材としては考えられない音波狼だ。

祖父が眉を顰めるのも仕方ない。

しかし口にすれば必ず美味いと感じると確信している。

ここでレジルスの名前を出すのは気が引けるが、 初恋の相手(妹) の為に使われるなら 初恋馬鹿(レジルス) も本望だろう。

「まあ、ラビアンジェが。

それも王子殿下が取り寄せたいと思われるくらい美味しいのね。

いただくわ。

ソビエッシュ様もいただきましょう?」

「まあ、お前がそう言うなら……」

それでも祖父から肯定的な言葉は引き出せなかったが、祖母が勧めれば予想通り口をつけた。

「このアイスプラントという葉は不思議な食感だが、悪くない。

オレンジベースのスッキリしたドレッシングにもよく合う」

「昔からソビエッシュ様は、このドレッシングがお好きですものね。

ローズマリーが後から香っているのも良いわ。

私達がこの邸を離れてから随分と時間が経って、使用人達も変わっているのに、好む味が伝わっていたのかしら?」

サラダを口にした途端、訝しげな顔が幾分和らいだ祖父と嬉しそうに微笑む祖母。

「いえ、こちらはお嬢様から渡されたレシピ通りに料理長が作りました。

お嬢様もお2人が好むとまでは知らなかったのではないでしょうか」

しかしジョンの説明が俺の中でひっかかる。