軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

361.フと腐と追い出し〜レジルスside

「萎縮するファルタン嬢に、餌を与えて行かせた」

「餌?」

ミハイルが眉を顰めるのも、無理はない。

どんな暗号めいた言葉で誘導したのかと考えていそうだ。

今こそ予習と復習の成果を、想い人の兄に伝える絶好の機会。

それに王族としての体面と後継の為、どうしても発生させるしかなかった王子 達(・) の婚約者候補。

そのせいで俺の公女への想いを疑われたが、それも挽回してやろう。

「ついでに腐を堪能してこいと言った」

「何故ドヤ顔なんだ」

「それだけではない。

特に暗がりや人気のない場所ほど、秘密は潜み、より深くなると意味深に伝えた。

妄想が、より一層の深みを増したはずだ。

慰め程度に、あの令嬢には必要とも思えん幻覚魔法をかけた。

元々の彼女の祝福の性質と相まって、それでほぼ全員が察知しなくなったはずだ。

大胆に行動して気の済むまで堪能し、ノートに色々と書きこめると言っておけば、満面の笑みで庭園から出て行ったぞ」

ミハイルよ、頬を引くつかせて動揺しているな。

ファルタン嬢を通して、俺が公女をここまで深く理解していた事に、感銘を受けたようだな。

兄としても、いくらか俺への警戒心が弛んでくれれば良いのだが。

「…………そうか……」

暫しの沈黙の後、どことなく諦観の様相を見せたミハイルは、掠れた声でそう言った。

どうやら俺の目論見は成功したのだろう。

その上まだお前の知識では、この領域に達していない。

そのまま俺の言葉を諦めたように、素直に受け入れるしかないのも頷ける。

「……また、フ……」

「そうだ、腐だ」

俺だって交ざりたかったのに、仲間外れを食らっていたんだ。

腐くらいは、次の為にも活用しておいて良いだろう。

「それで、この後はどうする?

どうせ何の証拠も出て来ないだろう。

離婚の手続きは、有り難くなくもないが、教皇直々に終わらせると言っていたからな。

あと少しで終わるはずだ。

そうなれば、証拠不十分で早々に俺達は教会から、追い出される。

1度追い出されれば、次にここへ立ち入るのは、ロブール公爵家当主の口添えやら、教会の許可やらが必要となって、時間が空いてしまうぞ。

後々問題にはなるが、やはり強行突破しか……」

「落ち着け」

いくらか表情を固くし、強行突破とやらを辞さない姿勢のミハイルに、待ったをかける。

気持ちはわかるがそれは悪手だし、そんな方法を取っても公女は隠されたままだ。

もちろん公女の真の実力に、赤い小生意気な亀鼠が多分、共にいる。

だいぶ姿を隠すのがの上手くなったから、成長を感じるが、まだまだだ。

公女の膨らんだ腹に、赤っぽい影が纏わりついていたのを見逃していないぞ。

とにかく公女の身は間違いなく安全だろう。

しかし消えた結界や、転移後の魔力残滓の無さからして、かなりの魔法の手練れが関わっている。

それに教皇の独特の魔力や、最近の教会の公女への執着と、ロブール公爵夫人の行方も気になる。

まだ詳しい報告は上がってきていないが、予想通りバシリスクの目撃が、前公爵夫妻の暮らす領の辺りで目撃されていた。

結局目撃情報のみで、その後の足取りは掴めていないのだが。

「それも既に手は打っている」

「どういう事……」

近づく気配を察知し、ミハイルに近寄って耳打ちした。

「証拠は見つかりましたか」

ミハイルが言い終わる前に、予想通りナックス神官が温室の入口で声をかけてきた。

ミハイルには目配せして、俺から先に温室を出る。

ミハイルも後に続き、神官の脇をすり抜けて先ほどの部屋へと向かう。

「今日はこのまま泊まる事を教皇に要求する」

「教皇猊下が許可されるようでしたら、あるいはそれも可能でしょう」

最後尾を歩く神官に聞こえるように伝えれば、彼は澄ました顔でそう答えた。

「ああ、許可してもらわねばな」

心にもない言葉を口にする。

許可など出るとは思っていない。

教皇の真の理由は未だ不明だが、公女の身柄を欲しているのには気づいている。

この絶好の機会を、あの得体の知れない男が見過ごすとは考えられない。

そうして発行された離縁手続きの完了証書を教皇はミハイルに渡し、渋る俺達は早々に教会から追い出された。

辺りは既に真っ暗だった。