軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

344.非常識〜ルシアナside

__バキン!

「ココ?!」

「ゲッ?!」

まず長く鋭い爪が折れる音。

蜥蜴が慌てるのはわかるけど、どうして護衛も慌ててた様子で、呻いて叔母へと向かう動きを止めるのか。

と思う間もなく、御者は顔を引き攣らせ、護衛するはずの叔母を見捨てて、踵を返した?

__バシャバシャバシャ!

「ゴゴゴギャギャギャー!」

「ギャー!!

だから馬車にいろって言ったんだー!!」

途端、蜥蜴の吐いた溶解液が、叔母にかかる前に不自然過ぎる動きで、逆流を見せた。

もちろんそれを吐き出した蜥蜴自身と、そのうしろの護衛は巻き添えで、液が襲う。

蜥蜴はそれを被って、悲鳴らしき叫び声を上げて、のたうつように、ゴロゴロと地面に転がる。

けど、護衛は間一髪でその場を逃げおおせた。

「ゼーハー、ゼーハー……に、二次被害反対!」

「そうね、まともに襲われるのも久しぶりだったから、ここまでになるとまでは思わなかったのよ」

肩で息をする護衛に無傷の叔母が、場違いなほど落ち着いた様子で答える。

どういう事なの?!

シエナも私の背後から身を乗り出して、状況を凝視し始める。

「こんなんだから、まともな逃走本能を兼ね備えた護衛が、見つからないんですよ!」

「グゴッ」

まともな逃走本能を、護衛が兼ね備えてていいわけ?!

と思ったところで、護衛が転がっていた蜥蜴の首を剣ではねた。

魔法で剣を強化していたにしても、随分と腕が良いのはわかる。

不意に、あの護衛と目が……。

合ったと思う間もなく、シエナが私の体を後ろに引く。

ブン、と剣圧が前髪を軽くかすめていく。

私はバランスを崩してそのまま後ろに落ちる。

「ひっ」

小さく悲鳴を上げて、ドサリと落ちた。

けれど地面が、柔らかい?

「はあ?!

何でスライムが?!

しかも色も違うし、デカい!」

御者の素っ頓狂な声に、目を開ければ、どこにでもいそうだけれど、大きさだけは簡素なベッドくらいのサイズの、鈍色のスライムだった。

シエナがスッと指輪に吸いこまれるように戻っていく。

スライムを呼んでくれたのは、シエナだったのね。

御者が警戒したように距離をとったのは、きっと私を串刺しにしようと地面から尖った岩を向けて出したそれを、スライムが弾き潰したから。

本来なら、岩がスライムにささり、核を傷つけて死んでしまう。

それくらい、スライムは最弱の魔獣だもの。

特殊なスライムなら、叔母を下敷きにして、今度こそ殺せるかもしれない!

そのまま指輪を通して、意志を伝えれば、スライムは私を落とさないように弾けるように跳ねて、叔母を頭上から圧し潰す。

と、思ったのに……、

「ちょっと!

その非常識な現象は何なの?!」

叔母はまるで自分が杭になったかのように、スライムを突き破っている?!

それにスライムの命の根源のような、核がちょうど真上だったのか、頭で押し出したようにして、飛ばした?!

「まあ、ルシアナ。

会いに来てくれたのね。

そうだわ!

ちょうど出かけるところだったから、一緒に出かけましょう?」

「アンタ誰だよ!

夫人も!

その状態でお出かけのお誘いとか、何でやってんですか!

下がって下さい!

そいつ、変なの連れてたし、めっちゃ殺意振りまいてますよ!」

公爵夫人たる私に失礼な物言いだけれど、どうしてだかこの御者の主張の方が正しいと思ってしまうくらい、叔母の非常識さには愕然としてしまうわ!

あの顔も、人を食ったような物言いも、全てがあの出来損ないに思えてきて、沸々と怒りが溢れる。

「まあ、彼女は息子の妻で、私の姪なのよ?」

「いやいや、さっきどう見たって後ろに禍々しいのくっつけて、殺意まみれで夫人を殺そうとスライムに乗っかって跳んできてたじゃないですか!

しかもさっきからこっちはずっと魔獣に襲われてんですよ!

どう考えたって、操ってんでしょうよ!

自分は大抵の攻撃は弾くからって、危機感置いてきぼりにすんの止めてくれません?!

絶対、夫人を殺すつもりで来てるんですって!」

「そんな事あるわけないでしょう。

ね、ルシアナ……ルシアナ?」

ああ、怒りが治まらない。

出来損ないに似たこの女が、私の母を殺したこの女が、私を歯牙にもかけていないこの女が、とにかく憎い。

今ならスライムに突き刺さって、肩口から上だけが出ていて、身動きが取れていない。

「死ね!」

叔母の出ている部分に向かって火炎放射を繰り出そうと、指輪にありったけの魔力をこめた。