軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

274.時は戻りあの時男子寮でのラビは(後編)

「ご、ごめんなさい!

俺が悪かった!

だから、だから……」

あら、またしがみつかれたわ。

そういえば、孫が小さい頃は時々こうやって足にしがみついてきたのよね。

60代まではそのまま歩いて楽しませてあげていたのよ。

もちろんワンコ君を孫みたいに可愛らしいとは思わないけれど。

「ええ、ちゃんとその体で払う物を払って私を満足させてくれれば問題ありませんわ。

もちろんその間の衣食住もご自分で稼いで支払うようになりましてよ。

ただしお仕事についてはちゃんと斡旋しますが、私が思う技術を身につけられなければ……ね」

私専属のイラストレーターとしてしっかり働いてもらうわ。

いつかコミカライズを手がけられるくらいになれば最高ね!

まずは挿し絵とポストカードからよ!

「しし、仕事……ど、んな……」

「ふふふ、まずは練習からしていただかなければなりませんけれど、必要な素材は器具も含めて既に用意してありますの」

「器具?!」

そうなのよ!

この為に大小や幅狭幅広の各種サイズのペンに筆に墨にと寝ずに色々作ってきたんだから!

「ええ。

それを使って主に後ろ側の世界観を広げて頂く必要がありますね」

「……後ろ側?」

怯えつつ怪訝そうな顔をしちゃうのもわかるわ!

ワンコ君は人物は得意でも背景や装飾、陰影の表現はからっきしでしょうから。

「安心なさって。

命の危険とは無縁の世界でのお仕事ですから、慣れれば騎士の訓練よりずっと体は楽でしてよ。

精神的には……どうかしら?」

締め切り前は精神的に殺られるっていうものね。

それにこれから缶詰めを体験してもらうし。

もちろん命のやり取りにはならないけれど。

「そういうのはガルフィさんが得意ですのよ。

それとこれ」

ガルフィさんの絵は絵画としては売り物レベルなの。

デッサン能力はピカイチよ。

でも求めているのは漫画やアニメ的な手法なの。

私がお手本を見せようと描いてみても、ドン引きされるだけで理解されなかったのよ。

持っていたワンコノートをオネエ様にも見てもらう。

「そ、れ……え……それ……」

そうね、勝手に拝借しちゃっていたのよね。

でももう彼の保護者権限は私に移行したから大目に見てちょうだい。

特訓の間も少しだけお給金を発生させるからそれで手を打って貰うようにしましょうか。

「これは……なるほどねえ。

確かにこれは私に難しいかも」

「ええ、ガルフィさんは本格的ですもの。

けれどそれこそが私の望んでいる世界観。

現実味よりも妄想をかき立てる、主にそうした顔が欲しいの。

そのノートの世界観を確立させつつ、ガルフィさんが得意な奥行きと影の表現力を伝授させてくれれば最強でしょう?」

「そうね。

そこを確立できれば……」

「売れてガッポリ!」

ガシッと力強く空中で腕相撲でもしているかのように手を組み、頷き合うわ。

ふふふ、この世界の小説に挿し絵はないものね。

売れちゃうわよ。

あら、やっと離れて……どうしてズリズリお尻歩きで後退しながらそんなに怯えているの?

「お、おおおおお俺は……売られる、のか?」

「売るのはあなたでは無くて、あなたがこれから身につけるだろう手技でしてよ」

「しゅ、手技?!」

背景の描き方、ベタ塗り、トーン張り。

他にも色々あるわ。

「ひとまずこれからアトリエに行って、暫くは色々特訓していただくわ。

何をするにしても、ガルフィさんの指示に従うようになさって。

ああ、それから……」

忘れていたけれどワンコ君は一応騎士見習いだったもの。

反抗的なだけならまだしも、万が一ガルフィさんやユストさんに怪我をさせてはいけないわね。

まあユストさんはともかく、カルフィさんは王家の影だけあって負けないと思うけれど、それはそれで今度はワンコ君を反射的に反撃して抹殺されては困るし。

近づいて、人差し指をそっと右肩に当てて、再び紋をつける。

「ひ、ひぃ、ひぃぃぃぃ!

や、止めてくれぇ!!」

「元通りにしておきましたわ」

元通りだけれど、今回のは他人に危害さえ加えようとしなければ何も起こらないわ。

まあまあ、寝ちゃったの?

そうね、アトリエについてから集中してもらう為にも今は寝ていた方がいいわね。