軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

264.流し切る〜レジルスside

「何用だ?」

すっと女官の前を塞ぐ。

この者は確か側妃付きの者ではないだろうか?

あの妃の傍に侍っているのを何度か見た。

「いえ、殿下ではなく、ロブール公女にお話が」

「私ですの?

何用かしら?」

「側妃殿下がお連れせよと。

お話はその時に」

「そう。

ではお断りしてちょうだい」

「はっ?!

側妃殿下がお呼びなのですよ?!」

まるで素直に従うのが当然とばかりの女官に涼しい微笑みで平然と答える。

「ええ。

正式なものではありませんでしょう」

「失礼ながら!」

しかし女官も引き下がらない。

ずいっと一歩進み、俺の前で横に一歩体をずらして公女に向き合う。

「何かしら?」

しかし公女は確かに失礼でしかない女官へのほほんと返事をして、背に庇おうとした俺をそっと手で制した。

「長年の招集にも城に訪れず、口を開けば幼少の見切りにジョシュア殿下との口約束を盾に1度も城へ訪れず。

こうして私用ではいらしていながら、仮にも側妃殿下の申し出すら迷う素振りもなく断られる。

元とはいえ婚約者であらせられたにも関わらず、体調不良により療養される殿下を気にかける手紙の1つも寄越さずじまい。

四大侯爵家の公女とはいえ、不敬が過ぎませんか」

「あらあら、左様ですの?」

「なっ……左様です!」

無茶苦茶な言いがかりだ。

挙げ句に流そうとした公女に噛みつく勢いで返事を返した。

「そうなのね。

それで、お話しはお仕舞い?」

「どういう意味です?!」

「気は済みまして?」

「ロブール公女!」

「まあまあ、大声を上げてどうされたの?」

「くっ……とにかく、本日こそ1度お会いいただきたい!」

「そう。

お断りよ」

しかしそれでも公女は受け流す。

「側妃殿下がお呼びだと申し上げているのですよ?!」

「左様ね。

それで?」

「そ、それ?!」

とうとう予想外の返答に目を白黒させ始めたぞ。

「不敬は お(・) 前(・) の方よ。

四大公爵家の1つ、ロブール公爵家を侮っているという事かしら?

側妃付きなのでしょうけれど、とはいえお前は一介の女官。

そして私は公女。

そして更に私は城の外の人間よ。

城でのお前の立場は私には通じない。

お前の外での身分は?」

「そ、それは……」

確か侯爵令嬢ではなかっただろうか。

20代後半で、嫁ぐより側妃付きの女官が良いと独身を貫いている、 所謂(いわゆる) 側妃信者だ。

あの宮で働く者には側妃を盲目的に敬愛する者が一定数いる。

「同じ公女か、幾らかある公爵家の 当主(・) であるならばまだ許されるでしょうけれど、少なくとも突然の誘いに長年婚約者である私を虐げ、貶めた元婚約者に義理を通せとはどういう意図を持つのかわかっての発言?」

「虐げる、など……」

「あえて表沙汰にしていない暴力を立証する学園の証言と他ならぬ診断書をもって表沙汰にし、責任の所在を追求させたいと、そう言うつもり?」

「そんな……ジョシュア様が……暴力?」

あの時保健医として俺が書いた診断書だな。

まさかのここで活用されたか。

やんわりとした口調ながら言葉は鋭利だ。

母親である側妃は息子の仕出かした事は把握しているはずだが、筆頭女官以外にはわざわざ伝えたりはしなかったようだ。

側妃宮以外の者ならばあの異母弟の婚約者への実態は既に広まっているが、最も身近な身内だからか、信者だからこそ正確な情報を把握できていないのだろう。

「大して現実を知る立場でない者がしゃしゃり出る程に、側妃殿下付きの女官は品性がないと?」

「ち、違います!」

公女は相変わらず微笑んでいるが、どこか冷たさを感じさせる笑みだ。

女官もたじろいで、否定の言葉は悲鳴に近い。

「それは良かったわ。

そうよね、違うわよね。

ちょっとした感情の行き違い。

それだけよね。

ただね、私はこれから暫く忙しくするし、その程度の事で時間をうまく使えない無能者なの。

そうでなければD組で赤点すれすれの成績なんて残さないわ」

「へ……赤点、すれ……え……」

「側妃殿下もまさか学生の本分を阻害してまで、もうなんの関係も無くなった息子のポンコツ元婚約者なんて呼ばないでしょうから、あなたの方からそう伝えてちょうだいね」

一気に雰囲気を和らげ、手慣れた様子で自らを下げ、戸惑う女官の尖っていた言動を流し切った。