軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

聖女の派遣4

まあ、勝負はね。

白熱していましたよ。ええ。

また舌戦が。

なにしろ一応戦ってはいるのだろうけれど、とにかくレクトールのあの早い攻撃が神父様に当たらないのだ。全てひらりと避けられる。

だけど神父様の攻撃も当たらない。レクトールもことごとく避けるから。

睨み合っては素早く絡みかけ、そしてすぐ離れては睨み合う。

そしてそんな合間で私にはまた、二人の会話がロロを通して聞こえてきていたのだった。

「いやはや早いのう。さすが将軍様じゃの。でものう、このまま続けたら、まるで年寄りを偉そうな若者がいじめているように見えんかのう? いいのかのう? 天下の将軍が弱い者いじめ? おお嘆かわしい。おおっと、年のせいで足元がよろける~」

「またまた、何をおっしゃっているのやら。その攻撃と身のこなし、いったいどこがお年寄りというのでしょうか。並みの兵士よりずうっとお強いのですから、弱い者いじめになど全く見えませんよ」

などとやっぱりちまちまと口で攻撃しあっている二人。なんなの、コレ前にも見たぞ。もしやこの国の戦い方なのかそれ……。

でも今回は前回と違ってレクトールが剣と口で攻撃しつつ、同時に「魅了」を派手にばら撒いてギャラリーを味方につけ、さらには神父様をも取り込もうとしているのが視えるのだった。

そのせいで私の目には、レクトールが場の中央で光り輝いていて……もうそれはそれはキラッキラしているぞ……。

だけれど神父様もその「魅了」には惑わされないばかりか、それに対抗するように必要以上に「年寄りくさいヨボヨボした動作」を意図的に入れてギャラリーに「お年寄り」アピールを忘れないのだった。もうレクトールと少しでも距離が出来ると、とたんにヨボヨボし出すのが面白い。

キラキラとヨボヨボの戦い、って、なんなのこれ……。

見た目にはものすごく魅力的な素晴らしい男性が、弱々しそうなお年寄りと戦って……?

いや。

うん、やっぱり茶番だね。

だってどうせここに居る人たちは全員この城の人たちなのだからレクトールの王族オーラも「魅了」もある程度慣れているし、神父様だって本当は全然ヨボヨボなんてしていないということも知っているはず。なにしろ神父様、第一部の優勝者だからね? だから今優勝決定戦に出ているのよ?

なのにこれ、ずっと続くのかしらん?

などと内心呆れて眺めていたら。

しかしそこには体力の差があったのだった。

神父さまに疲労の黒い影が差し始めた。

このまま続けば神父様の体力が先に尽きて、いつかはレクトールの攻撃が当たるだろうな、そう思い始めたころ。

言い出したのは神父様だった。

「そうじゃのう、君もたかが一般人のワシに負けて恥をかきたくはないよのう? どうじゃ、ワシに優勝賞品をくれるなら、ワシの負けにしておいてあげてもいいんじゃよ? ワシは名誉なんていらん、優勝賞品が欲しいだけじゃし?」

と、にやり。

「おや、お心遣い感謝します。でもそろそろお疲れですよね? 私はまだまだ元気ですから、このままきっと私が勝つでしょう。ですから私にそんなお心遣いは無用ですよ」

キラキラキラ。

「そうかの? でもワシ、負けないんじゃよ? 何しろ『加護』があるでの? ワシが負けないと決めたなら、ワシは絶対に負けないんじゃよ? たとえば今まで見てきた中だと、そうじゃな。いきなり相手に雷が落ちたり、相手の親兄弟や恋人が割り込んできて危険になったり、持病が再発したり魔獣が襲ってきたりしての? 相手が勝負を投げざるを得なくなることが多かったかのう。なんだかんだと相手が勝手に窮地に陥ってくれるんじゃ。でも君はそんな姿をここでさらしたくはないじゃろう?」

そして再びにやり。

って、なんだそれ。「加護」の力って、どれだけなんだ。

それが本当なら神父様、無敵じゃないか。誰も、勝てない。うわ……つよ……。

そしてどうやらレクトールも、そう理解したらしかった。相変わらずだけれど、判断早いな。

レクトールはピクリと険しい目をした後に、言った。

「……わかりました。そういうことでしたら、お互いこれ以上むやみに体力を消耗することもないでしょう」

そうして勝負は決まったのだった。

とたんに脱力してヨボヨボし始める神父様。

そして両手を挙げて、

「まいった! ワシャ疲れた! もう戦えん。君は強いな!」

とギャラリーにも聞こえるように大きな声で宣言し、それを見たレクトールも剣を仕舞いつつ、

「オースティン殿、とても素晴らしい戦いでした。ご老体とは思えない素晴らしい技と動きです。あなたのその素晴らしい技に敬意を表して、私の優勝賞品である『希望を一つかなえる権利』はあなたにお譲りしましょう」

と、よそ行きの極上の笑顔で言ったのだった。

キラキラキラ~。

レクトールからあふれ出す王族オーラ。

そしてレクトールに怒涛のキラキラで「魅了」されていたギャラリーも、

「おおおおー! さすが将軍、器が大きい!」

とやんやの喝采を送ったのだった――

……という茶番がね、あったのですよ。つい最近。

だからそういや神父様、持っていたね「レクトール将軍が何でも願いを叶えてくれる権利」。

でもこんなことに使ってしまってよかったのかしらん? 取っておかなくてもいいの?

と思ったのだけれど。

「ふぉっふぉっふぉ~楽しみじゃのう~~王族の野営~~」

と、神父様はしごくご満悦なので、きっといいのだろう。

そして神父様が獲得した便利な権利は、「王族の野営を体験する権利」になったのでした。

ただし!

私もそのままレクトールを放って行くことはどうしてもしたくなかったので、散々悩んだ末に、私は神父さまの代わりにロロを置いていくことにしたのだった。

だって他にあのシナリオから外れている人? 猫? はいなかったから。

それにとっても強いらしいし?

ロロが守ってくれたなら、とりあえず「外敵」や「事故」の心配はほぼなくなるのではないか。

レクトールはもちろん私にロロも連れて行くようにと言ったのだけれど、そこはロロは私の魔獣だからね。

「じゃあロロ、私がここに帰ってくるまでの間、私のかわりにレクトールをあらゆる危険から守ってちょうだい!」

私がそう華麗に命令をすれば。

「にゃあ……」

『えーそれが主の命令なら、しょーがないわねーー』

と、渋々ながらも決まったのだった。

って、ええ、渋々……? まあいいか。

でもちょっと不安になったので、私は自分の寝室に入ってからも、あらためてロロに真剣に言い含めたのだった。

「いい? 絶対に彼から離れないで。そして寝たりして油断もしちゃダメよ? いつ何が起こるかわからないんだから、常にレクトールを見張って彼が危なくなるようなことは全部阻止してね? 本当に寝ちゃダメだからね?」

「にゃーん」

『大丈夫よ~命令は守るから~。でも主は私がいた方がいいんじゃないの~? 私に乗ったら、きっと一日もかからないであっちに行けるわよ~?』

ん? 「乗る」?

こんな小さな子猫に? どうやって?

それ、たとえ無理やり「乗った」としても、虐待している図にしか見えないんだけれど……?

「にゃーんん~」

『乗せられるわよ~今までやったことはないけど、主ならやってあげる~大丈夫~ちゃんと振り落とさないように気を付けるから~』

と、自信満々に、どうにも理解不能なことを言っているのですが……うん、やっぱり想像ができないぞ。

「大丈夫」なんだーへえ?

まあ絵面はどうであれ、もし乗れるなら便利なのかもしれないね。でもそれ、「聖女」がやったらまずくないのかな?

お供も連れずに「黒猫に乗って野を駆ける聖女」?

え、それ、「魔女」の間違いではないんですかね?

今、「虐待聖女」とか「猫乗り聖女」とか、嬉しくないあだ名がつく未来が見えたぞ?

さすがにちょっと、破天荒な聖女として有名になるのは勘弁して欲しい。

それに下手をすると「聖女」ではなくて「魔女」と呼ばれて魔女狩りとか……うわ絶対に嫌……。

なので、やっぱり私は大人しく馬車で行ったほうがいいと思う。

雪が降る前に帰れるのなら、その方がきっと将来良かったと思うに違いない。

だから、ロロには彼を守って欲しい。

「んなー」

『でも本来は私はあいつにそんな義理はないのよー』

それはあくまで私の魔獣だとの主張でしょうか、それとも置いて行かれることへの抗議でしょうか。

あまり嬉しそうではない様子だけれど。

「いやまあ、それは私からのお願いということで、なんとか……」

しょうがないので私は周りに人がいないかどうか見回して、部屋に一人であることを確認した。

「アリス、ちょっと耳を塞いでいて?」

そして影の存在も忘れないぞ。

そして私は小声でロロに言ったのだった。

「ロロ、彼は私の一番大切な人なの。もし彼に何かあったらきっと私は悲しくて、この先一生をずうっと後悔して泣きながら生きることになると思うの。だから、私のためだと思って、どうか彼を守ってちょうだい?」

「んーにゃ?」

『ふうん、ではあれが主の番なの?』

番とは、なかなか重い単語だね。

でも魔獣の世界では夫婦ではなくて番になるのか。なるほど。

まあ、そういう理解がされたのだったら、それでいいか。

「そう。少なくとも私はそう思ってる。だから、彼を守ってくれる?」

「にゃー」

『わかったー。それなら仕方がないにゃ』

そしてやっと私は出発することにしたのだった。