軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

闘技大会7

犯人たちは、そろって服毒死しているのが発見されたのだった。

ロロが言うには追いつかれそうになった時に、どうやら用意してあった毒を飲んだようだとのことだった。なんだか、やたらと準備が良くて驚くね。

そしてその犯人たちは、普段商取引でこの城に出入りしている商人ということだったが、どうやらその弓とナイフの腕前からして本当の職業は商人ではないだろうという話になった。要はプロだ。暗殺の。

狙い通りに遠くから真っ直ぐに、そして高速で暗器を飛ばす魔術。

ねえそれ、暗殺以外の何に役に立つのかな? あ、狩りとか?

…………。

ちなみに暗器についていた毒は、ファーグロウには昔からある即効性と強力さで有名な毒らしい。強力なのだが見た目ですぐバレるので、今回のように飛び道具で主に使われるとのこと。つまりは伝統的なファーグロウの暗殺手法ということになる。作るのにやたらと手間がかかる上にずいぶん高価であること以外には特徴らしい特徴もなく、犯人死亡の今、何もわからずに終わりそうだ。

ちなみに私に向かって飛んできたナイフにもしっかり同じものが塗ってあった。

と、いうことは。

私はただの囮でもレクトールの気を引くためのちょっとしたちょっかいでもなく、正しく私も暗殺対象だったということだ。

おおう、殺す気満々だったよ。

もし私がナイフを避けきれずにあの毒にやられて、その上治療にも時間が取られてしまっていたら、レクトールへの処置が遅れていたかもしれなかった。そう考えたら、ロロを通してナイフを察知できたのは不幸中の幸いといえるだろう。

残念ながら、さすがに影のアリスも間一髪間に合わなかったらしく後から涙声で謝られたけれど、いやあれ多分、人間の感覚では無理だったと思うよ?

私だってロロを通して感知したのはまだナイフが随分遠くにある時だった。それもたとえ私がその方向に目を凝らしていたとしても、きっとまだ見えなかっただろうというくらいには遠くだ。そしてあの時、それで避けるのがギリギリだった。

むしろアリスが反応出来ただけすごいのでは。さすがプロ。

ただロロも後に、

「にゃーん」

『ちゃーんと私が守ったわよう、主なんだし?』

と、尻尾をフリフリウネウネさせながら言ってくれたのだった。さすが魔獣、なんて心強い。

だけどロロさん、その様子では尻尾ではたき落とすつもりだったね? 本体を動かす気はなかったね? 毒ナイフ相手に丈夫な尻尾だね……。

「犯人二人はどちらも商人として数年前からこの城に出入りしていましたから顔も広く信用もあり、今回もすんなり入れてしまったようです。ただずいぶんと早い段階で二人ともが自殺しているので、暗示で操られていた可能性があります。ただしその場合でもいつから暗示がかかっていたのか、誰がかけたのか等は今となってはわかりません。当日限定で耐暗示の「聖女の加護」が解除されていたため、前にかけられていた暗示が再発動した可能性もあります。ただ状況から、いつでも実行に移せるように周到な準備はしていたようですね」

との、執務室でのテイマーのガーウィンさんの報告であった。

今日は蛇が腕に巻きついて、頭には雀、そして肩にはフクロウが止まっている。爪が肩に食い込んでいてちょっと痛そうだ。

「ホッホウ……」

とフクロウが、ガーウィンさんに合いの手を入れるように一声鳴いた。

しかしそれが本当なら、黒幕はヒメではない。何故ならヒメは、そんな何年も前からの仕込みはできないのだから。

と、いうことは……。

「せっかく『聖女の加護』を解くのだから、何か動きがある可能性は考えていたが、原始的な飛び道具だったのは意外だったな。もう少しスマートな方法を警戒していたよ。それに暗器が城内に持ち込まれたのは問題だ。警備体制を急いで見直せ」

苦々しい顔をしてレクトールが言った。

ん?

「はい? 考えて……?」

「ああ、せっかくこちらの防御を一部解くんだ。しかもそれを公表したなら、何か動きがあってもおかしくはないだろう? 丁度よい炙り出しの機会だ。だからジュバンスと何かあるなら一番可能性が高いのは決勝戦だろうと、最初しばらくは戦いながら周辺の人や魔力の動きを探っていたんだが」

って……。

だからだらだらと、あんな軽口をたたきながら戦っていたんですか? あの前半は、手抜きだったと?

すると副将軍も、

「さすがに直接飛び道具で暗殺してくる可能性よりかは、魔術で罠を張るとか人を取り込んだりするようなみみっちい方を警戒していたんだが。くっそう、俺も甘いな。直前まで犯人たちも全く不自然な動きはしていなかったから、まあ間違いなくプロだな。犯行は一瞬だった。これでも一応情報が漏れても手の込んだ準備が出来ないように開催を急いだはずだったんだが、さすがに出入りの商人には準備の関係で早めに言う必要があったからなあ」

と、苦い顔で言ったのだった。

「まあ、将軍である私はともかく聖女を殺したい人物など限られているから、だいたい犯人の当たりはつくがな。しかし相変わらず証拠が何もない。今あの犯人たちの周りを探らせているが、まあ何も出ないだろうな。あの時副将軍が『気弱なご長男』なんて言うから、怒ったんじゃないか?」

「馬鹿言え。距離を考えろ。それにたとえギャラリーにいたとしてもちゃんと聞こえない声量だったじゃねえか」

まあロロには聞こえていたけれどね。

今、全員の脳裏に浮かんでいる黒幕は同じ人なんだろうなあ。

息子はもうとっくに成人しているはずなのに、ほんと物騒な人だな。

しかもその目が、今回は私にも向けられたのだ。

それはつまり、私が消しておいた方がお得な人間としてあちらに判断されたということ。

うへえ……。

なんだか私、ここにきて初めて本格的に王族の仲間入りを果たした気分だぞ。

少なくとも私はモブとして、得体の知れない、だけど取るに足らないただのレクトールの近くでウロウロしている人間ではなくなってしまったらしい。

そうでなくてもあの一件以来、

「さすが聖女様です! 必死にご主人の所に駆けつける姿に心を打たれました! そしてあの強力で有名な毒を一瞬で無効にするなんて、なんと素晴らしい! これこそまさしく神の御技!」

などとこの城の各方面からお褒めのお言葉をいただき、心なしか前よりチヤホヤされるようになった気がするのだ。

もう今は私も普段通りの地味な恰好なのに、最近はそんな私の事をうっとりと見る人たちも出てきてしまって、なんというか、非常に戸惑っている。

あの「聖女」らしい装いと冠、そしてその恰好での派手なパフォーマンスがよほど印象的だったのか。

私の能力的なものは前から何一つ変わっていないし、そもそもがオリグロウに居た頃からの初志というか当初からのお仕事を遂行しただけなのだけれど、まあうん、認められるというのはこういうことなのかとしみじみ思う今日この頃。

それに結果的には、最初にレクトールが偽装結婚を提案した時の話通りに私は妻として真っ直ぐに彼の所まで駆けつけられて、そしてそのおかげで間に合ったので良かったのだろう。

何事も準備と心構えは念には念を入れよということだね。

あの提案を受けたときには、さすがにまさかと思っていたのにね。

本当に。

あの最初の時はまだ、まさかこの若くて健康なレクトールがこんなに死にやすい人だとは全く思っていなかったよね。

この夫(仮)、これで何回死にかけた?

なんだかんだと本人や護衛や影や私の努力の成果で大したことにはなっていないとはいえ、一歩間違えたら危険な状況が今まで、どれだけあった?

今思えば「極秘任務中」とか言って敵国にいた時の方が平和だったのでは?

ちょっと。

この人なんでこんなに物騒な人生なの。

そして今や、私も完全に巻き込まれてしまっている気がするぞ?

おかしいな、最初に計画したときは、こっそり救ってちゃっかり恩を売る「だけ」のはずだったのだけれどな。

しかも最初の計画では、救うのは一回だけのつもりだったのだけれどな?

この将軍が生き延びて無事に春を迎える、それがなんでこんなに難しいんだ。そしてなんでこんなに私が忙しいんだ!

なんでこんなことを計画してしまったんだ……。

今回のこれで全てが終わりには……ならない気がする……。

……あれ?

ということはこの人、まさか目標だった春が過ぎても、また殺されそうになるのでは……?

え、ちょっとやめて?

この人、この先私がいなくなってもちゃんと自力で生き残れるの……?

もしも私と離婚して、物理的に距離が離れたらもう私はすぐには救ってあげられないのよ?

でも万が一この人が死んでしまったら、この先私は安心してポーション屋さんとしての平穏な人生なんて、続けられるのか……?

今さら「第五王子レクトール将軍」の権力と工作と保護を無くしたとして、この先自力で国の聖女保護政策をすり抜け、「聖女」を利用しようとする人たちからもヒメからも一生逃げ続け……。

いや無理でしょ。全く出来る気がしないよ。だいたいそんなの「平穏な生活」とは程遠い、ただの逃亡生活じゃないか。

しかも、なんで最初に抜け出そうとした逃亡生活よりも酷い状況になっているんだよ!

ということは、そんなことにならないために、私はもうこの将軍をずっと死なないように見張っ――

え……?

離れ……られ、な……い……?

え、これ私、詰んでる……?

え?

…………え?