軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

家紋付きの馬車2

って、満面の笑みで言われても。

「はい? 王子!?」

王子がなんで将軍なんてやっているの!? 戦地に送っていいの!?

あ、でも第五……えっと、ノブレス・オブリージュとかいうやつ……?

ええ、そんな地位の人が軽々しく結婚とか、しかもあんな地味婚とかしちゃいけないんじゃあないの……?

私がぽかんと口をあけて驚いていたら、神父様が言った。

「アニス……ファーグロウは金持ちなんじゃよ。それはもう、しょっちゅうあちこちに戦争を仕掛けているオリグロウなんかより遙かにのう。オリグロウは国全体が貧しいじゃろ? ってああアニスはオリグロウしか見ていないのじゃな。あの国は上層部に無能が多くてのう。国王が一人で頑張っている国なんじゃ」

「あ、ああ……わかるわー無能ばかりだわー知ってる」

少なくとも上層部の息子達の状態なら知っているわー。息子達があれなら、親も同類といった感じなんだろう。

「今回王子も会えたから鑑定できたが、あいつも王の器としては少々心許ない内容だったな。国政に役立つスキルがほとんどない男だった。今のオリグロウ王が没したら、あの国の未来は今のところあの偽『聖女』が『魅了』と『鑑定』で補助して回すしかないだろうな」

「じゃが彼女はファーグロウの王族入りを狙っているようじゃないかね。なかなか野心の大きなお嬢さんだ、ふぉっふぉっふぉ」

「王太子ではないのに、なんで私なんだろう?」

「そりゃあクーデターとか兄王子たちの暗殺とか、いろいろ手はあるじゃろうて。ああいう女は怖いんじゃぞ? 自分の利のためには何でもする女というのは、発想も手段もぶっ飛んでいる時があるからのう」

「なるほどー」

しかしそこで何故懐かしそうにしているんですかね、神父様。

「アニス……まさか君もそれを狙って何も知らないふりをしていたわけではないんだよね?」

大げさに怯えたようにレックが言うが。

「ええ? そんなわけないでしょう。知っていたらもっと抵抗していましたよ。王族とか何ですかそれ。まさか離婚するときに国民にやんや言われたりはしないでしょうね。怖いから離婚するときは全国民が納得するような理由を作ってくださいね。じゃないとその後の私の生活に影響するじゃないですか。って、ああ! 私のバツイチが知れ渡ってしまうのか! どうなのそれ! ぜんぜん再スタートにならない気がする!」

私は頭を抱えた。もしや私は一生「王子に捨てられた女」として生きていくのか!?

それはちょっと嫌なんですけれど……!

「いや、そもそも離婚しなければいいんじゃ――」

「ああ! わかった! よし! 国民にはこの結婚の発表はしないでおきましょう。ねっ? その方があなたもいつか誰かと再婚するときに国民がきっと気持ちよく祝福してくれるから! せっかくのイケメンなんだから、過去の失敗なんて知られない方がいいよね? だから、内緒にしましょう。うん、それがいい。要は私があなたの近くに待機できればいいんだから、周りの人たちにだけこっそり言えばいいんだよ。どうせ春には白紙になるんだし!」

それが一番無難かつ有益な策に思えた。いいじゃないか。こっそり結婚してこっそり離婚。きっとそれは彼の、若気の至り。

そんなに宣伝することじゃあないよねー。

「いや、僕は必ず離婚するとは言ってな……」

「でもするでしょ? あなたもせっかくそんなイケメンで地位も身分も高いのなら、一生こんな地味顔の生まれてこのかたずっと庶民の女なんかと一生一緒にいる必要はないのよ。王子様なんだったらどこかのお育ちの良い金持ちの貴族の美人さんとか、もしかしたら他国の跡継ぎの姫の王配とか、いろんな輝かしい未来があるじゃあないの。私はあなたの幸せな将来の邪魔をシタクナイ」

この国の王族の嫁というものがどういうものかもよく知らないのに、孤児同然の私にそんな地位が務まるとはさすがに思えない。

王族なんて、惚れた腫れたでどうにか出来るラインを超越しているよ。

だんだんじわじわとなんて恐ろしい事態になったのだと怖くなってきた。

せめて彼が、地方のぽっと出で能力だけで将軍になったというのなら、もしかしたら頑張れたのかもしれないけれど。

「僕の幸せな将来は、君と一緒でも作っていけると思わない……?」

「でも他の人と作った方がより簡単というか満足度が高いでしょうよ。ほーら見て? この平坦で地味な顔。あなたと並ぶと月とすっぽん、逆美女と野獣。しかも王族の妻として必要な教養もない。こんなんで国民の前にお披露目とか心から辞退したい。全国の女性が漏れなく泣いてしまう。あ、でも『聖女』としての仕事ならいつでも協力するから安心してね。王室御用達の治療師になれたらWin-Winじゃないの。ついでに私のあなたに捨てられました感も薄まってなんて素晴らしい」

「……君はこの短時間でそこまで考えたの?」

ちょっと狼狽えて聞くレックだが。

「え? だって私、この世界では身よりもないし頼れる場所もない孤児同然の立場ですからね? そりゃあ自分の将来が不安でしょうがないんですよ。なんとか居場所を確保して生きていかなきゃって、この世界に来てからは常に思っているよ? そのためのスキル磨きだし、こうして打てる手は捨て身で打っているわけよ」

もう野生動物並みに危機感が半端ないよね。

と思ったら、レックが両手で顔を覆いながら深いため息を吐いた後に言ったのだった。

「あのね……もう、僕と正式に夫婦になったからね? わかってる? 誓っただろう、助け合うって。その身寄りのない状態が好きなわけではないのなら、これからはちゃんと僕が守るし僕が助けてあげるから。遠慮なく頼ってくれていいんだよ」

「アニス、君はファーグロウ王家の保護下に入ったんじゃよ。レックが認めた『聖女』として、どーんと構えていていいんじゃよ?」

神父様もそう言うが。

でもそんなに突然「あ、じゃあ」なんて変われないよ。

えーと、もしや私は今の状況にちょっとついて行けなくて、混乱しているのかな。

いやだってなにしろ驚いてしまったから。

自分の人生で身近に王族がいたことなんて今まであっただろうか、いやない。

私、生まれも育ちも庶民なのよ。正統派庶民。

ちょっと落ち着こうか、自分。