軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

遁走2

あっという間に話がまとまってしまったのだった。

ちょうど屋敷の方が騒がしくなってきたから、どうやらその「お父様」がトムくんによる閉じ込めから出てきたと思われる。

そのためどうやらこの駆け落ちカップルとトムくんが焦っていたというのもあるのかもしれない。

というよりは、そうとしか思えないほどあっけなかった。

「僕が馬車を走らせます。そうしたら怪しまれない。だからお嬢様は早く行ってください」

健気にもトムくんはそう言って、はじめに乗るはずだった家紋入り豪華馬車の御者台にかけ上った。

トム……! なんて健気な子なの!

ちょっと感動した私は彼に「元気になーるー」とさらにこっそり魔術をかけたのだった。

頑張れトム、みんなのために。

「わかったわ、トム。私たちは予定していたあの場所に向かいます。よかったらあなたも後から来て。来るまで待っているわ。だからそれまではどうぞご無事で」

そして目を潤ませた「お嬢様」はそう言ったあと、駆け落ち相手の男と一緒に表通りへと走り去ったのだった。

「では僕はこのまま囮としてどこか王都の外へ向かいます。どうします、あなたたちは乗りますか? 傷を治してくれたお礼として近くならお送りしますよ」

トムが御者台から私たちに声をかけてきた。となるともちろんそこは、

「おおそれではせっかくだから乗らせてもらおうかの。そうじゃな、トレルに向かうのはどうかな? ちょうどワシらもそこへ行こうとしていたんじゃよ。ふぉっふぉっふぉ」

と神父様が即答して、私たちは急いでその馬車に乗り込んだのだった。

なるほど、人を騙すってこうやるんだな、なんて感心しているうちに、私たちは王都の隣の街トレルへと、豪華な馬車で疾走をはじめたのだった。

好々爺とイケメンの笑顔にはほんと弱い人が多いんだな、としみじみ思った出来事だった。私は気をつけよう。

それでも少し心配だったのはあの駆け落ちカップルたちを追う追っ手に捕まって放り出されることだったのだけれど、どうやら全く追いつかれる気配が無かった。

なぜならば、王都のあらゆる場所で突然検問が始まったのだから。

えーと、なにやら王宮の牢から賊が逃げ出したので、王都にある道を通る全ての人たちを検分することになったらしいです。

あらやだ、王都って物騒ねえ?

このため王都の中の交通という交通があちこちで何度も止められて大混乱になっていた。

歩行者も辻馬車に乗った人も、もちろん馬に乗っている人も、みんなが止められては道を通る理由や名前等々を聞かれていたようだ。

駆け落ちカップルを連れ戻す追っ手は目的を世間には知られないように追うだろうから、どうやらこの山ほどの検問にいちいち引っかかったとみられる。

かたや私たちは身元のわかる立派なお貴族様の家紋のついた馬車なので、そのまま検問はトムくんの嘘八百な口頭の申告だけで済み、全ての検問をほぼそのまま止まることなく通ることができたのだった。

やだ特権階級すてきー。

そしてトムくんが頑張ってくれたお陰もあって、わたしたちはあっという間に王都を脱出して隣の街トレルに着いたのだった。

どうやらあの駆け落ちした二人は、はぐれたときのために落ち合う場所を決めていたらしい。

主人に逆らったトムはどのみち元の屋敷には帰れないので、「お嬢様」が待っていると言っていたその落ち合う場所に向かい、今後はその「お嬢様」夫妻に仕えるつもりだと言った。

トム、なんて良い子なんでしょう……。もう心からみんな幸せになってほしい。

私が感動していたら、その横でレックがトムに馬車を走らせてくれたお礼を渡していた。そして私たちのことを口止めすることも忘れない。

うん、男の人って現実的よね。すみません、一人でうっとりしていて。はい。

ついでと言ってはなんですが、レックの提案で、オプションというかおまけで私たちは最初にあの家紋入りの豪華な馬車から普通の貸し切り馬車に借り替える時に、私とレックで駆け落ちカップルを装うことにした。

そうすればきっと追っ手は私たちをあの駆け落ちカップルだと思ってさらに追跡するだろう。そしてその先で目的の人物はかき消えるのだ。

豪華な馬車を貸してくれたのだからこれくらいはやらせていただきます。

ただ……。

「できるだけ快適な馬車を頼むよ。私のかわいい新妻を疲れさせたくはないのでね」

そう言ってノリノリで微笑みを惜しげもなく振りまくチャラ男いやレックは、何を考えているのやら。

その顔面の美的威力も相まってそれはそれは素敵でしたよ?

見世物としてはね。

その言葉を聞いた貸し馬車屋の受付の人と、その言葉が聞こえたらしい周りの、特に女性たちからの、

「んん? あのイケメンの新妻が……アレなの? ……え?」

という視線がグサグサと私に突き刺さっていたけどね!

知ってるよ、知っているから! 私が絶世の美女ではないのは知っているからそんな目で見ないで……。

「どうしたアニス、もっと新妻らしく堂々と幸せそうに笑わないと不自然じゃよ? なんでそうびくびくしているのかのう。ワシから見たらお似合いじゃよ?」

「ありがとう、神父様……その慰め、お世辞でも心に沁みるわ……」

妙にノリノリで演技するレックの後ろで、こそこそそんな会話をしていた私たちだった。

「お手をどうぞ、我が妻。君のために一番良い馬車を頼んだんだよ。気に入ってくれるといいんだが」

そう言って馬車の前で私に手を差し出す顔面は美しいチャラ……いや一応紳士。ああ眼福。

しかしレックも楽しそうで良かったね。目が子供のようにキラキラしているよ。

もう私も少々自棄になって、ええいままよとにっこり彼に微笑んで「ありがとう」とか言って彼の手を取ったのだった。

茶番だわ……。

お願いだから、次に馬車を替える時は普通にしてよ……?

そして私たちはその後も馬車を替えつつ、まっすぐ隣国ファーグロウへとひた走ったのだった。