軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

脱出1

「そうじゃのう。じゃあどの案で出る?」

神父様が、まるで親の目を盗んでちょっと遊びに家を出るような言い方で。

「そうだな、身分もバレたことだし、じゃあ正面から堂々と」

「えー私? はーい了解ー」

そんな感じで話が決まったちょうどその時に、どうやらまた呼び出しの人が来たようだった。私がベールを被るのとほぼ同時に扉が開いて居丈高な使用人が言う。

「そこの女、『先読みの聖女』様が話があるそうだ。来い」

あらヒメはもう顔を治したの? 早いわね。王宮内に治療師がいるのかな。って、いやでも来いって言われてもねえ。さっきのヒメの話ならば、どうせ私を始末するためでしょう?

階段から突き落とされたい人はいない。行くわけないよね。

「いやです」

お断りだ!

「悪いね、私たちはもう帰るんだ。話は終わった」

レックがしれっとはじける笑顔で言った。

「もうお菓子もなくなったしの。そろそろ潮時じゃな」

神父様がノンビリと言う。

そして私はロロに言った。

「ロロ、足だけ」

「にゃーん!」

『はいにゃー!』

その瞬間、ロロが人にはほとんど見えないような速さで私たち三人以外の周りの人間の間を、くまなく走り抜けてもれなく全員の足に傷を付けていったのだった。

って、速いなー。

しなやかに駆け巡る黒い影。

もちろん対象は呼び出しに来た男のみならず護衛や使用人全て。

私たちのことが見える範囲の人間全てが対象だ。

スパスパスパー。

傷は浅く、だけれども確実に。

そして私はその場に立ったまま、無言で癒やしの「逆」スキルを発動したのだった。

さあ! 燃えろー燃えろ! 燃え上がれ!

痛みが全ての意識を奪え!

全ての傷が最高に痛め! まるでその千倍深い傷のように!

とたんに見渡す限りの人間の足下から、勢いよく不吉そうな黒い煙がもうもうと立ち上ったのだった。

もちろん全員悶絶だ。足を押さえて床に崩れ落ちたまま誰一人として立ち上がることなどできない。

「うほお……痛そうじゃのう……」

オースティン神父が若干引いている気がするが、でもどうせなら派手に、華麗に。それがこの「正面から堂々と」作戦じゃないか。

華麗かどうかは若干怪しいが結果的に、私たちは痛みに苦しみ転げ回る人々の中を悠々と歩いて出口に向かったのだった。

傷をつけてから「逆」癒やしスキルで痛みを最大限に増幅。これならどんなに健康体の人でも悶絶確実で取りこぼしなしだ。でも傷自体は浅いので命に別状はない。ただひたすら痛いだけ。そこは私がこだわるところです。だって自分が殺生とかいやん。後から悪夢にうなされそう。

しかしこれ、本当に便利なスキルだな。

そら燃えろーよ燃えろ~。

私たちの進む先を、ロロが素早く確実に傷をつけてまわり、そして私が絶え間なくスキルを振りまいて痛みを最大限に引き延ばす。ロロは普通の猫にはとうてい出来ない素早さで駆け回り続け、誰の目にもその姿はほぼ見えなかっただろう。さすが魔獣。魔獣すごい。

久しぶりの運動に興奮して少々無駄に駆け回っている気もするが、まあ結果オーライだ。

そして一見私たちは何もしていないのに、近くに寄るだけで周りにいた人全員がもれなく悶絶を始めるという、異様な光景が繰り広げられることになったのだった。

騒ぎを聞きつけて集まった人々が、次々と怯えた目をしたあとに悶絶していく。

たまにレックがまさに悶絶中の使用人に、

「ところでお嬢さん、この城の出口はどちらですか?」

と「魅了」のキラキラつきで呑気に聞く以外は、私たちは勝手にバタバタと倒れていく人々の間を堂々と、誰にも邪魔をされずにすたすたと進んだのだった。

しかしまさか「魅了」したくらいでそんな大事なことを、このいかにも怪しい一団にペラペラとしゃべるものなのか?

と最初は私も思ったのだけれど、どうやら見ていると足の痛みでとっさの正常な判断が難しかったようだ。特に若い女性はもれなくはっとした後に、うっかり出口の方向を指差していた。

これもし「魅了」が使えたとしても、私やオースティン神父ではこんなにすんなりいかないんじゃないかなー。そんな手際ですよ。

すごいなイケメンって。なんて便利なんだ。

そんなこんなでしばらく王宮の中を出口に向かって歩いていたら。

やっとこれは足を攻撃して切られているのだと悟った人々が、鎧を着て現れた。

ああうん、ちゃんと考えた人がいたんだねー。お疲れ。

でもロロの言っていたことからすると多分……。

スッパー。

やっぱりね。

ロロの爪の敵ではなかったらしい。

いや本当に魔獣って強いねえ。

はい燃えろーよ燃えろ!

ガンガン燃えろ! 脳天まで痛みが走れ!

「うがぁ……!」

あっさりと沈む鎧勢。それを見て驚愕する他の人々。

とうとう誰も恐れをなして近づこうとはしてこなくなったころ。

私たち三人は絢爛豪華な王宮の入り口でもある大きなホールに出たのだった。さあもう少しで正面突破。その時。

そこに最後に立ちはだかっていたのは、この国の王子ロワール殿下だった。