軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

特別室4

それは今まで私に向けていた優し気な声ではなく、いつものチャラ男の軽い感じでもなく、りりしい、しかし威厳のある声だった。

え、この人何者? まさかこの男の上司か何かだったの? 口調が命令し慣れている感じだよ?

てっきり同じくらいの年齢だと聞いていたから同僚か仲間か友達あたりだと思っていたんだけれどな。

驚く私の前で、威圧した声をかけられたそのガレオンと呼ばれた大男がゆっくりと目を覚ましたようだった。

「う……ん」

まだはっきり覚醒していない感じの大男に、それでもレックは容赦なく畳みかける。

「今君の痛みの原因は治療してもらった。私は君との約束は守った。もう痛みはないはずだし、だるさもないだろう。では約束通り私に忠誠を誓ってもらおうか」

「……は? え? ああっ……痛みが、ない……?」

「そうだ。痛みもだるさも無くすことが出来たら私に忠誠を誓う約束だ。私は約束通り君の体を治した。次は君が約束を守る番だ」

にやりと笑うレックの顔は、ものすごく……なんというか、誇らしげで生気にあふれる良い笑顔だった。

「ああ、本当だ、だるさもない。むしろ前より調子がいい……何故だ、突然……凄いな、奇跡だ」

ガレオンと呼ばれた人は驚いたようにレックの顔を見て、そして周りを見回して、それからベッドから降りて確認するように体を動かしたのだった。

そして不調が無くなったことを確信したらしく、おもむろにレックの前に跪いた。

「わかった、オレは約束は守る。オレにもうしばらくの生を与えてくれたレクトール・ラスナン、お前に忠誠を誓う」

その瞬間、神父様がふぉっふぉっふぉ、と楽しそうに笑った。いや神父様、せっかく大人の男の人が誓う厳かな場面なんだから、笑うのはやめましょうよ。と思いつつ私も初めて見る場面なのでガン見しているけれど。

しかしそんなことは意に介さずに、レックが答えた。

「忠誠を受け入れる。証人はこの場にいる全員だ。では、頼んだことをやってくれるな?」

「ああ……わっかりました、しょうがない、約束は約束だ。引き受けましょう。ちょっと時間はもらうがいいか?」

「頼む。連絡にはこれを使え」

何かを渡しながら美しくもりりしい笑顔で場を締めるレック。

ガレオンさんはその何かを受け取ると、手早く荷物をまとめて「では」と言って早速部屋を飛び出していった。

なんだなんだ、行動に移すの早いな。そんなに元気になったのか……我ながらびっくりだ。

なんだかよくわからないけれども、美しい主従関係が結ばれた瞬間ですね。ほうほう、よかったねえ。

私も約束を果たすことが出来て嬉しいです。

これで隣国へ行ける手立てを確保出来たと思いたい。

よし荷造りをしておこう。あ、あと私が居なくなってもこの治療院の業務が回るようにもう少し何か手立てを考えた方がいいかな?

そんなことを考えていたら。

レックがおもむろに私の両手を取って言った。

「アニス、本当にありがとう。君は素晴らしい癒し手だ。まさかここまで早く治せるとは思っていなかった。素晴らしい能力だ。もちろん私は君との約束は守る。でもどうだろう、その前に、私と一緒に来て私のために働かないか」

そして私の両手を握ったまま自分の口元に持って行って、あろうことかそこにキスをしたのだった。

うわあ気障だな! しかもなんだか世界がキラキラするよ?

「私は今、『聖女』を必要としているんだ。約束を果たしてすぐお別れするにはこの君の能力は惜しい。ぜひ私のところに来て欲しい」

「は? え?」

私が驚いて固まっていたら、オースティン神父が意外そうに言ったのだった。

「おや、このレベルの『魅了』が効かない人は珍しい。なかなか警戒心が強いね、アニス。さすがじゃの」

って、おい!

なにその「魅了」って。魔術かよ。もしかしてさっきのキラキラか?

そんな怪しげなスキルを私に向けたのかこの男は!

思わず目の前の男を睨んでしまう。

だけどこの目の前の男は私に睨まれても全く悪びれもせずに言った。

「おっと……残念だな。言質さえとってしまえば説得も楽になったのに」

って、こっちにウインクするな。こいつ、何故か昨日までのチャラ男に戻っているぞ。

さっきまでのシリアスな雰囲気はどこにいったんだ。カムバック、シリアス。

「なにしてくれているんですかね……わざわざそういうことをするということは、怪しげな事ですか? 犯罪はお断りです。私は約束さえ守ってくれればそれでいいんですよ。できればさっさと約束を果たして欲しいです」

思わず握られていた手を振りほどき、ついでに両手をぺっぺと払って言った。

チャラ男にはこの対応で十分だ。

オースティン神父がそんな私を見て目をキラキラさせて、

「おお……この男になびかないとは……これはいいものを見た……」

とかなんとか言っているが。

そりゃあこんなかっこいい人にお願いされたら、普通なら私だってぐらっときちゃっただろうと思う。

私がただのここで働く何の変哲も無い普通の女性だったら、一緒になんて言われた瞬間にその場で「ついて行きますどこまでも!」とかなんとか叫んでいただろうとは思うよ。

そう、私が追われている身ではなければね。

でも私にはあまり時間の猶予のない果たしたい目的があるのだ。よくわからないままにこんな知らない人について行って無駄に時間がかかったり、うっかりついていった先が王宮だったらと思うとそんな軽々しくうんとは絶対に言えないんだよね。