軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ガーランド治療院6

そうそう、あと心配なことといえば。

どこからどうみても子猫にしか見えないけれど、どうやら魔獣らしいロロだ。

一見かわいらしくもか弱い見た目と、おなかが空いた時だけは積極的に人にかかわってご飯からおやつまで、自由自在にこの治療院の人達から食べ物をもらって猫人生を謳歌しているロロさんですよ。

この調子だったら一匹だけでも十分どこでも暮らしていけそうではあるけれど。

でもそんなロロも私の事は主と呼ぶから私もその人生いや猫生に責任がね。あるのよね。

非常事態になって私がここを逃げ出すことになったときには、ロロを連れていくかどうか正直少し悩んだ。

私はひとりぼっちよりもロロがいてくれたら嬉しい。会話も出来るし、抱いて寝れば温かい。

でも、ロロは不自由な逃亡生活よりもここでかわいがられていた方がロロにとっては幸せなのかもしれないよね。

私はあるとき、ポーション作成室の窓際がすっかり定位置になって今日もまあるくなって寝ているロロのところに行って、言ってみた。

「ロロ、もしも王宮の兵士が私を捕らえに来たら、私は急いで全力で逃げるつもりよ。でもあなたは普通の猫としてここにいればきっと今まで通りにごはんも貰えてかわいがってももらえるだろうから、もしもそっちの方が良いならここでのんびり暮らしてもいいよ」

予告はしておかないとね。一応私に憑いているらしいし。きっと私の許可があればロロも心置きなく残れるだろう。それにある日突然主が自分を省みないで逃げてしまったら、悲しいじゃないか。

でも私がいざ逃げるときは、きっと時間の猶予はないだろうとも思うから。こんな話は事前にしておかないとね。

しかしロロはちらりと目を開けて、その金色の瞳を私の方に向けて言ったのだった。

「にゃーん?」

『逃げるの? いつ? まあそれでもいいけど、私はアニスの使い魔なんだから私を使えばいいんじゃないの?」

そしてすいっと立ち上がって、うみょーんと伸びをしながら続ける。

「くああぁ……。にゃあーう」

『兵士がやってきたら教えてあげる。なんなら始末もしてあげるわよー』

ちょっと? やっていることと言っていることが随分乖離してますが。

「始末……?」

私はびっくりして聞いた。

だってロロって、日向ぼっこして寝ているか『ごはんー』って言うのが仕事なの? っていうくらい今まで普通の猫だったよ? 始末ってなにさ。

「にゃにゃ」

『人間の二、三十人くらいだったら片手間で一瞬よー。もし殺すなって言われたらちょっと面倒くさいけど』

「ええ、なにあなた、そんな物騒な猫だったの?」

「んにゃあ?」

『猫じゃなくて魔獣よ? そんじょそこらの魔術師よりは強いわよー? ふふん』

猫なのににんまり笑って胸を張るロロ。

「あらまあ、それはびっくり」

「なあー」

『主が言っておいてくれれば、兵士を見つけ次第始末しておくわー』

シャキーン、って、いや待って。その爪仕舞って。それってある日突然この治療院の中か敷地に兵士の死体が転がるって話よね?

それはちょっとどうなの……なにちょっとネズミ見つけたら捕まえておくわーみたいなテンションで物騒この上ないこと言っているの。

ロロ、けっこう危ない子だった。え、魔獣ってそういうものなの? 元の世界にはいなかったから全然ピンときていなかったよ?

でも。

「ええっと、じゃあ、始末はしなくていいけど見つけたら教えてくれる? そうしたらこっそり逃げられるから。私は殺人犯にはなりたくはないのよ。悪名は駄目、ぜったい」

この小さな黒猫が、二、三十人もの兵士をどうやって「始末」するのかぜんぜん想像がつかないのだけれど、確かにオースティン神父も魔獣だとは言っていたし実際に普通の猫とは違ってしゃべるから……嘘は言ってはいないんだろうな。うーん、活躍するところを見たいような見たくないような。

「にゃあー」

『まあそれが主の命令なら。じゃあパトロールして見ておくわねー』

しかしそんな戸惑っている私のことには我関せずで、そんな物騒かつ勇ましいことを言った目の前の小さな黒猫は会話は終わったと判断したらしく、またすぐに大きな欠伸をひとつして、丸まって眠り始めたのだった。

あれ……? パトロールっていつするんだろう……?

き、気が向いたときかな? 猫だしね?

でも私の(私のよね? 神父様との方が一緒にいる時間が長い気がするけれど)猫もとい使い魔は、思っていたよりも頼もしい子だったのだった。

秋も本格的になってきて、涼しいと思う日が多くなった。

ぽかぽかと日の当たる中ですやすやと眠っているロロの背をそっと撫でてみると思いのほか温かくて、お日様の匂いがした。

ぼんやりとロロを撫でつつもどう見ても猫なんだけどなあと思い、でもそんな強い味方がいるというのが少し嬉しかった昼下がりだった。