軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ガーランド治療院3

そしてとうとう念願のサルタナ院長が手配してくれた大きなカメが届いた時には、まだ日も高いというのにオースティン神父がこれ見よがしに腰を叩きながら言ったのだった。

「ああ嬉しい! これで解放される! あーもうこの老体には辛いのなんの。ああ腰が痛いー首が痛いー」

「……神父様、私が視たところではそれほど酷くはありませんが、ではお礼を兼ねて治しておきますね」

私はそう言って神父様の腰と首と目に視えたうっすーい黒っぽい煙を片手でぺっぺと払ったのだった。

もはやそのやりとりは最近では毎日の仕事終わりの日課のようになっている恒例行事だ。

「……ありがとうなあアニス~、でもワシももう年だからすぐにあちこち疲れちゃうんじゃよ。ああつらいのう年は取りたくないもんじゃ~」

「神父様、突然言い方を年寄り臭くしても今更です」

「ちっ」

だって私、旅の途中で屈強なゴロツキたちを、いとも簡単に伸していたのを見てますからね?

しかもある程度辛そうになったら、私がさっさと治していますからね?

最近は私のポーションを浴びるように使っているらしいここのひたすら多忙な院長よりずっとお元気そうですよ?

まあそれでもオースティン神父としてはこの単調作業から解放されるのが嬉しいようなので、自分一人で出来るようになったなら、今後は一人で回しましょう。

神父様にはそう思ってお礼を伝えた。

でも神父様はそのままウキウキで部屋を出て行くかと思いきや、何故かそのまま窓際にあった椅子に座ってのんびり私の作業の見学を始めたのだった。なぜだ。ちゃっかり膝にはロロが乗っている。

え、いいなあ。私もロロと一緒に日向ぼっこしたい。そこ、暖かくて特等席なんだよねえ。あ、だから神父様が陣取ったのか。

だけどたしかに大きなカメに水を汲んで、そこに一つ一つ「お熱さがーる」とかのそれぞれの効能の魔術をかけていけばまとめて大量にポーションが出来て、びっくりするほど楽になったのだった。

もうこれからは、その出来た中身を各自持ち運べるくらいの小さい入れ物にまとめて移し替えて運んでもらおう。小瓶に小分けする作業はそれぞれの部署や治療院でやってもらえばいい。

おお、便利便利。運ぶ人も軽くなっていいね。どうして今まで気がつかなかったのだろう。

ポーションは小瓶に入っているものという固定概念があったのかな?

頭が堅いな私。

「アニス、もしかしてその倍の量でも作れそうかの?」

ふんふんと上機嫌で一人納得していた私に、窓辺でにこにこしていた神父様が聞いた。

「いけますよー何倍でも。この部屋一杯でもきっといけます」

多分視界に入っていれば、大丈夫かな?

「石にも込められそうかね」

「なるほど言われてみれば。やってみますか?」

そう言って、物は試しと私は庭に出て石を拾ってきた。

ふむ。何がいいかな?

傷用? 熱用? どうしよう?

私が考えていたら、神父様が言った。

「不調を整えて元気が出るようにできるかな? さすがにサルタナ殿が忙しそうで見ていると可哀想でねえ。昔はよく一緒に仕事をさぼった仲なのに、あんなに働きずくめなんてきっとものすごーくストレスがあるに違いない」

なるほど、院長にあげるなら、よく眠れて元気が出るように……って、もういっそ「治癒」にして総合的に良くなるようにすればいいんじゃない? 雇ってくれている人には媚を売っておくのも悪くないよね。

ってあれ? 今さらっと過去っぽいことを言っていたけれど。

二人はどこかで一緒に仕事をしていたのか。それはまさか戦場ではないよね?

まあいいか。今はサルタナ院長が率先して不眠不休で働いているのは知っているから、少しでもお役に立てたらいいよね。

私は早速石に、「不調が治って元気になーるー」と魔術を込めてみたのだった。

石に魔術を込めるのは初めてなので、念のために手もかざしてみる。

なるほど治療関係のものが全てポーションで流通している理由がわかるほどには石には魔術が込め辛かったけれど、それでもしばらく頑張ったらなんとか少しだけ込めることができたようだった。治癒関係の魔術は固形物には溶け込み辛いということなのかもしれない。

うん、でも石自体にはまだ余力がありそうなんだよねえ。じゃあ。

「よく眠れーる」

「気分が晴れーる」

「集中できーる」

練習がてら調子に乗ってついいろいろ重ねがけしていたら、石があるとき突然ピキッと真っ二つになって割れてしまった。

あれ? そういえば石の余力を見るのを忘れてた? 石って分かり辛いなーもう。

「おや……ふぉっふぉっふぉ。どうやら魔術を入れすぎたようじゃの。この石ではこれが限界だったようじゃ。でも随分たくさん魔術が込められたようだし、ではこの大きい方はサルタナ殿に渡して、せっかくだし小さい方はワシがもらおうかなー」

あっれー? などと私が割れた石を見て首をひねっているうちにいつの間にかに神父さまが近くに寄ってきて、ひょいとその割れた石を持って行かれてしまったのだった。

うん、ちゃっかりしているよね。まあ、どちらの人達も元気でいてほしいからいいんだけど。

しかし水以外のものに魔術を込めるのは、他のものでも大変なのかしらん?

でも掃除や火の魔術は石や掃除道具に込められていたよね?

魔術によって性質が変わるということなのかな。そして治療関係の魔術は水に溶けやすいということだったというところか。

そういえば私は今まで自分の魔術については「どこまで出来るか」とは考えたけれど、「何が出来るか」とか、「どのように使うか」というのはあまり追求してこなかった気がする。

むしろ神父様に「やってごらん」と言われて初めてそんなやり方があるのを知ることも多かった。

ふーん?

まあ今日からはポーション作りも少し楽になりそうなので、空いた時間にはいろいろ試してみるのもいいかもしれない。