軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第8話

アシュトンの両親に会う話を両親にしたら、父は「がんばりなさい」とうなずいてくれたが母の反応が悪い。

何かと「不幸になるんじゃないか」「嫌われるんじゃないか」と、マイナスな話ばかりをするのだ。

不幸にはならないし嫌われるかどうかは会ってみないと分からないだろうと返すのだが、それでもぐちぐち言ってくる。

いや、私には後がないって知ってるでしょうが。

母も「侯爵子息と縁づいた」と喜び娘自慢がようやく出来ると言われるかと思ったのに、反応は真逆だ。

「お母様? なぜ喜んでくださらないのですか? 釣り書きが届かなかった娘が高位貴族に嫁ぐのですよ、鼻が高いでしょう?」

私が詰問すると母が私を見て、ため息をつきながら言った。

「……その話をするとシトリンの機嫌が悪いのよ。それに……シトリンとの約束があるから困るのよ……」

私と父は顔を見合わせる。

シトリン・ヴァレンティノ子爵夫人はアデラインの母親で、母の友人だ。

父と私が交互に、私の結婚話とシトリンおばさまの約束がどう関わってくるのかを尋ねたら、母がとんでもないことを語りだした。

――シトリンおばさま改めヴァレンティノ子爵夫人は、アデラインをたいそう自慢に思っていて、母に常に自慢していた。

代わって母は、「うちの娘がアデラインちゃんみたいによくできた子だったらいいのに」と、常日頃愚痴っていた。

この二人の会話を聞いているからアデラインばかりが持ち上げられ私に釣り書きの一枚も届かないことになったんじゃないかと思うがそれはさておき、母は侯爵子息と婚約したのをずっと伏せて私の不出来さを嘆いていたらしい。

ところが、バレた。

恐らくアデラインが私の婚約を、婚約相手も含めて伝えたのだろう。

ヴァレンティノ子爵夫人が青筋を立てながら笑顔でネチネチと嫌みを言い、母はその弁明として「どうせすぐ解消すると思ったので」と、ひどいことを返したらしい。

ヴァレンティノ子爵夫人は母の言葉を真に受けて「あら、じゃあ解消したら紹介してくださいな」と図々しいことを言い、母は調子よく了承してしまったという……。

私は目を細めて母を睨んだ。

「……お母様は、私が結婚せずにこのまま家にいることを推奨しているんですね? ……そういえば、ルシアンの婚約者と仲が悪いですもんねー? 破談にさせて私を独り身のままにし、一緒にルシアンの婚約者をいびる計画だったんですか?」

母が目をつり上げた。

「そんなことを思っているわけがないでしょう!?」

「じゃあ、シトリンおばさまとの話はなんなんですか!? ――アシュトン様と婚約解消して、アデラインに紹介する!? 私をどこまでバカにすれば気が済むんですか!?」

私が激昂すると、母はさすがにばつが悪くなったようでうつむいた。

「……フェンネル。さすがにひどいぞ。お前は昔からヴァレンティノ子爵夫人に弱かったが、それはないだろう。……まったく! 明日にでもヴァレンティノ子爵家に向かうぞ。口約束とはいえ、そんなことを婚約者の母親が言っていたと知れたらそれこそ問題になる。謝罪し撤回する」

父に厳しくたしなめられた母はビクッとし、そのまま席を立って出て行ってしまった。

去っていった母のほうを見ながら父がつぶやく。

「……アシュトン様には知られないように。たとえお前の母親であろうともそんなことを言っていたと知られたら、厳しく罰してくるぞ」

「……いっそ、アシュトン様に介入してもらったほうがいい気がしますけどねー。お母様とシトリンおばさま、少しおかしいですよ。普通、そんなことを約束します? お母様はあまりにも自分の娘をないがしろにしすぎだし、シトリンおばさまも、私はもちろんのことブラックウッド侯爵家をも軽く見すぎじゃないですか?」

私がそう返すと、父がため息をついた。

「アデライン嬢が自慢なんだよ。実際、低位貴族内での評判はものすごいからな。アシュトン様の話では、高位貴族まで評判は及んでいないようだが……。その自慢の娘にも、侯爵家からは釣り書きが届いていないんだろう。逆に、一枚も届いていないお前は侯爵子息を射止めた。……アシュトン様は多少問題のある方だが、侯爵家の嫡男だ。ヴァレンティノ夫人からしたら、なぜうちの娘を差し置いて、って思うだろうよ」

そんなことを言われても……。

……という話を、翌日のデートでアシュトンにチクった。

「君の母君は、結婚式に呼ばないことにしたいな」

アシュトンが真顔で言う。

「来ないんじゃないですかね? たぶん、仲良しのシトリンおばさまが当日お茶会の約束をお母様にするでしょうし、そうしたらお母様はそちらへ向かうでしょうよ」

私は言い捨てた。

アシュトンは、とうとう呆れ返った。

「君の周囲、本当に問題児ばかりだね!? 俺がすごくマトモに思えてきたんだけど!」

「アシュトン様はめちゃくちゃマトモですよー。手紙には私のことしか書いてませんし、話も私のことじゃないですか。私の周囲の男性は、手紙の内容はアデラインのことについての質問で、話と言えばアデラインについてがデフォですからー。こんなんばっかと付き合ってきた私には、アシュトン様がラベンダー様方が語るような危険な男性にはまったく思えませーん」

比較するのすら、おこがましいわ!

アシュトン様が私の手をキュッと握る。

「早いとこ、助け出してあげたいよ。……さすがに学生結婚はよくないから、卒業式……の一週間後を予定しているから。本当は卒業式の日にしたかったんだけど、両親と妹から、卒業式の日は卒業を祝うものだって怒られた」

式の準備も大変らしく、卒業にかぶせると卒業式に出席出来ないことになるらしい。

ま、私は出なくてもいいけど、ただラベンダー様がたには御礼を言いたい気持ちはある。

父は嫌がる母を連れてヴァレンティノ子爵家へ向かい、夫妻に話して謝罪したそうだ。

ヴァレンティノ子爵当主はにこやかに怒りながら謝罪する父の話を聞いて仰天し、ヴァレンティノ子爵夫人を問いつめ、ヴァレンティノ子爵夫人は怒って離席し、ヴァレンティノ子爵当主が夫人の失態を謝罪した。

母はさも被害者のように泣いていたという。

「……至らない娘のせいで、ご迷惑をおかけしまして……」

とか抜かしたらしいよ?

父はかぶせるように、「至らない 妻(・) のせいで、本当にご迷惑をおかけしました」と謝ったという。

ヴァレンティノ子爵当主も受けて、

「いやいや、うちの至らない 妻(・) のせいでもありますから」

と、互いに妻を強調して謝罪した、と父から聞いた。

それから父は、娘と侯爵子息の仲が良好なこと、卒業したら結婚することを伝えて、ヴァレンティノ子爵当主は娘とは幼なじみだし祝い品を贈らせてもらう、ということを話して帰ってきたという。

母は、ふさぎこんで部屋にこもってしまったらしい。

「それで、お父様はどうするおつもりですか?」

アシュトン様は、けっこうご立腹だぞ。私もだけど。

「フェンネルと話し、きちんと反省させて謝罪させる。でなければ……離婚になるだろうな」

「でしょうね」

低位貴族が勝手に話をつけて侯爵家の子息の婚約者を交換しますね、なんて決めたら、侯爵家をバカにしてんのかって話になるでしょ。

アシュトン様が両親に話せば婚約の話自体が消えるでしょうね。最悪、子爵家も二つばかり消えるでしょう。

なので、子爵家としてはやらかした母を切り捨てるしかないよね。

しょうがない、お母様の自業自得だ!