軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

最終話

アシュトンは顔を背けた後、今度は空を仰ぎ……次には思いきり頭を下げた。

「「「ッ!?」」」

頭突きしたんですけど!?

アデラインとアシュトンは互いに頭を抱えて痛がる。

何やってんの?

「……ぃてて。頭、硬いねー……。近づきすぎだから、うなずいたら頭が当たっちゃったよ」

アシュトンが弁解している。

……アレ、うなずいたんだ?

「俺が、レストランで座っていたのは正解。そして、ローズマリーとそのとき知り合って恋人になったのも正解。でも、妥協したんじゃないよ。互いに運命だって思ったんだよ」

「……運命?」

痛がりながらもアデラインが尋ねた。

「そう。あそこでローズマリーと知り合えたのは運命だったんだ。俺は、誰よりもローズマリーがいい。あのときはわからなかったけど、今はハッキリと言える。俺は、自信たっぷりの君より俺にピッタリのローズマリーがいいんだ。きっとローズマリーもそう言ってくれる。俺がいいってさ」

アシュトンがキッパリと言い切った。

アデラインはちょっと黙っていたが、つぶやくように告げる。

「……あの子は、誰でもいいのよ。絶対にそう。あの子から誰かを好きになったことなんてないもの。私は幼なじみだから知っているわ」

アシュトンはアデラインのその言葉をうなずいて肯定した。

「そう。俺たちの出会いはそうだった。俺は『誰かを好きになってる自分が好き』って奴で、彼女は『一番に選んでくれるなら誰でもいい』って子だった。でも俺たちは、そこから変わったんだよ。そして、俺たちはベストマッチングだ」

頭をさすっていたアシュトンは手を下ろし、まっすぐアデラインを見た。

「君が俺を選ぶというのなら、じゃあ君は俺の言いなりになれるか?」

「え?」

その問いに驚いたアデラインも、頭をさすっていた手を下ろしてアシュトンを見た。

アシュトンは問う。

「侯爵夫人にピアニストの肩書きはいらないから、ピアニストを辞めてくれって言ったら辞められるか?」

「…………」

アデラインが初めて詰まった。

そして下を向いてしまう。

アシュトンはさらに問う。

「優秀さはいらない。家にずっといて家の切り盛りをしてくれればいい。だから外出を控えてくれ。社交もそんなに必要ないから、たまになら許すがお茶会も控えるように。そう言ったら『わかりました』とうなずいて言う通りにしてくれるか? どこへ行くにも俺がついていくことを許容出来るか?」

「…………」

アデラインは答えない。

だって、アデラインには無理難題だから。

そういうふうに育てられていないアデラインには、受け入れられるはずがない。

「『一番に選んでくれるなら誰でもいい』って言ったローズマリーは俺のために努力してくれたし、俺のワガママを受け入れてくれたよ。……俺を選んでくれたはずの君は、それ以上のことをしてくれるのか?」

アシュトンの問いに、アデラインは下を向いたままだ。

アシュトンはそんなアデラインを見て、フッと鼻で笑う。

「俺は、相手が現れずローズマリーで妥協したんじゃない。運命の恋人に出会って、来週結婚するってだけ。理解した? あと、いくら『誰かを好きになってる自分が好き』って俺でもさ、口先では親友とか言っておきながらその婚約者を奪い取ろうとするような子は好きになれないよ。……ま、ローズマリーも君のことを友人とは思ってないようだけど……それにしたってひどい」

瞳のハイライトを消したアシュトンが、アデラインに通告した。

「だから、今ここでローズマリーとは縁を切るように。君は、ローズマリーにとって益になるどころか害になる。もしもつきまとうようなら、今あったことを広め、ピアニストとして活動できなくさせるから」

アデラインは硬直し、小さくうなずく。

「……わかりました。もう会おうとしません」

いまだかつて見たこともないほどに怯え体を縮めているアデライン。

そんなアデラインをもう見ることなく、アシュトンはこちらにやってきた。

「えーと、君を選び続けたつもりだけど、こんなもんで平気かな?」

「満点です、アシュトン様」

そう言って笑顔を向けると、アシュトンも笑顔を返した。

式場へ向かおうとするアシュトンの腕に軽く手を添えて止める。

「あ、お願いがあるんです」

私が言うと、アシュトンがキョトンとする。

「なに?」

「ギュッてしてください」

アシュトンが固まる。

「……えーと、まぁ、ハグぐらいなら、いいけど……」

動揺しつつもアシュトンがそっと私を抱きしめ……うん、抱きしめられてはいないかな、腕で輪っかを作っているね。

まぁいいや。

私はアシュトンの胸に頰を寄せた。

「……私、これが幸せなんだって、実感してます」

「……俺も今、そう思った」

ものすごくソーッと私を抱きしめ……触れるか触れないかって感じで腕を回しつつ、アシュトンが言ってくれた。

見上げれば、赤くなっているアシュトンの顔がある。……来週は結婚式で、それまではいろいろお預けね。

でもいいや。私は今この上なく幸せで、アシュトンもそう思ってくれているのなら、結婚式までアレコレするのは待ちますよ。

「手をつなぐのはどうです?」

「あ、うん。それくらいならいいかな。あとは……夫婦になってからね。俺、楽しみにしてるから」

思わず笑ってしまう。

なら、私もお預け状態を来週まで楽しみましょう!

私はアシュトンの手を握り、卒業式の会場へと向かった。(了)