軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

17 罠

兄スチュワートはあれ以来、私にエドワードの話を決してしようとはせずに『令嬢ランキング』について、応援するような言葉を優しく掛けてくれるだけになった。

私自身だって、これはエドワード本人に聞くべき内容だろうと考えていたし、私たち兄妹は互いに敢えてその話題を避けていた。

「……ああ。今夜も例の、参加必須の夜会でもあるのか?」

ある日。朝食を食べていた時に馬車の手配を執事に頼んでいたら、お兄様に質問されて、私は何気なく頷いた。

「ええ。今夜は参加者へ先んじて伝えられている 服装規定(ドレスコード) もあるし、本格的な『品格』の試験のはじまりの舞台として、試験官が来ているのかもしれないわ」

兄スチュワートは私が夜会に行く事を、エドワードに伝えるだろうと思った。

けれど、私もそれで良いと思った。

そろそろ……私たち二人の関係を、はっきりさせるべきだった。見たくないと目を逸らし続けていて、逃げ続けていたものを。

「そうか……夜会で 服装規定(ドレスコード) があるなんて、なんだか面白い趣向だな。それは、どのようなものなんだ?」

「白の生地で作られていて、黒いレースとリボンで飾ったドレス、だそうですわ。けれど、それ以外は各々(おのおの)自由なのだそうです」

「ほう。なんだか、変な 服装規定(ドレスコード) なんだな。主催側には、何か意図があるのだろうが」

兄スチュワートは首を捻っていたけれど、私だって彼に同感だ。

これを聞いた時、何故、これが? というような 服装規定(ドレスコード) の内容だったのだから。

「まあ、それは良い。どんな試験内容であれ、リゼルらしく頑張っておいで」

「……ありがとうございます」

兄スチュワートは急に様変わりしてしまった妹に、延々無視されていたのが大分堪えていたのか、私と会話が成立していることだけでも嬉しそうだった。

「うん。それに、お前と話をしたがっている奴とも、少しだけでも話してくれたら良いと思う」

「ええ……わかりました。会えば話をします」

私がエドワードと会えば話すと伝えると、兄のスチュワートは嬉しさのあまりに涙目になっていた。

二人の関係がどうなるのか本当に心配していたと思うし、私とエドワードの間で板挟みになっていたとは思うけど……これは少し、大袈裟だと思うわ。

◇◆◇

私が夜会会場への道を辿ろうとすると、後ろから一人の貴族令嬢から声を掛けられた。

「あの……フォーセット男爵令嬢。少しお時間大丈夫ですか?」

彼女の名前は私にはわからないけれど、 服装規定(ドレスコード) 通りのドレスを着用しているので『令嬢ランキング』に参加している貴族令嬢なのだろう。

「あ。ええ。何かしら?」

「あの、少しお話をお聞きしたくて……こちらへ」

私に何か聞きたいことがあるのだろうと思い、何も考えずに彼女に着いて行った。

けれど、庭園に入ってすぐの場所で数人の貴族令嬢に囲まれて驚いた。

「えっ……何?」

私を呼んだ貴族令嬢はすまなさそうな顔で、会場の方向へと戻って行った。

周囲には数人の貴族令嬢が居て、まるで私を決して通すまいと言わんばかりの表情で、私を見つめていた。

今夜がおそらく『品格』の試験の本格的なはじまりであることは、参加者全員が察している。だから、この夜会に遅刻してしまうと、それだけでも点が悪くなってしまうだろうことも。

そして、私は今、彼女に罠に掛けられたのだと理解した。

さっきの、ご令嬢……いえ。あの子だけの単独犯ではないかもしれない。だって、現時点で首位の私の点が下がれば、参加者皆に可能性が出て来るのだもの。

「あの、申し訳ございませんが、通してくださる?」

これは簡単に通してはくれないだろうと悟ったけれど、そう主張しない訳にもいかない。

「まあ、リゼル・フォーセット様! 『知性』の試験、第一位のご令嬢に是非お話をお聞きしたいわ。皆そう思わない?」

「ええ。本当に」

「楽しみだわ。ゆっくりとお聞きしたいわ」

「じっくりと時間をかけてお聞きしたいわ」

もうすぐ、開会の時間になってしまうだろう。

彼女たちの要望に応え、大きく遅刻してしまえば、それだけ点は悪くなってしまう。

「ええ。もちろんよ。今は時間がなくて……また後日、お話させていただけるかしら?」

まっすぐに何も考えない正攻法で、ここを切り抜けるのは難しそう。けれど、話を聞きたいと主張する貴族令嬢を、ここで押し除ける訳にもいかない。

騒ぎになるだろうことは想像に難くない。

「まあ……リゼル様。そんな! ぜひぜひ見識のあるリゼル様に、たくさん話を聞かせていただきたいの」

「本当に。リゼル様のお父上、フォーセット男爵は異国を回っているとか。そういう素敵なお話をお聞きしたいわ……私たちは、レニア王国から出たことがないから……」

「申し訳ないわ。私には今は、時間がないのですけれど……」

眉を寄せた私が頬に手を当ててそう言えば、そこに居るご令嬢たち全員が、無言でにっこりと微笑んだ。

ええ……そんなの、重々理解しているわよね。

ここで私を足止めするように頼んだ令嬢は、今は会場で開会の時間を待っていることだろう。

……どうしよう。ここで大声を出して誰かを呼んで騒ぎになっても、それはそれで『品格』ある行動かと問われれば、それは違うと思う。

とは言え、ここで彼女たちの中身のない会話に延々付き合っている訳にもいかない。

……元はと言えば、あのご令嬢の誘いに乗ってはいけなかったということ?

「……待たせたな。リゼル」

そこに聞こえた、低い声。私には幼い頃から、とても聞き覚えのある声の主だった。