軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

リリアーナの異変

三回目の魔獣襲来の翌日、城は慌ただしかった。昨日、南東に賊が現れたのだ。兵士や領民に死者・怪我人が多数出て、家屋も複数が炎に包まれた。

エドモンドは現場へと急いだ。昨日は、魔獣の襲来で動けなかったのだ。焼け焦げた臭いが鼻を突く中、彼は被害の様子を見回しながら聞き取りを進める。

「突然だった」

「最初に火を放ってきた」

「鍬をこう、振りかぶって――」

領民たちは必死に応戦していた。それがなければ、被害はさらに広がっていたはずだ。

しかし瓦礫の間に横たわる死体の中に、明らかに領民でも兵士でもない者たちがあった。粗末な革鎧に、見慣れぬ服。手にしていた武器も、この地方ではあまり見ない造りのものだ。

「……誰だ、こいつらは」

正体は不明。賊と呼ぶべきなのか。異様な存在感を放ちながら、彼らは血と煙の中に転がっていた。

エドモンドは残りの後始末を部下に任せ、城へと戻った。思ったより、被害が少なかった事が幸いだった。

歩を進めるごとに、体の芯に重い疲労が沈み込んでくる。目も頭も鈍く、ただ休息を欲していた。

だが、帰るや否や召使いのひとりが慌てて駆け寄り、声を潜めて告げた。

「エドモンド様……リリアーナ様が、朝から一口もお食事をなさっておりません」

一瞬、疲労が霧散する。

食事を欠かすことなど滅多にない彼女が、なぜ。

エドモンドは足早に廊下を渡り、リリアーナの部屋の前に立った。

拳で扉を叩く。

「リリアーナ!」

返事はない。

扉に手をかけると、鍵はかかっていなかった。

「……リリアーナ、入るぞ」

息を飲み、ゆっくりと扉を押し開ける。

部屋は薄暗く、カーテンが閉ざされたまま。空気は重く淀んでいた。

視線の先――ベッドにリリアーナが横たわっている。

白いシーツに沈むように、まるで眠っているかのように。

だが、その静けさがかえって異様に見えた。

エドモンドは一気にベッドへ駆け寄った。

リリアーナの顔は血の気を失い、青白さが際立っている。

「リリアーナ……?」

耳を澄ませると、微かに、ゆっくりとした呼吸が聞こえた。

安堵と不安が同時に胸をかすめる。

エドモンドは彼女の手を取った。

――ひやり。

驚くほど冷たい。生気を奪われたような感触に、彼の喉がごくりと鳴った。

固唾を飲み込み、慎重に脈を探る。

……あった。

非常に遅い。しかし確かに、規則正しく打っている。

「……生きている」

呟いた声は、震えていた。

エドモンドは部屋を飛び出し、急ぎ医師を呼び寄せた。

ほどなくして駆けつけた老医師が、リリアーナの脈や瞳孔を確かめる。額に手を当て、耳を澄まし、何度も首を傾げた。

やがて、深いため息とともに答える。

「……原因は、わかりません」

エドモンドの眉間に険が寄る。

「わからぬ、だと……?」

医師は唇を噛み、リリアーナの頬を叩き、腕をつねってみせる。

しかし彼女は一切反応しなかった。

眠っている――そうとしか言えない。

けれど、その眠りは常の眠りとは違っていた。

あまりにも深く、まるで冬眠に落ちた獣のように。

リリアーナの異常の理由を、誰ひとりとして説明することはできなかった。

エドモンドは椅子を引き寄せ、ベッドに横たわるリリアーナの傍らに腰を下ろした。

彼女の静かな寝顔を見つめながら、かすれた声で呟く。

「どうして、なんだ……」

死んではいない。呼吸はある。脈もある。

だが、笑うことも、言葉を返すこともできない。

そして、エドモンドはありとあらゆる手を尽くした。

医師、薬師、学者……誰に頼んでも答えは返ってこなかった。

エドモンドの祈りも何の効果もなく、リリアーナは深い眠りから目覚めようとしない。

焦りは日に日に募り、胸を焼き続ける。

彼が手を尽くすほどに無力が突きつけられた。

三度目の魔獣襲来から二ヶ月が過ぎようとしていた。

あれ以来、魔獣は姿を見せていなかった。