軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

辺境伯の息子との語らい

準備室の机に広げられた薬草と、丁寧に包まれた魔物素材。

どれも見たことのないものばかりで、リリアーナの目は輝いていた。

「……すごい。本当に、全部珍しいものばかりです」

思わず息を呑むリリアーナ。

「どうして流通しないのですか?」

疑問を抑えきれず、顔を上げる。

エドモンドは少しだけ笑った。

「北は人口が少なくてな。行商人が嫌がって寄りつかない。だから領地で採れたものは、ほとんどそのまま中で消費されて終わるんだ」

「だから……他の人は知らないんですね」

リリアーナは納得して目を瞬かせる。

「俺の領地には、魔獣が一年中いる。北は人口が少ないから、討伐隊を組むのも難しい。だから、領主の家の人間は誰もが剣を取らねばならん」

「一年中……魔獣が」

リリアーナは息を呑む。

「冬は特別だ」

エドモンドの声が低く響いた。

「雪が積もると、山奥から普段は姿を見せない魔獣が下りてくる。寒さを生き延びるために、人里近くまで侵入してくるんだ」

「そんな……」

リリアーナの心に、辺境の厳しさがひしひしと伝わってくる。

「だから俺も父と同じく剣を学ぶ。だが剣だけでは足りない。怪我をした時、毒を受けた時、誰が助けてくれる? 流行り病が出ても行商人は来ない。だから薬草や調合を覚えるのも、生き延びるために当然なんだ」

エドモンドの横顔を見つめながら、リリアーナは胸の奥が熱くなるのを感じた。

(自分を守るために学ぶことが“当然”……私とも、どこか似てる……)

無言のあと、エドモンドはふと柔らかい笑みを浮かべて言った。

「俺、今は騎士科と領主科を掛け持ちしてるんだ。リリアーナ嬢も時々、騎士科で姿を見かけてた」

「え……っ」

リリアーナの顔が固まる。

思い返すと、確かに鍛錬場で見かけたことがあった。

いつも凛とした姿で、近寄りがたい空気を纏っていたから、声を掛けるなど考えもしなかった。

「いつも真剣だったな」

くすっと笑うエドモンド。

「……っ」

リリアーナは言葉を詰まらせ、耳まで真っ赤にして俯いた。

――嬉しくて、恥ずかしくて。

でも心の奥が、不思議なほど温かい。

(こんな気持ち、学院に来てから初めてかもしれない……)

リリアーナの胸に、小さな恋の芽がふわりと芽吹き始めていた。

学院の中庭。騎士科の生徒たちが木剣を打ち合う音が響いていた。

その中に、リリアーナは見慣れた背を見つける。

「エドモンド様!」

授業中にも関わらず、思わず駆け寄ってしまった。

「先日の薬草ですが――加熱の温度によって効能が変わることが分かりました! ご存知でしたか? とても面白い薬草で……」

その目はきらきらと輝き、周囲の視線などまるで気づかない。

エドモンドは木剣を肩にかけたまま苦笑した。

「授業中だ、リリアーナ嬢。……話すなら、剣を交えながらにしようか」

「えっ……?」

しかし木剣を手渡されれば、彼女は気後れすることなく受け取っていた。

「では……お願いします!」

――ぱん! 木剣と木剣がぶつかり合う。

リリアーナは興奮のまま言葉を続ける。

「温度を上げると毒性が抜けて、逆に鎮痛効果が増すんです! すごいでしょう!」

「なるほど。確かに面白い」

軽やかに剣を受け止めながら、エドモンドが笑う。

「剣も重みが思ったよりあるな。魔獣なら……三つ目赤鹿くらいは倒せるのか?」

「苦戦しますが、倒せますね」

リリアーナは一歩下がって構え直す。

「エドモンド様なら、もっと大型も狩れそうですね……」

「大熊、までかな。一人だと」

「す、凄い!」

木剣を振るう合間に目を丸くするリリアーナ。

傍で見ていたエドモンドの友人たちは、物騒な内容なのに、妙に楽しげなやり取りに肩を揺らして笑っていた。

しばらく打ち合いが続いたあと、エドモンドが木剣を下げる。

「……リリアーナ嬢は、思ったより強いし……何より勝気だな」

「えっ」

リリアーナは顔を赤らめる。

「わ、私、エドモンド様があまりにも強くて……少し悔しいんです」

その小さな申し出に、エドモンドは一瞬目を丸くし、それから静かに口元を緩めた。

「では次は、もう少し本気で相手をしよう」

――その言葉に、リリアーナの胸は悔しさと嬉しさが入り混じって高鳴っていた。

友人たちの会話

「おい、聞いたか? リリアーナ嬢、三つ目赤鹿を倒したんだってよ」

「マジか……あれ、普通なら三人がかりでも危ないぞ?」

「でもエドモンドは大熊までいけるって言ってただろ」

そこで一人が地面に棒で図を描く。

『三つ目赤鹿 < リリアーナ嬢 < 大熊 < エドモンド』

「おいおい、エドモンドがトップかよ」

「当然だろ。領主科と騎士科掛け持ちでかつあの強さだぞ」

「でも待てよ、赤鹿を単独で仕留められるなら、リリアーナ嬢は俺たちより上じゃね?」

「……あれ、俺たち下じゃん」

一瞬沈黙。

そして全員で首を横に振った。

「いやいや! 俺たちは集団で対人相手で戦うタイプだから!」

「そうだそうだ、俺たちは連携力が売りだ!」

「じゃあまとめて『そこそこ強い』枠に入れとくか」

最終的に出来上がったのは――

〈魔獣ヒエラルキー〉

最上位:エドモンド(大熊まで対応可)

上位:リリアーナ(三つ目赤鹿対応可)

中位:友人連携チーム(たぶん角黒豚一匹ぐらい?)

下位:一般生徒(逃げ足専門)

「なあ……俺たち、このままだと一生『中位』って呼ばれそうじゃないか?」

「いいんだよ、真ん中が一番安全だ」

「いやでも、エドモンド様の友人=強い!って思われたいだろ!」

「じゃあお前、大熊と戦ってみろよ」

「……やめときます」

と、くだらない議論で盛り上がっていた。