軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

マルグリットは手紙を書いた

リリアーナが去った後、オルフェウスたちは、厳しい監視下に置かれていた。何も出来ないまま一夜が明けた。翌朝、沈んだ空気の中でマルグリットが口を開いた。

「取引先に、至急手紙を書かなければいけないの。許可をいただけないかしら?」

見張りの兵士は警戒を崩さずに言う。

「どうしても必要なことか?」

マルグリットは迷いなく頷いた。

「……相手は格上の公爵家なの。お願いされていた品の発送が遅れているのよ。しかも、品質確認をしたいと言われていたから、良いものを選んでいたところなの。…もし怒りを買ったら、あなた方にもその咎が飛ぶかもしれないわ」

「……何を送るのだ?」

「お茶よ。」

兵士は少し考え、やがて決断した。

「……送る物と手紙の内容は確認させてもらう。それで良いか。」

「ええ、ご自由に。」

マルグリットは静かに微笑んだ。

彼女はすぐに手紙をしたためた。

―― 「希望されていた品を送ります。今回は、とても良い品と思っております。お確かめ下さい。

ただ、こちらの事情によりこれ以上は用意できないと思います。ご容赦下さい。」

その短い文に、マルグリットは最大限の警告と訴えを込めた。添える品は、甘甘茶を多すぎない量。だが、その質は極上だった。

兵士に確認されたあと、荷は最速の手段で公爵家へと送られた。

――そして、公爵家。

手紙が届いた瞬間、屋敷には静かな衝撃が走った。

「……どういうことなのかしら?」

公爵夫人は眉を寄せ、文をもう一度読み返した。前回の手紙には、リリアーナが行方不明だという報告があった。しかし――今回の「事情によりこれ以上用意できない」という一文。甘甘茶の取引停止。

それはどう考えても、ただ事ではなかった。

「……急ぎ、調べて。」

公爵夫人の一言で、公爵家所有の諜報員が静かに動き出した。公爵は、夫人の動きを止めることはなかった。

公爵家の諜報員は、さすがとしか言いようのない素早さで動いた。情報はすぐにまとめられた。

――オルフェウスたちは拘束され、

――リリアーナは王都へ連行された。

時期から考えれば、すでに王都へ到着していてもおかしくない。

さらに、今回送られてきた甘甘茶の鑑定結果は驚くべきものだった。それを確認した公爵夫人は、静かに立ち上がった。

「……王妃に会いに行くわ。出来るだけ早く日程を組んで。理由は“お知らせしたいことがあります”で良いわ。」

その言葉を受け、公爵夫人と王妃の茶会は異例の速さで実現した。

―――王宮・王妃の私室にて

王妃は淡く微笑んで迎えた。

「あなたから会いたいだなんて、珍しいわね。」

「ご無沙汰しております。王妃様もお忙しいでしょうし……つい、控えておりました。」

公爵夫人は丁寧に一礼した。

「それで、伝えたいこととは?」

王妃が尋ねると、公爵夫人は合図し、侍女が銀の皿を運んできた。皿に乗っているのは、先日届けられた甘甘茶の一部だった。

王妃の扇がほんの少し揺れる。

「……それは、何かしら?」

「鑑定で、ご確認いただければ分かります。

内密にされることを、おすすめいたしますわ。」

王妃の側近の鑑定能力者が呼ばれた。

鑑定をした能力者は、王妃の耳元へそっと結果を告げる。

――主な効能は、若返り。その他色々有り。

王妃はわずかに目を見開いたあと、にっこりと微笑んだ。

「……ありがたく、頂くわ。」

鷹揚に言い切るその表情を、公爵夫人は静かに見つめ返した。

「本来なら、私がまず試して安全を確認し、

安定供給の目処がついてから献上するつもりでした。ですが……それが叶わない流れとなりまして。せめて記念にと、お持ちいたしました。」

王妃は公爵夫人の肌をさりげなく観察する。

――以前より明らかに艶がある。

――目元の皺も薄い。

――髪にはふんわりとした力強さが戻っている。

「……試してみたのね?」と王妃。

「ええ。期間は短いですが、体調も良いように思いますわ。」

公爵夫人は穏やかに答えた。

「“記念”とは、どういう意味かしら?」

王妃の声に、わずかな緊張が宿る。

「作り手が、国王に召し上げられるかもしれないのです。この品質は、北の地にて、彼女の手にしか作れません。……本当に、残念ですわ。」

王妃の眉がぴくりと動いた。

「その者が自由になれば――献上する、と?」

「もちろんでございます。」

公爵夫人はゆるやかに微笑んだ。

その微笑みは、静かでありながら、

王妃の心を確実に揺らす“誘い”だった。

王妃は薄く笑んだ。

その笑みには、優雅さとともに棘のような含みがある。

「……私が、その者を独占するとは思わなくて?」

静かに放たれた問い。部屋の空気が、わずかに張りつめた。

公爵夫人は一歩も引かず、品よく微笑んだまま答えた。

「王妃様は慈悲深く、公明正大なお方。そのようなことをなさるはずがありませんと、私は存じておりますわ。」

二人の視線が絡み合う。柔らかい笑みの奥で火花が散るような、静かな駆け引き。

――どちらも、一歩も退かない。

数拍の沈黙ののち、王妃がふっと息を吐いた。

「……いいでしょう。貴重な情報をありがとう。少し、時間はあるかしら?」

「はい、もちろんでございます。」

公爵夫人は上品に頭を下げた。

その後、扉を閉めた私室では、二人だけの、決して外に漏れぬ“内密の話”が続いた。