軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

二人によく似た女の子

リリアーナとラディンは、あまりの出来事に言葉を失った。

目の前の光景が現実だと理解するまで、数秒の沈黙が流れた。

――しかし、まずい。裸だ。

ラディンは我に返り、慌ててベッドのシーツを引きはがした。

そして、その幼い女の子をぐるぐると包み込むように巻きつけた。

布の隙間から覗く手足はまだあどけなく、肌は透きとおるように白かった。

包まれた女の子は、ゆっくりと目を開けた。

そして、目に涙を溜めながら、リリアーナの方を見上げた。

「リリアーナ……ごめんね。あんな風になるなんて、知らなかったんだ。

本当に、ごめんね。……嫌いにならないで」

次の瞬間、小さな身体がリリアーナに飛びついた。

そのまま彼女の胸にしがみつき、声をあげて泣き出す。

リリアーナもラディンも、ただ呆然と立ち尽くしていた。

何がどうなっているのか、理解が追いつかない。

やがて、リリアーナがかすかに声を絞り出した。

「……もしかして、お雪様、ですか?」

女の子は涙を拭いながら、こくりと頷いた。

「うん」

リリアーナはその姿を見つめた。

人間の年でいえば、五歳ほどだろうか。

髪は紫色に輝き、瞳は緑色。

どこか――自分と、そしてラディンを思わせる色だった。

「その……姿は?」

リリアーナが恐る恐る尋ねると、女の子は泣き顔のまま答えた。

「リリアーナみたいになろうとしたのに……変なのが混じっちゃったの。

魔力も、血も、時間も……足りなかったの。

精神も、身体の大きさに引っ張られちゃうの……」

小さな肩が震え、また涙がこぼれた。

そのとき、廊下を駆ける足音が響いた。

「どうした!」

不審な光を見たエドモンドが駆けつけてきたのだ。

……扉は開いたままだった。

勢いよく部屋に飛び込んだエドモンドの目に映ったのは――ラディンとリリアーナ、そして、紫色の髪の小さな女の子の姿だった。

「……は?」

エドモンドは、部屋の入り口で固まった。

目の前の光景が、どうにも現実のものとは思えない。

ラディンの滞在している部屋で、リリアーナが小さな女の子を抱きかかえている――その異様さに、頭が追いつかない。

この子は……誰だ?

思考が空転する。

エドモンドはまずラディンを見た。

ラディンは、呆然としたままだった。

その反応が、逆に状況を混乱させた。

次に、リリアーナへと視線を移す。

彼女は何の警戒も見せず、女の子の髪をやさしく撫でながら、

「よしよし」と穏やかにあやしていた。

エドモンドは深く息を吸い込んだ。

――冷静になれ。落ち着け。まず、確認だ。

そして、慎重に口を開く。

「……その子は、誰なんだ?」

リリアーナはエドモンドに気がつき、顔を上げた。

「……お雪様です」

穏やかな声でそう言った。

リリアーナのそばには、あの瓶が転がっていた。中身は空になり、布に描かれていた模様の切れ端が床に散っている。

「……そうなのか?」

エドモンドは信じられないというように呟いた。

すると女の子がリリアーナの腕の中から顔を上げ、まっすぐエドモンドを見た。

「そうだよ。ぼく、お雪様だよ」

その声は幼くも澄んでいて、嘘の響きはなかった。

エドモンドはその瞳を見て、はっとした。

髪は紫、瞳は緑――まるで、リリアーナとラディンを混ぜ合わせたような色。

視線をラディンに向ける。

ラディンは何も言わず、目を逸らした。

「……とりあえず、報告に行くか」

エドモンドは思考を止めるように呟き、額に手を当てた。

そのとき、女の子がリリアーナの服の裾を引いた。

「リリアーナ、抱っこ」

「えっと……ちょっと、重いかな?」

リリアーナが困ったように笑って断ると、女の子の瞳がみるみる潤んでいく。

泣きそうになるその姿に、エドモンドが慌てて口を開いた。

「俺が――」

言い終えるより早く、女の子はするりとリリアーナの腕から抜け出し、

まっすぐラディンの方へ駆け出した。

「ラディン、抱っこ!」

その声に、ラディンはわずかに肩を震わせた。

「……わかった」

そして、静かに両腕を差し出した。

女の子はラディンの腕の中でご機嫌だった。

「とりあえず、父上に報告するぞ」

エドモンドがそう言い、先に立って歩き出す。リリアーナとラディンは、その後に続いた。

執務室の前に着くと、エドモンドは扉を軽く叩いた。

「父上、報告があります」

「入れ」

オルフェウスの低い声が中から返ってきた。

三人が部屋に入ると、オルフェウスはまず、元気そうに歩くリリアーナの姿に頬を緩ませた。

そして次に、ラディンの腕の中で微笑む小さな女の子を見て、目を瞬かせた。

一拍置いて、彼は冷静を装うようにして言った。

「……何があった」

先日、リリアーナから“何か”を取り出した件はすでに聞いていた。そして、リリアーナは順調に回復していると。

だが、目の前のこの光景は、彼の想定をはるかに超えている。

エドモンドは少し逡巡したあと、覚悟を決めて言った。

「先日、リリアーナから取り出したモノと……お雪様が、混じったみたいです」

自分でもその説明に確信が持てず、言葉の端が弱々しくなる。

だが、状況としてはそれ以外の説明がつかなかった。

オルフェウスは目を細め、低く問う。

「何故、そうだと言える? 証拠はあるのか?」

エドモンドは口を開きかけて、何も言えずに閉じた。

その沈黙を破ったのは、ラディンの腕の中の女の子だった。

「えー、僕、お雪様だよ?」

にっこりと笑いながら、オルフェウスを真っ直ぐに見上げる。

「証拠が必要? じゃあ、オルフェウスの秘密の話なんて、どう?」

にやり、と悪戯っぽく笑う女の子。

「……待て」

オルフェウスが制止しようとした時には、もう遅かった。

「オルフェウス、エドモンドが小さい時に、あまりにも可愛いって顔中に、しかも身体にもキスしてたよね。

エドモンドが嫌がって大泣きして、マルグリットにキス禁止令が出されたよね」

沈黙。

オルフェウスは口を閉ざしたまま微動だにせず、エドモンド、リリアーナ、ラディンの三人は、ただ静かにオルフェウスを見た。

女の子は、さらに畳みかけるように言った。

「マルグリットの話もできるけど、いる?」

「いいえ。必要ないわ。私は、お雪様と信じるわ」

扉の向こうから現れたマルグリットが、間髪入れずにそう答えた。

「えー、知りたいでしょ?」と女の子が笑うと、

マルグリットはすっと女の子の前に歩み寄り、完璧な笑顔で言った。

「必要は、ありません」

その圧に、女の子はビクッとしてラディンにしがみついた。

マルグリットはその様子を見てから、柔らかく息を吐き、

「この子、服を着ていないわ。……昔のがあるはずだから、着せましょう」

と言い、女の子とラディンを連れて部屋を出ていった。

扉が閉まったあと、執務室には微妙な沈黙が落ちた。

オルフェウスはただ、額に手を当てて小さく呟いた。

「……厄介なことになったな」