軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

崩れたお茶会

フローラ嬢の一言に、場が凍りついた。

一瞬、確かに――と納得しかけたが、すぐに思い直す。

バウム領では検査に検査を重ね、安全性は確認済みだ。

食べ物である以上、慎重になるのは当然だった。

いくら美味しくても、身体に害があるものは論外である。

万が一、体調を崩せば一大事だ。

家族や領民のために作ったものが、信頼を損なう結果になるなどあってはならない。

だからこそ、徹底的に検証した。

――そして今では王城でも口にされている。

王族がに提供される食材なのだら、王宮側でも検査はを行い安全確認は必ずなれているはずだ。

むしろ、していない方がおかしい。

「大丈夫ですよ」

私は微笑みながら答えた。

「国王陛下も王妃様も召し上がっておりますし、もちろんローレル様も“美味しい”と仰ってくださっています」

フローラ嬢が言い返そうと口を開きかけたのを見て、私は言葉を重ねた。

暗に“それ以上は不敬になる”と示したつもりだ。

……伝わったかは分からないけれど。

というか、完全に今のはアウトだよね。

フローラ嬢、本当に大丈夫かな?

私は侍女が注いでくれた紅茶を一口飲む。

気持ちを落ち着かせる。

紅茶は、フレーバーティーでバウム子爵領の赤薔薇が使われている。

色も普通の紅茶より濃い。

そして味も良い。

……あれ、これ。

健康を害するどころか、とても身体に良いのでは?

間違いないと直感する。

もしかして、赤薔薇も進化した?

また、改めて検証が必要である。

……レーモンお兄様に報告しよう。

私は結婚式の準備で現在忙しいのだ。

(ちなみに赤薔薇はイチゴ味なので、初見は脳が混乱するけど)

香りは薔薇なのに味は苺。

慣れるまでは確かに戸惑う。

視界の端で、アンジェリカとヴィオレ様が完全に臨戦態勢に入ったのが分かった。

――落ち着いて。

今日はローズマリー様の同伴者として来ているのだ。

フローラ嬢とここで揉めるわけにはいかない。

時間が経つに連れて、ますますローズマリー様は、顔色を失っていく。

この状況は、彼女の本意ではない。

それだけははっきりと分かる。

できれば――

彼女とは、良い関係を築きたい。

もちろん、政治的な意味もあるが。

魔法学園で三年間、同じ教室にいた。

言葉を交わす機会は少なくても、人柄は見えてくる。

アンジェリカも、それは分かっているはず。

フローラ様は悔しそうに顔を歪めた。

どうしてここまで敵意を向けられるのか、本当に分からない。

――やっぱり乙女ゲーム第二弾?

そして私が悪役令嬢ポジション……?

ここで『おーほほほ』と高笑いでもすれば、納得してくれるのだろうか。

……いや、無理だ。

私は高笑いができない。

確実に咳き込む。

あれ、かなり肺活量いるのよね。

そもそも実際にやってる人見たことないし。

「私はバウム領で青薔薇が人を襲ったと伺いました!」

フローラ様が声を張り上げた。

――え?

なぜ、その話を知っているの?

私ですら、最近知ったばかりなのに。

ヴィオレ様の視線が鋭く変わる。

完全に敵認定したのが分かった。

青薔薇がならず者を拘束した件は、バウム領でもごく一部しか知らない情報。

その上で問題なしと判断されている。

それを――なぜ。

聞いても正直に答えるとは思えない。

なら、どう動く?

「フローラ様、軽々しいことを仰らないでくださいまし」

重たい空気の中、静かに、しかしはっきりとした声が響いた。

それまで沈黙していたローズマリー様だった。

ラベンダーの瞳には、はっきりと怒りが宿っている。

ローズマリー様のこんな表情は初めて見た。

「メリッサ妃。フローラ様が不適切な発言をいたしました。代わりに謝罪いたします。申し訳ございません」

立ち上がり、深く頭を下げる。

「ローズマリー様は何も悪くありません!」

私は慌てて立ち上がり、その手を取った。

――違う。

謝るべきは彼女じゃない。

「何かあったのかい?」

そこに、男性の声が響いた。

突然の声に、私は振り返る。

ローレル様がこちらに向かって歩いてきているところだった。

いつも通りの、余裕の笑みを浮かべて。

――どう説明すればいい?

ローズマリー様は泣きそうだし。

……あれ?

これ、私が泣かせてる構図に見えない?

その考えに至った瞬間、身体が固まる。

――やっぱり、私が悪役令嬢?

不安が一気に押し寄せる。

血の気が引いたのが自分でも分かった。

「メリッサ!」

ローレル様が駆け寄り、私を強く抱きしめた。

「え……?」

この場面でローレル様に抱きしめられるとは思っていなかった。

しかもローズマリー様から距離をとるように。

「大丈夫? 今にも倒れそうだよ」

「……あ」

呼吸を忘れていた。

慌てて何度か息を整える。

「申し訳ない。妃の体調が優れないようだ。ここで失礼する。ご令嬢方はそのままお茶を楽しんでほしい。メリッサが準備したものなんだ」

私を抱き寄せたまま、ローレル様が場をまとめる。

「私がメリッサ様に付き添います!」

アンジェリカが即座に立ち上がる。

「パトーキ侯爵令嬢はここを頼みたい。君が一番理解しているし、メリッサの意図も汲めるはずだ」

穏やかな声で、ローレル様がアンジェリカに言った。

……確かに、その通りだ。

アンジェリカに相談しながら、このお茶会の準備をしたのだから。

「承知いたしました」

「バウム領特産の赤薔薇のお茶と菓子、ぜひ楽しんでくれ」

ローレル様が令嬢たちに向かって言う。

――“バウム領”。

少しだけ強調された気がした。

「もちろんでございます」

アンジェリカが、静かに、しかし力強く応じる。

(ああ、これ……ローレル様、絶対に聞いてたな)

ローレル様、間違いなく、先程交わした私たちの会話聞いてる。

そうでなければ、ここまでタイミングよく現れたりしないはずだ。

その意図をアンジェリカも理解している。

ローレル様とアンジェリカ……いつの間に、そんな信頼関係に?

でも、今はそれどころじゃない。

気持ちが悪い。

吐き気がする。

目眩もひどい。

ローレル様に支えられていなければ、立っていられない。

――なんで?

考えて、ひとつ思い当たる。

魔力切れ。

それ以外、ありえない。

足元がぐらつく。

自分でも気がつかない間に魔力を使って警戒していたようだ。

でも、なぜここまで魔力を消費してるいの?

理由は分からない。

もっと私に魔力量が多ければ良かったのに。

地面が揺れているような感覚。

意識が遠のいているのが自分でも分かる。

「メリッサ、大丈夫だからね」

ローレル様は私を強く抱きしめながら、優しく囁く。

私も安心して、ローレル様に身を寄せた。

もう、限界だ。

「ローレル様……申し訳、あり……ませ……」

言葉が途切れる。

謝罪の言葉が、最後まで言えたのか自分では分からなかった。

そして。

そのまま、私の意識は暗転した。