軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

次兄の苦情と違和感

日が暮れてからローレル殿下は王太子宮殿に戻ってきた。

夕飯は一緒にとる予定と前触れが来ていたので、私は大人しく待っていた。

(本音を言えば、一人でゆっくり食べたかったけど)

ローレル殿下と一緒だと緊張して、せっかくの高級料理を味わえない。

――絶対に言えないけど。

私の様子を見て、ローレル殿下は少し苦笑しているようだった。

もしかして、見透かされてる?

気取られないように微笑んでみたけれど、余計に笑われた気がする。

……やっぱりバレてる?

だってランチも美味しかったし。

デザートのスイーツなんて神なのかと思った。

フルーツタルトなんて、泣きたくなるほど見栄えが良くて美味しかったのだ。

実家の領地の食べられる甘い赤い薔薇の花びらも添えてあって、豪華さが増していた。

見た目って大事だな、と改めて感じた。

ディナーが運ばれてきて、私は思わずテンションが上がる。

彩り豊かで、本当に美味しそうだ。

「今日、シトラールが私の所に訪ねてきたよ」

不意にローレル殿下が口を開いた。

シトラールとは、私の二番目の兄である。

シトラールお兄様とは年齢が一つしか違わないせいか、ずっと一緒に育ってきた。

長兄のレーモンお兄様と姉のリモネンお姉様が双子だったからか、シトラールお兄様と私も双子のように育てられた。

洋服も長兄と姉のお下がりだったので、私とシトラールお兄様も双子コーデが定番だった。

その為、よく双子にも間違えられた。

外見は全く似てないのに。

何をやるにも一緒。

こんな風に私が王家に嫁いだことに、一番驚いているのはシトラールお兄様かもしれない。

でも、何を考えているのかいまいち分からない人なのだ。

感情が表情にほとんどに出ない。

笑顔は浮かべているけど。

本心を隠すのが凄く上手い。

貴族らしいと言えば貴族らしいけど……家族だけの時もそんな感じ。

「私に会いにですか?」

私は思ったことをそのまま口に出す。

少しずつ、ローレル殿下といることに慣れてきたのかもしれない。

私の問いにローレル殿下は首を横に振り、苦笑いを浮かべた。

「?」

私に会いにではないのなら、何のために?

シトラールお兄様はもともと周りを気にしない人だけど……それでも分からない。

「私に苦情を言いに来た」

ローレル殿下はどこか楽しそうに言った。

「え?」

私は思わず目を見開いた。

あのシトラールお兄様が、殿下に苦情?

想像がつかない。

何事にもいつも静観している人なのに。

……私に対して以外は。

そして、ローレル殿下は苦情を言われて何だか、嬉しそうだし。

意味がわからない。

魔法のある世界に転生したと気づいてテンションが爆上がりした私の、唯一のストッパーがシトラールお兄様だった。

魔法で何かしようとするたびに一緒に実験してくれたし。

……巻き込んだとも言えるけど。

でも私、魔力が少なくて大したことは出来なかったし。

きっとシトラールお兄様への被害は小さいはず……たぶん

青薔薇の魔法改良も、お母様が花好きで、バウム領は花が育ちにくかったから作っただけだし。

私自身、花への興味は薄い。

バウム領では野花もあまり見かけないくらいだったし。

母は父から花束をプレゼントされると毎回嬉しそうにお礼を言っていた。

私は花束を貰ってもうれしくないな、と思っていた。

当時は毒草にハマっていたので、毒草の本が欲しいなーなんて考えていたのだ。

毒耐性にどこまで耐えられるか気になっていたのだ。

それに私は薔薇の栽培がとても難しい花だなんて知らなかった。

花といえば薔薇でしょ、くらいの軽い気持ちだったのだ。

無知って怖い。

生命力の強い青薔薇を作ったら、いつの間にか増殖してるし。

バウム領全体に広がったのは、本当にあっという間だった。

それでなくても土地は痩せているのに作物への栄養分を青薔薇が摂取してしまっては大変だと、作物に影響が出そうな場所の青薔薇は除去された。

当然である。

畑の周りの青薔薇を処分して、まとめて置いていたら良い肥料になってしまったし。

なんで?

お姉様の「食べられたらいいのに」で緑の薔薇を作った。

花びらキャベツ、茎アスパラの味と感触になってしまった。

なんで?

さらに、またもやお姉様が「薔薇をスイーツに使えたら」で甘くスイーツに使える赤い薔薇を作った。

香りは薔薇だけど、なぜか味はイチゴ味。

もう意味が分からない。

途中で興味が別に移って、私は研究を長兄であるレーモンお兄様へと丸投げしてしまったけど。

……まぁ、そんな感じで中途半端な私に文句を言うのがシトラールお兄様だ。

私にだけ口うるさいけど、他人には何も言わない。

妹に甘いのだと私は思っている。

「メリッサ嬢のことが心配で仕方ないのだろう。シトラールは学年を一つ落としてまでメリッサ嬢の同級生として魔法学園へと入学したくらいだ」

ローレル殿下の言葉に私は乾いた笑みしか出なかった。

そうなんだよね。

シトラールお兄様、私の同級生として魔法学園に入学したのだ。

私が何かやらかすといけないからって。

……断言されたのは納得いかないけど。

家族も全員それに賛成した。

普通、兄に学年落とさせる?

おかしいよね?

それでも。

(……あの兄が、わざわざ苦情を言い王城へと足を向けるなんて)

やっぱり、少し違和感がある。

「シトラールはハーツにも苦言を呈していた」

ローレル殿下は笑いながら続けた。

それは、分かる。

二人は昔から仲が良い。

無口同士なのに、なぜか気が合うのだ。

私は少し考えてから、ぽつりと呟いた。

「……お兄様は、心配の仕方がちょっと過剰ではありませんか?」

自分でも思う。

そこまで警戒されるようなこと、しているだろうか。

「私はそんなに危険なことしてないと思うんですけど……たぶん」

小さく付け足す。

断言できないのが悲しい。

ローレル殿下は一瞬だけ目を細めて、穏やかに微笑んだ。

「どうだろうね」

……やっぱり何かおかしい気がする。

私の生活はこれからどうなるのだろう。

シトラールお兄様に、次に会えるのはいつになるのか。

現状では、何も予想できない。

(シトラールお兄様が動くほどのこと……何が起きているのだろう?)

私は少し首をかしげて考え込んでしまった。

「シトラールより、私の方がメリッサ嬢のことを過剰に心配しているよ」

ローレル殿下はにっこりと微笑んで私へと言い放った。

聞きたいことはたくさんある。

でも、それ以上は何も聞けない雰囲気になってしまっていた。