軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

防御特化と最終イベント2。

メイプルが全てのスキルを惜しみなく使って蹂躙している中、サリーもまたバトルロイヤルエリアに閉じ込められていた。

「速ぇ……!当ったんねぇし!」

振り下ろされる大槌を躱してサリーが腹を斬り裂く。一度攻撃を躱す度に【剣ノ舞】がサリーのダメージを上げて、その短剣の一撃は重くなる。

「【ファイアボール】!」

「んなもん……はあっ!?」

足元から噴き出した水が男を打ち上げる。サリーのスキル【偽装】によるスキルの見た目、名前の変更のメカニズムはまだ未解明。

そもそも、見た目を自在に変化させる第二のユニークシリーズは、【楓の木】のメンバーしかその存在を正確に認知していない。

これは今初めて相対したプレイヤーに見破れるような技ではないのだ。

「【ピンポイントアタック】!」

「く、そ……」

打ち上げられ落下する無防備な所をサリーによって貫かれて男は消滅する。

危なげのない勝利。それもそのはず、サリーの集中力はかつてないほどに高まり、もはやその予測はカスミの【心眼】にすら迫る勢いだ。

サリーが今日に賭けてきた時間は他のプレイヤーと圧倒的に違う。

相対するプレイヤーが知ったことではないが、サリーの願いはその能力を限界を越えて高めていた。

それはもはやメイプルの防御と同じ域のもの。

メイプルに防御貫通効果のないスキルを使って、もしかするとなどということがないように、今のサリーに理論上避けられる攻撃を放つことに意味はない。

それはメイプルの絶対と同じ、それでいて本来あり得ることのないはずの絶対の回避だ。

「探さないと……」

プレイヤーを一人斬り捨てて、サリーは次の敵を探す。バトルロイヤルを終わらせるには範囲内全てのプレイヤーを倒さなければならない。

探すとはいうものの、ここで探しているのは他のプレイヤーなどという曖昧な存在ではない。

探しているのはメイプルただ一人。

サリーはまだ一つ目のハードルを越えただけ、この広いフィールドで巡り会えないようではそこまでだ。

「よし、また二人……!」

サリーは名も知らぬプレイヤーを見つけ、一直線に距離を詰める。弓使いと大剣使いの女性プレイヤー二人組も、サリーに気づき武器を構えた。

「【ファストアロー】!」

距離があるうちに放たれた超高速の矢。回避動作を見せないサリーに、当たった後のことを考える弓使いの前で、矢はダメージを与えることなく後方へ抜けていく。

「えっ!?」

放った本人よりも正確な弾道予測は弓使いの想定外のこと。サリーは避けなかったのではなく、気づけないほど僅かに頭を逸らして真っ直ぐに走りながら矢を避けたのだ。

「【跳躍】!」

サリーは弓使いが次の矢を放つ前に、勢いのまま跳んで距離を詰める。

「舐めるな!」

それをみすみす見逃す大剣使いではない。いや、見逃せる大剣使いではない。

事実、サリーは大きな隙を晒して、されどこれを止めなければ相棒に致命的な一撃が入ることが確実なこの一瞬。迎撃しない選択肢など存在しないのだ。

振るった大剣がサリーを捉えた瞬間、サリーの姿がかき消えて大剣使いの背中側から長剣が胸を貫く。

「がっ、はっ!?」

完璧に迎撃したはずが大ダメージを負うことになり、状況を飲み込めない二人。弓使いは慌てて現れたサリーに弓を向けるがそれより早く大量の水が襲いかかる。

「【水竜】!」

竜の形をした水の塊が地面にぶつかり、暴れ回って二人を飲み込む。姿勢すら保っていられないような激流の中で、狙いをつけてまともに矢を放つことなどできない。

「何、これ……!?」

「どうなってる!?」

「【鉄砲水】!」

水に飲まれた二人のうち、既に一撃を受けて弱っている大剣使いを別方向からの水の流れが打ち上げる。

「【氷柱】!」

サリーは打ち上がった大剣使いに沿うように【氷柱】を立てると、糸を繋いで接近し身動きが取れないうちにその首を落とす。

「【スプレッドアロー】!」

大剣使いを倒すために注力する間に、立て直した弓使いから放たれた拡散する矢に対し、サリーは空中で体を捻ると自分の体に直撃する矢のみを叩き落とす。

「嘘……!?」

これが一切当たらないプレイヤーと対面したことなどない。何をどうしても攻撃が当たるビジョンが思い浮かばない。

高速の矢も拡散する矢も完璧に対処された。

その動きは偶然上手くいったというようには見えない。自分の持っているスキル全てが脳裏をよぎるが、同時にそのスキル群は何も有効打がないことを告げている。

「こんなのどうやって……っ!」

「ごめん。止まってられないんだ」

最後に放たれた矢を無慈悲に完璧に弾くと、サリーはそのままダガーを突き立ててその命を刈り取った。

「探さなきゃ、早く」

強い意志がサリーの足を動かす。

まだ空に輝く赤い光が消えていないのを見て、サリーは次の敵を探しに走り出した。

イベントにも終わりの時がある。

時間は無限ではなく、今も流れ続けている。

たった一度のチャンスを逃すわけにはいかないのだと、サリーは踏み出す足に力を込めた。

「とぉーう!」

「ぐあっ!」

「行けーっ!」

「くっそ……!踏み込めねえ……!」

「いくらでも姿を変えてきやがる!」

何度も発生したバトルロイヤル、メイプルは縮小した範囲の中央で、多くのプレイヤーに囲まれとりあえず『アレ』をどうにかしてからだという共通敵として認識され武器を向けられていた。

バトルロイヤルのはずが常に一対多、しかしそれも仕方のないことだろう。

草原の中央で六枚の羽を広げるメイプルは、【滅殺領域】と【身捧ぐ慈愛】のコンボで防御を固めつつ広範囲に持続ダメージをばら撒き、【魔王】と【捕食者】を守りながら【古代兵器】【機械神】【毒竜】による長射程攻撃を押し付けてくる。

踏み込むも地獄、踏み込まぬも地獄。放っておけばメイプルは近づいてきて【滅殺領域】に一人ずつ飲み込もうとしてくる。

「【アシッドレイン】!」

広範囲に降り出した酸の雨。他の攻撃と比べて随分優しいその雨を浴び、特にダメージを受けなかったプレイヤーを見て、他の攻撃に意識を割いたプレイヤーがしばらくそのまま雨を受け続け突然即死し消滅する。

「は?」

「甘い攻撃なんてねえってことかよ……!」

アレもこれもダメ、まだ【百鬼夜行】も【暴虐】も【再誕の闇】も【悪食】もある。

絶望が折り重なるよう。本当に同じプレイヤーの枠から生まれたものかも疑わしい。それでも、無敵でもない。適切に斬れば倒せるものであり、有効な攻撃は存在する。

問題は実際に叩き込むことが極端に難しいという事実、それだけだ。

「【攻撃開始】!」

メイプルが自爆して急加速しプレイヤーの一団に迫る。

メイプルの機動力は決して高くはない。しかし、直線的な移動においてのみ、自爆飛行を使った爆発的な加速が可能なのだ。

「【水底への誘い】!」

「「「あっ……」」」

大人しくしていた所から急に牙を剥いてきた、ガパッと開いたメイプルの五本の触手は、大型生物の口のように見えた。

包み込まれたプレイヤーを【悪食】が即座に消滅させる。

「強え……!」

「こうも強いってか!?」

「もう一回、行くよ!」

爆炎を残してメイプルが別の一団に向けて飛んでいく。やがてメイプルと対峙するプレイヤーは気づく。この形式におけるメイプルと普段のメイプルとの大きな違いに。

「やああっ!」

【悪食】でまた五人を消し飛ばす。そのまま【古代兵器】による追撃でレーザーによる薙ぎ払いを加え、【滅殺領域】と【魔王】で呼んだ異形が命をもぎ取る。

メイプルを倒す。大規模対人戦の時、それがギルドで議題に上がる度、まず最初に提案されるのは、決まってメイプルの持っているスキルを、クールタイム状態にすることだった。

全てが使えるメイプルは手に負えない。だが、回数制限や長いクールタイムの大技が多いメイプルは、上手く押し引きを繰り返せば徐々に弱体化していく。

そうして攻撃手段を一つずつもぎ取って初めて、ようやく接近して防御貫通攻撃で攻めていけるのだ。

これがメイプル攻略における大前提。フルパワーのメイプルと戦ってやる義理はない。

しかし今回はお祭り騒ぎ、全員が何度も全力で戦えるように企画されたイベントだ。

大抵の場合出会うメイプルはフルスペックで、倒せれば最高の栄誉を得られるが、端的に言って化物としか言いようがない出力を維持している。

「くそ、こりゃ駄目だ……!」

「トップギルドのトップクラスは流石に桁違いかあ……!」

負けても報酬は変わらない。むしろ全力で戦う姿を見ることができ、【魔王】という新スキルも確認できて土産話は十分だ。ここで死んでも切り替えて、リスポーンしてまた戦場に行くだけである。

いいものを見た。そう言い残したプレイヤーを【捕食者】が食い千切る。

「やったっ!今回も上手く行った!」

全力の化物を相手にするのはどこまでも困難であると、メイプルは終わりなく繰り出される致死級のスキルによって証明するのだった。

「ふー……結構戦ったかも!」

連戦連勝。

何十人、いや何百人とプレイヤーを轢き潰し、バトルロイヤルを示す赤い光が一旦収まったタイミングでぐっと伸びをして、近くの大きな石に腰掛ける。

「スキルを使うのも慣れたなあ……こんなにたくさんあるのに」

青いパネルを出して自分のステータスを確認する。ゲーム開始からずっと変わらない防御特化のステータスと、始めた時より随分増えたスキルの数々。

メイプルはしばし目を閉じて、それらのスキルを手に入れた時のことを思い出す。

今も昨日のことのように思い出せる旅路。

まさかゲームの中でこんなにも増えるとは思わなかった鮮明な思い出達。

「寂しいなあ」

それでも終わりは決まっている。メイプルが遠く広がる空を見上げながらしんみりと感傷に浸っていると、遠くから歩いてくる人影に気づいた。

「……あ、ミィ!」

近づいてきたのは、見覚えのある赤を基調とした装備の友人、ミィだった。

「メイプル!調子はどう?」

「結構勝ったよ!」

そう言ってメイプルはVサインを出す。

実際、ここまでのバトルロイヤルにおいてメイプルは連戦連勝。それもその身に一切触れさせないような完璧な勝利を収めてきた。

「ミィは?」

「私もまだデスしてないよ。【炎帝ノ国】のギルドマスターとして、そうそうかっこ悪いところは見せられないから」

メイプルは一旦おいておくとして、ミィもバトルロイヤルのような、多くのプレイヤーが入り乱れる戦場において強いプレイヤーである。

イグニスによって制空権を取ることができ、広範囲への高火力攻撃も得意だからだ。

メイプルもミィの強さはよく知っており、一度もデスしていないというのも納得できる。

「で、まあ。こうしてメイプルを探して見つけたわけなんだけど……リベンジマッチをしたくてね?」

「ええっ!?」

「だってPVPではやられっぱなしだし!それって悔しいし!それで、メイプルはゲームを離れちゃうんでしょ?無理ならいいかなって思ってたけど、もし出会えたなら戦おうって」

「なるほど……」

「どう、駄目?」

「いいよ!」

「オッケー、嬉しい!じゃあ恨みっこなしの一回勝負!」

「分かった!よーし、頑張るよ!」

「じゃあ決闘モードで。これね、観戦カメラをオフにしたり他の人が入ってこないエリアにしたり、時間制限をつけたりもできるんだ」

「ふんふん。使ってなかったし、あんまり使う気もなかったから……ミィが決めてくれる?」

「ん、分かった。じゃあ決めたら一戦!」

「うん!えへへ、何かちょっと緊張するー」

「あはは、私も。でも始まったら手加減はなしだからね?」

「おっけー!」

こうして偶然か運命か、巡り会ったメイプルとミィの決闘が執り行われることとなったのだった。

所変わって、サリーは森の中を駆け抜けながら、メイプルの居場所を探し回っていた。

索敵能力も機動力も高いサリーだが、それはあくまでプレイヤーの技術やステータスの範囲での話だ。

空を飛び回ることもできず、特殊な索敵スキルも持たないサリーは、地道に走ることでしか目的の相手を探せない。

そうしているうち、先に見つかったのはどうやらサリーの方らしかった。

「あー!いたーっ!」

「……その声は」

サリーはぴたりと足を止めて声の主の到着を待つ。

すると、茂みをガサガサとかき分けて声の主フレデリカが現れた。

「やほー、いいとこで会ったねー」

「そうかな?」

「そーうーなーのー!言わなくても言いたいことは分かるでしょ?あっちの広い方でやろー」

「オッケーとは言ってないけど」

「えー!?」

「ふっ……嘘嘘、冗談。いいよ。フレデリカにはたくさん相手してもらったわけだし。いや、私が相手してあげてたんだけど」

「そこは言い直さなくていいとこでしょー!」

フレデリカとの決闘は確かに楽しかったのだ。

サリーが言ったように、相手をしてもらっていたという側面も少なからずそこにあった。

「ま、ともかく。やるならやろう」

「じゃあこっちねー」

フレデリカはサリーを先導して平野へとやってくると、慣れた手つきでパネルを叩き決闘ルールを決めていく。

ルールはいつも通り、今日まで幾度となく繰り返してきた決闘の通りだ。

「有利なフィールドを選ぶのはいいの?」

「お利口さんにしてても勝てる相手じゃないって知ってるし。それにちょっとでも有利な場所で戦うのは戦闘の基本でしょー?」

「それはそうだね」

「勝ち逃げなんて許さないんだからー。最後に黒星一つつけていってあげる!」

これまでの戦績はフレデリカの全敗。それでも、この一戦に勝てればこれまでの敗北の分だけ甘美な勝利となることは間違いない。

「勝てたら誇っていいよ」

「随分な自信だねー。今までもそこまで言ったことってなかったと思うけどー?」

「うん。今日の私はこれまでで一番強い。勝てるなら勝ってみてよ」

フレデリカはその言葉と同時にサリーの纏う雰囲気が一変したのを感じ取り、思わずルールを設定する手を止めサリーの方を見る。

これまで幾度となく決闘を繰り返してきたフレデリカだからこそ分かる。

異常なまでに研ぎ澄まされた集中力と、一瞬でも隙を見せれば喉にダガーを突き立てると言外に告げる、後退りたくなるようなプレッシャー。

普段の決闘はもちろん、これまでのどのイベントでも、ここまでサリーに恐れを感じたことはない。

明らかに異様で異常。サリーの言う通り、目の前の怪物は間違いなくこれまでで一番強い。見た目こそ何も変わりはしないものの、フレデリカはそれを悟った。

「ふ、ふふっ。すっごい仕上げてきたってことねー……おっけーおっけー!その方が倒しがいがあるし、やっと倒せた時の嬉しさも大きいしー!……ふー……負けないから」

「私もそのつもり。今日、負ける気はない。白星はあげられない」

フレデリカとサリー、長くライバル関係を続けてきた二人もまた、ここで決着をつけることにした。

限界まで研ぎ澄まされた刃のようなサリーを前に、フレデリカも一瞬感じた恐れを振り払って杖を構える。

宣言した通り、サリーに勝ち逃げさせる気はさらさらないのだ。

「いくよー……!」

「勝負!」

こうして二人の決闘の幕が切って落とされた。