軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

防御特化と魔王11。

障害を取り払ってメイプル達が魔王についに肉薄する。しかし、同時に魔王も十分に大剣に近づいていた。

「ハハ、私の勝ちだ……!」

大剣の柄と魔王の伸ばした手をバチバチと弾ける赤黒い光が繋ぐ。赤黒い光は強い力で魔法陣から大剣を抜いて魔王の元へと引き寄せた。

大剣が引き抜かれると同時に溢れ出す黒い奔流。

それそのものがレーザーと同様、死をもたらすダメージを与える黒い光だと直感したのはサリーとペイン。大剣を振り抜くまでもなく、余波だけで圧倒的な破壊力。

黒い波が迫る中、メイプルは肩に何かが止まったのを感じた。

そこにいたのはノーツ。フレデリカのテイムモンスターである黄色い小鳥は口に一つの手紙を加えていた。

「メイプルー、開けてー!」

どうすればいいかは事前に聞いて知っている。フレデリカの呼びかけに応えて、メイプルはノーツから手紙を受け取ると、素早く封を開けた。

抜剣と共に噴き出した黒い光が全員を飲み込み押し流そうとする。それでも、メイプル達は具現化した死そのものに抗った。

「【守護者】!」

【守護者】の使用者はクロムではなくメイプル。

ノーツの【伝書鳩】でクロムから受け取ったそのスキルの効果は、範囲内の味方全員を一時的に庇うというもの。

本来一度きりの【身捧ぐ慈愛】の行使。効果を打ち消され使えなくなったうえで、今回のパーティーでのみ可能な、メイプルに擬似的な二度目の【身捧ぐ慈愛】の機会を与える方法。

メイプルの絶対の防御が全員を破壊の闇から守り抜き、闇を斬り裂いてレイが迫る。

「【【相棒の助力】】!」

メイプルとサリーは魔王戦前に手に入れたスキルで、シロップと朧からスキルを借りて魔王へと向かった。

「【大自然】!」

メイプルが借りたシロップのスキルは【大自然】。作り出した巨大な蔓の上を駆け上がり魔王までの最後の数メートルを詰める。

「レイ、【聖竜の加護】【聖なる守護】!」

先頭を走るのはペイン。レイからのバフを受けて、魔王に聖剣を突き立てにいく。

「【断罪ノ聖剣】!」

ペインが振るう聖剣をその身に受けながら、魔王は大きく口元を歪めて笑い、反撃の大剣を叩き込む。

体を回転させ、風切り音を立てながら振り抜かれた大剣がペインの胴を一閃する。

「……ぐ、っ!?」

ある程度想定はしていたものの、それを上回る威力。防御バフやダメージカットがあってなおペインのHPを一撃で吹き飛ばし、跳ね飛ばされながらスキルによる死亡回避が発動する。

しかし、生き残ったと思ったのも束の間、傷口が発火し黒い炎が爆ぜたことで残ったHPが消し飛ぶ。

「魔王、流石だが……これでいい……!」

「【リザレクト】!」

消滅していくはずだったペインの体がミザリーの蘇生によって実体を取り戻す。

命と引き換えにすることを前提としたダメージトレードで、魔王に強要した大剣の大振り。

生み出されたその隙に飛び込まないサリーではなかった。

「【クインタプルスラッシュ】!」

ペインよりほんの一瞬遅れて入り、ペインが引きつけて得た時間で、連撃を叩き込んで魔王のHPを大きく削る。

あともう僅か、必要なのは決定打。

「【カバームーブ】!」

サリーを起点に辿り着いたのはメイプル。

するりと魔王の背後に抜けていくサリーに託されて力を込めて大盾を握り直す。

「はあぁぁぁっ!」

大盾を叩きつけ最後の【悪食】を発動させたメイプルはこれでどうだと魔王を見据えた。

大きくよろめく魔王だが、そのHPはほんの僅か残り、再度即死級の大剣をメイプルに向けて振り抜いた。

受ければ【不屈の守護者】があれど発火による死があり得る。

【暴虐】を使って一度凌ぐ。ダメージを受けない可能性に賭けてそのまま受ける。

受けの選択肢がいくつかよぎる中、メイプルが直感した最善の選択を信じて短刀を強く握り直す。そして、その判断はサリーと同じものだった。

「【変わり身】!【神隠し】!」

サリーとメイプルの位置が入れ替わり、メイプルを狙って振り抜かれた大剣が空を切る。

朧から借りたスキル【神隠し】によって攻撃を回避したサリーは、完全に背後をとったメイプルへと叫んだ。

「あとは任せた!メイプル!」

魔王の背後でメイプルが短刀を突き出す。

【悪食】によって大盾に溜め込まれた魔力の結晶が音を立てて砕け散った。

放つのは随分長く使い、信頼してきたあの大技。

「【毒竜】!!」

巨大な三つ首の毒竜が魔王に襲いかかり喰らい尽くす。迸る毒が魔王を飲み込み地面を染め上げる。

「我が野望、宿願……こうも早く潰えようとはな。しかし覚えておけ勇者よ!再び目覚めたその時こそお前達諸々世界を滅ぼし尽くしてみせよう……!」

魔王は最後の言葉を残し暗い闇に飲み込まれて消えていく。しかし、消滅するその瞬間まで殺意に満ちた眼光はメイプルをじっと見据えていた。

こうして、全ての魔力の結晶を注ぎ込まれた最大出力の【毒竜】は、全員から助けられ、繋がれ、託されたこの場面で確と魔王のHPを吹き飛ばし、この最終決戦に幕を引くのだった。

魔王の消滅に合わせて真紅のブローチがメイプルの手元に残り、メイプル達を閉じ込めていた魔王の領域も消えて、元のフィールドの景色が戻ってくる。

「……やった!やったやったやったあ!」

「ナイスメイプル!本当に一回で勝っちゃったね!」

「うん!皆のお陰だよー!」

メイプルがサリーと喜びを分かち合っていると、まず真っ先に【楓の木】の面々が駆け寄ってきた。

「おおお!勝ったな!いや、真の姿みたいなのが出てきた時は流石にヤバいと思ったけどよお」

「これで目標達成か。無事締めくくることができてようやく一安心だ」

「クロムさん!【守護者】ありがとうございますっ!カスミも【心眼】のお陰ですっごい助かったし!」

「ははっ、ちったぁ役に立てたようでよかったぜ!」

「同感だ。ふぅ、どっと疲れが襲ってきたな」

魔王も異形もまともに攻撃を受ける度、大きなダメージが入ってしまう相手であり、絶えず戦闘を続けていた前線組の疲労は大きい。

「アイテムも使い切る勢いだったから本当に勝ててよかったわ」

「そうだね。僕の魔導書も使ったらそれきりだから」

「全員で集まれるのもこの日だけでしたし……」

「もし途中で倒されちゃったらどうしようって思ってたので、本当によかったです!」

「戻ったらまたお祝いしないとね!むむむ、ゲームから離れるなら、イズさんの使った分は集めてからにしたいなあ」

「あまり気にしなくても大丈夫よ?でも、そう言ってくれるのは嬉しいから、期待だけしておくわ」

「はいっ!」

【楓の木】がそうして健闘を称え合っていると、助っ人として十分すぎる活躍をしてくれた各ギルドの面々もメイプルの元にやってきた。

「想定以上の強敵で驚かされたが、【集う聖剣】として何とか役割は果たせたようだ」

「来てくれて本当にありがとうございます!いなかったら全然違う結果になってたかも……」

「ねー。っていうかー……あれ何!?全然違うやつだったんだけどー!?」

「ははは、【楓の木】らしいじゃねえか!それに強敵と戦えて楽しかったぜ?」

「ああ。一つ目指すべきところもできた……もう一回ってのは骨が折れそうだがな」

【集う聖剣】が倒したものとは見た目も動きも全く違うが同じく魔王と名乗る者。

【集う聖剣】の新たな目標は、今回のような助っ人ではなく【集う聖剣】としてあの魔王を撃ち倒すことだ。

まだ十層には倒すべき敵がいる。それがペイン達の新たなモチベーションになったようである。

「それについては同感だな。まさか魔王にあのような姿があるとは。【炎帝ノ国】も再挑戦が必要なようだ」

「だよなあ。元々レアドロップを探すかどうかって話もしてたし、あんなのがいるってなったら尚更だろ」

「僕はまたしばらく準備してからがいいけどね……耐え切ったとはいえこのメンバーでも【一夜城】は限界だったし」

「また鍛え上げてくる必要がありますね。十層は見つかっていないイベントも多いですから」

「ミィ、ありがとう!最後の魔法もすごかったし、一緒に勝てて嬉しい!」

「……ああ、力になれたのなら何よりだ」

ミィはそう言うとメイプルにだけ分かるように少し柔らかく微笑んだ。

そこに飛び込んできて声をかけてきたのはベルベットだった。戦闘後とは思えない元気溢れた様子にほんの少し呆れながらリリィも後をついてくる。

「メイプルー!すごい敵と戦えて楽しかったっすよ!」

「お役に立てたでしょうか?」

「うんっ、もちろん!【重力操作】で一緒に頑張ってくれたもん!ベルベットはすっごいダメージ出して、ちっちゃい敵は雷でたくさん倒してくれたし!」

ヒナタはメイプルと組んで防御の要として立ち回り、ベルベットは要所での火力貢献が何より大きかった。

「ふむ、【再誕の闇】で決めてやろうと思っていたけれど……上手くいかなくて申し訳なかった」

「魔王が強かったです。もう一回打ち消してくるなんて……でも!その分【ラピッドファイア】にはバフを担当してもらって、ウィルバートさんの攻撃じゃないとあのビームは乗り切れなかったです!」

「あれきり攻撃参加ができなくなってしまいましたから、私の弓にはどうしても欠点があるのですが……そう言ってもらえるのは嬉しいですね」

全員が全員の役割を全うしたことによって手に入れられた勝利。

一度きりの挑戦で勝つことができたのは、類稀なる幸運と、その幸運が意味を持つに至るまでの地道な積み重ねの成果だった。

「あ、そういえばメイプル。魔王を倒した時に何か手に入れてたよね?」

「そうだった!えーっと……わっ!?レアアイテムだって、サリー!」

メイプルがそう言うと周りにいた面々がざわつく。

知らない魔王が出てきたかと思えば、そこから一発でレアアイテムを持ってくるのだから驚きだ。

「おおー。いいね!流石メイプルってところかな?それで、効果は?」

「えーっとね……」

『デモンズハート』

血のように濃い赤色をした未知の宝石が嵌め込まれた、魔王が保持していたブローチ。

その見た目から魔王の心臓、『デモンズハート』と名付けられた。

宝石には魔王の魔力の一部が残っている。

【魔王】

発動することで異形を周囲の空中に呼び出す。

「だってさ!」

「また異形出してるー!悪い癖だよそれー!」

「僕もそう思う……そう思う」

キャイキャイ喚くフレデリカと、異形と名の付くものにあまりいい思い出がないマルクス。

「せっかくだし……えーと、【魔王】!」

メイプルがブローチを装備してスキルを起動すると、メイプルの背後から大きな黒色の異形が現れる。

メイプルの背丈ほどもある双剣を手に持ち、目も鼻もない頭部にガパッと開いた口からレーザーの素になるのだろう輝きが漏れるそれは、魔王が召喚していたものとよく似ていた。

違いと言えば色くらいのものだろう。

「名実共に【魔王】ってことだね」

「ああ、スキル名もそのようだからな」

「じゃあ僕ら本当に人間側魔王軍になったってわけだ」

「お、確かにそうか」

「メイプルさんにも……」

「ドレスを着てもらった方がいいかも?」

「ふふっ、記念に作っちゃいましょうか!」

「え、ええっ!?ま、魔王は私達が倒した方だよー!」

メイプルがそう言うものの、であれば代替わりだとか、下剋上成功だとか、そんな言葉があちこちから上がり、どうやらメイプルは名実共に魔王という認識になったようである。

「もー!ええっと、この後はお祝いをしまーす!場所は【楓の木】のギルドホームで!」

メイプルはそう言って話を切り替える。人間側魔王軍もといメイプル達は、ギルドホームに向かって祝勝会を行うこととするのだった。