作品タイトル不明
防御特化と魔王9。
複製達の消滅を確認し、行動パターンと変化が確実になったことで、サリーは後退の指示を出した。
「動き出す前に一旦退きます!」
距離を空ければ次の攻撃に対応する時間を作ることができる。敵の出方を見るという点でもメイプルとヒナタとの合流が最優先だ。
後方からの攻撃に注意しつつ、サリー達は随分とボロボロになったものの、中のプレイヤー達を守り切り役割を果たした【一夜城】まで戻ってきた。
「マイ!ユイ!さっすが、すごい攻撃だったよ!」
「お陰で何とか耐え切れたよ……あの想定外の斬撃が飛んできたからトラップはもうまともに残ってないけど……」
「アイテムもほとんど持っていかれちゃったわ。ちゃんと残っているのはポーション類くらいね」
魔王は着実にこちらのリソースを削ってきてはいるものの、時間をかけての削り合いではなく、隙を見て大技を叩き込むバーストによって魔王のHPを吹き飛ばしたため、メイプル達の手札には攻防どちらも強力なスキルがまだいくつかあり、十分に戦えるだけの余力は残っている。
魔王のHPは残り三割程。ただ、HPを一気に削るような瞬間的なダメージを出す手段は確かに減っており、最も現実的なものを挙げるなら、それはマイとユイに攻撃させることになるだろう。
残り三割、されど三割。魔王の攻撃力があれば一瞬の隙が崩壊に繋がる。安心できるのはあくまで勝った時、その瞬間だけだ。
「はは、ははははっ!生きて返しはしないぞ勇者達よ!私の剣でもって今度こそその身を斬り裂いてやろう!」
響き渡る声と、一瞬赤く染まった視界。メイプル達が何か行動を起こす間もなく、薄い光が全員を包み込んで消えた。
起こった変化を一瞬で全員が理解する。
かろうじて形を保っていた【一夜城】が跡形もなく消失し、ミザリーが設置していた回復及びダメージカットのエリアが光を失い、ベルベットが降らせ続けていた雷の雨が収まり、クロムが纏っていたネクロは強制的に分離して、メイプルの【身捧ぐ慈愛】も解除され姿が元に戻る。
発動中のアクティブスキルの効果全てを解除する輝き、ここにきて再度あらゆるバフや効果を打ち消してきた魔王は、バリアのような球状の赤い光を体を包むように展開し、真紅のオーラ迸る双剣を手にゆっくりと歩き出す。
異形召喚の兆候は見られない。ただ、手に持った双剣は複製達のそれと同じ形状であり、あの剣は間違いなく防御貫通効果を秘めていると察せられる。
「リリィさん!」
「ああ!頃合いだろう!【飛行機械】【従者の椅子】!」
リリィは飛行可能な機械を呼び出すと、続くスキルで変形させ空中に浮かぶ足場を作った。
メイプルを除く全員がそれに乗って地面から離脱する。目的は移動ではない、味方を巻き込むスキルからの離脱だ。
「【再誕の闇】!」
ドロドロした闇がメイプルを中心に広がっていく。
これで決めきれるとそう思えたタイミングで起動するメイプルの大技。
無限に餌を求めるこの闇は、対価さえ渡せば魔王と同等の異形召喚を可能にする。
そして、このパーティーメンバーがいれば対価となる餌の用意に困ることはない。
「【玩具の兵隊】【砂の群れ】【命なき軍団】!」
「【設置・花の騎兵】【設置・水の軍】」
「「【古代ノ海】!」」
注ぎ込まれる材料が闇の中で再構築され、異形が次々に顔を出す。今度はこちらの番だとばかりに、這い出す漆黒の異形は魔王に向けて進軍を開始した。
魔王はメイプル達を勇者だと言うが、リーダーであるメイプルの持つスキル群は魔王のそれにむしろ近い。
人間側魔王軍。その証明とばかりにメイプルは魔王に劣らない数の異形を呼び出したのだ。
「これで勝負!」
メイプルは異形達に指示を出し魔王へとけしかける。巨躯の異形が黒い波のようになって押し寄せて魔王を飲み込みにいく。
【再誕の闇】は異形を大量に召喚するが故、メイプル達が戦うためのスペースをも奪う。
それを補って余りある強さ。
この【再誕の闇】で押し潰し勝負を決めるつもりでメイプルは異形達を見つめる。
ゆっくりと迫る魔王に異形達が衝突するその直前、全てを見通す眼を持ったウィルバートはただ一人先んじて異変を認識した。
「消滅した……!?」
魔王が体の周囲に展開する赤い光を放つバリア。
先頭の異形が魔王に襲いかかりそれに触れた瞬間、塵のように分解されて消失したのを見てウィルバートは目を見開く。
ダメージが与えられた様子はなく、メイプルの呼んだ異形達は魔王に触れる直前で、倒されたというより消滅しているという方が正確だろう現象によって無力化されていた。
「メイプルさん、様子がおかしいです!魔王が異形を消滅させて……!」
ウィルバートの言葉を遮るように魔王が行動を起こしたことで事態は一変する。
再度メイプル達を瞬時に包み込んだ赤い光。それは【飛行機械】を分解し、展開した【再誕の闇】を異形もろとも消失させた。
「ええっ!?」
「連続……!?いや、継続的なスキル打ち消し……!」
【再誕の闇】が発動できたということからも、常にスキル効果を打ち消されているわけでないのは明白だ。サリーは甘い読みはせず、魔王が今後もスキルを打ち消してくると考えた。
しかしあの赤い光は避けようがなく、打ち消しがこれっきりでないならば、多くのスキルがその強みを発揮できなくなる。そこに対策などほぼありはしない。
事実、これで勝ち切るつもりで使った【再誕の闇】は不発に終わった。
「メイプル!なら全員で削るしかない!防御が低い人を中心に見て!」
「分かった!」
マイとユイならスキルがなくともダメージを出せる。【身捧ぐ慈愛】も消えた今、二人を守るには的確に攻撃に反応して防御する必要がある。後衛陣を含む低耐久の面々を守ること、それがこの場面における大盾使いの役割だ。
そして、全員が魔王の攻撃に備え武器を構える中、先ほどまでゆっくりと歩いていた魔王の姿が消失した。