軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

防御特化と遥か水底3。

ボスに多くのバフをかけ、自分達に多くのデバフをかけて、メイプル達はボス部屋を示す扉の前に辿り着いた。

「かかった効果を再確認してから入ろうか」

「そうだね。バフもかけておくよ、多少なりとも埋め合わせができるだろうし」

「アイテムも出すねー」

メイプルがバフ用のアイテムを取り出す中、サリーがダンジョンによってかけられた効果を列挙する。

まずは最初にかかった敵の攻撃力と移動速度強化、次にメイプル達が与えるダメージの減少。回復効果の低下、最後に一度使ったスキルが封印状態になる効果である。

どれも好き好んで受けたいマイナス効果ではないが、他の選択肢よりはよっぽどよかった。選ばなかったものには、スキル使用時にHPロスなどサリーが大幅に弱体化するようなものもあり、それと比べれば選んでもいいと思えるものが現在かかっている効果だった。

「よし。僕らがかけられるバフもかけ終わったし……まずは作戦通りにいこう」

「先手必勝。それにあのスキルは二回使えなくても十分」

「頑張ろー!」

『魔王の魔力』収集もここが最終戦。三人は必ず勝つと心に決めてボス部屋へと突入した。

三人がボス部屋に入ってすぐに目に入ってきたのは立方体の巨大な黒いキューブ。

メイプルとサリーはそれに見覚えがあった。それは八層エリアの遺跡のボス。ここに至るまでも所々にあった既視感の答え。

メイプルが【古代兵器】をもぎ取ったボスはまさにこれと同じ漆黒のキューブだった。

あの時は多様な兵器に変形して攻めてきたが、同じ古代遺跡産のものといえど中身は違っていたようで、人や兵器、魚や外にいたクラーケン、いくつかの形に変形する素振りを見せた後、四足歩行の豹に近い形態に落ち着いた。

見るからにスピード特化タイプ。これに移動速度増加までかかっている現状、好きに動かれるのはまずい。

「メイプル!」

「僕らは大丈夫」

「【再誕の闇】!」

メイプルのスキル発動に合わせてサリーとカナデは飛行機械で空中に浮かび上がる。

「【古代ノ海】!」

「【古代ノ海】、朧【幻影】【影分身】!」

「【緑の弓兵】【空守りの群れ】」

三人が召喚した頭数を確保する程度の取るに足らないもの。その全てを生まれ変わらせて、【楓の木】最強の先行制圧が起動する。

「かーいじょ!」

投下した分異形が這い出たのを確認し、メイプルはサリーとカナデすら飲み込んでしまう地面の闇を解除する。

スキルは封印されてしまうが、元より一戦闘に二度使えるスキルではないため気にする必要はない。

異形の群れが重なり合うようにしてスペースを潰し、波のようにボスへと押し寄せる。たとえスピードが速くとも、逃げ場がなければ意味がない。

「別に僕らはフェアな戦いがしたい訳じゃないからさ。ふふ、これで倒せるならそれでいい」

「押し返せないならこれで勝てるはず」

「皆ー、頑張れー!」

メイプルの【身捧ぐ慈愛】の圏外に出したことで暴れるボスに倒される個体も出てくるが、メイプルの安全を確保することを優先した。それに、多少倒されようと【再誕の闇】の異形はまだ無数にいる。

そうしているうち、跳ね回っていたボスを異形の群れが捉える。一体きりのボスと次々に襲いかかる替えの効く異形ではHPの価値は大きく違う。十体異形が倒れても、HPが二割削れたならば大きく得をした結果となる。

一割、二割、三割。異形もまだ十分に残る中ボスのHPが七割を切った所でボスの上空に黒い球体が浮かび上がる。

それが部屋全域に青白い光をばら撒いたかと思うと、部屋に溢れかえっていた異形諸共三人にかかっていたバフも消し飛ばした。

「あー、そう上手くはいかないか」

「メイプル、ガード固めて!カナデはソウを構えながら」

「オーケー。もしもの時は任せて」

「あ!また変身してる!」

豹の姿をしたボスの背に槍を持った人間が形成される。騎乗して長い槍を振り回して構えると、豹は勢いよく駆けてきた。

「【フレイムバレット】【ウィンドカッター】!」

サリーが魔法を放つものの、移動速度のバフもあってか、豹は機敏な動きでそれを回避する。

「封印が面倒だな……【鉄砲水】!」

牽制にスキルや魔法を使う度、それは封印され手札は減っていく。

サリーは封印の対象外である飛行機械を積極的に使うと、ぐんと加速し距離を詰めてボスの攻撃を誘引した。

「よっ、と!【ピンポイントアタック】!」

重い一撃が騎乗する人間部分に突き刺さり、ダメージを与えるが、ボスは素早い槍捌きでサリーの追撃を拒絶し、メイプルの方へ駆けていく。

「【捕食者】!【百鬼夜行】!」

【再誕の闇】の餌にしなかった一騎当千の兵を呼び出したメイプルは、ボスに向かってそれらをけしかける。速度で上回るボスは素早く飛び退き逃げようとする。ただそれはサリーにもメイプルの呼んだモンスターからも離れる方向。限定されたその場所を読めないカナデではない。

「【封印・停止の錨】。そっちに逃げるよね。メイプルの配下ってリーチもあるからさ」

空中から伸びた錨はジャラジャラと音を立てる鎖でボスを拘束しながら地面に突き刺さる。数秒間の移動阻害。【楓の木】において基本カナデが担当するしかなく、皆が頼りにしている攻撃へのセットアップ。

「僕のスキル、封印しても意味ないもんね」

カナデのスキル、その中でも強烈なものは魔導書にして保存した使い切り。二度は使わせまいと封印することに価値はない。

「【セクスタプルスラッシュ】!」

「【滲み出る混沌】!」

ボスが動けない今、ここは重い一撃を。【捕食者】と【百鬼夜行】も加わってボスを囲んで袋叩きにする。

ボスが拘束から逃れ、減ったHPに合わせて更なる変化が起こる。

空に浮かんだ四つの黒い球体。三角のトゲのようなものが当たりをくるくると回る様は簡易化された太陽のようにも見える。

ただ、当然それは飾りなどではなく、青いスパークを散らせ始めたかと思うと、細く伸びた青白い光でそれぞれに照準を定めてきた。

「【大規模魔法障壁】!」

「【氷柱】!」

一瞬遅れて飛んできたレーザーをサリーは氷の柱で、カナデは障壁で、メイプルは体で受け止める。

防御に思考を割いたその瞬間、ボスは今までにも増して俊敏な動きでカナデに飛びかかった。

「……っ、と!【精霊の光】!」

カナデは無敵スキルで凌ぐが、一度接近できてしまえばこちらのペースとばかりに、豹の爪と手に持った槍がカナデを攻め立てる。

そこに飛び込んできて状況を変えたのは化物達を連れたメイプルだった。

「やああぁっ!」

「……!メイプル!」

飛行機械で加速したメイプルは大盾を構えて豹の腹部に直撃し【悪食】によって抉り取りながら、【捕食者】に噛み千切らせ、【百鬼夜行】の大鬼の金棒によって吹き飛ばしカナデからボスを引き剥がす。

「大丈夫!?」

「あはは、お陰様で。よし、サリーと一緒に反撃しよう」

「うんっ!防御も任せて!」

カナデを庇うように前に立って、余裕を持って魔法を行使するためのスペースを確保したメイプルはボスを見据える。

「あんまりこっちを無視してると痛い目に遭うよ!」

狙ってくるレーザーをするりと躱してボスに肉薄したサリーはスキルを使わず連撃を叩き込む。それはボスの振り返っての攻撃を完璧に躱すため。

「速い。けど、それだけじゃ当たってあげられないね」

鋭い槍の一突きも、爪による引き裂きも、スキル使用による硬直を避け、回避に重きを置いたサリーを捉えることはできない。

そうしてサリーに注意が向けば今度は逆がフリーになる。

飛んでくるレーザーを大鬼二人に受けてもらい、メイプルはカナデのための時間を作る。サリーがボスの攻撃を引きつけ、メイプルが物理的に空からのレーザーを遮り、カナデは自由を得た。

「ソウに撃たせないとこれは勿体無いしね」

カナデの隣で全く同じ姿をしたソウが、足元に白い魔法陣を展開して詠唱を続ける。

「シロップ!【大自然】!」

「【水の道】【氷結領域】!」

メイプルはシロップの力を借りて大きな蔓で、サリーは生み出した水を凍らせてボスの移動先を無くす。

「ソウ、【神なる炎】!」

時は満ちた。ソウの詠唱が終わりボスの足元に白い大きな魔法陣が展開され、純白の炎が噴き上がる。

飛び退こうとして氷と蔓に邪魔をされたボスは逃げるのが遅れ、聖なる炎に焼かれて致命傷となるような大きなダメージを受ける。それでも、僅かに生き残ったボスは燃え落ちる蔓の隙間から避難し、残った僅かなHPで最後の形態変化を行った。

次々に、空中を埋めるように生み出されるレーザー発射装置。エネルギーを充填して三人全てを焼くために全ての砲口を向けたその時。

「ソウの分だけ僕が先に準備できたね」

開かれた魔導書。ボスが生き残った時の後詰めのために最速で展開された魔法陣は、ボスが全力で生み出したレーザー砲を上回っていた。

「二人のお陰でやりやすかったよ」

吹き荒れる全属性の魔法。それはレーザー砲の発射に先んじてボス部屋に吹き荒れ、ボスの残ったHPを削り切ったのだった。

バラバラと砕けて落ちてくるレーザー砲がガシャンガシャンと音を立てて地面に転がり素材を残していく。

ありがたく素材は受け取っておくことにして。しかし、メイプル達の目的は素材ではない。

「あっ!」

ボスの亡骸、消滅していく豹の心臓部に残った塊。メイプルはそれに駆け寄って拾い上げ、アイテム名を確認する。

「『魔王の魔力Ⅵ』!やったー!」

「ふぅ、おめでとうメイプル。僕も嬉しいよ。必要なアイテムはこれで全部かな?」

「そのはず。後は魔王を倒すだけ、なんだけど……」

「それが一番難しい訳だ」

「うーん、そうなんだよねえ……」

どうしたものかとメイプルは悩まし気な表情を浮かべる。ボスに挑戦するための最大人数は三パーティー分の計二十四人。

繰り返すことにはなるが、出力不足で勝てないなどということがあれば、全てのエリアのラストダンジョンを再攻略しなければならないという重い制約がある。メイプルとサリーの残り時間を鑑みてもそれは難しい。

「クロムさんが必要なら助っ人を呼んでくれるって話だったし、それを当てにしてみるのも一手ではあると思う」

「挑戦するためにアイテムを使ったら引き返せないからさ。しっかり決めてから挑もう」

「うん!皆に相談してみる!」

「メイプル、ここまで来たんだ。絶対勝とう」

「もっちろん!」

最後の『魔王の魔力』をしっかりとしまい込んで、メイプル達はダンジョンを脱出したのだった。