軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

防御特化と謎解き。

メイプルとサリーが今ゲームの中へやってきたなら、行く先はただ一つ八層エリアのギルドホームだ。

フィールドは見渡す限り水ばかりだが、町は水面より上に突き出た建物を吊り橋で繋ぐことで構成されており、飛行機械もある今ショートカットも自由自在、利便性は悪くない。

【楓の木】もそんな建物のうち一つにギルドホームを構えており、メイプル達が中に入ると、そこではイズ特製のパズルをまた一つ解き終えたところのカナデが待っていた。

「やあ二人とも、待ってたよ」

「今日も謎解きだね!」

「頑張るかー、って言っても私達の一番の役目は戦闘なんだけど」

カナデができないことを担当するという意味では、二人に求められるのが武力なのは間違いない。

「ふふ、二人には結構戦ってもらったし……この辺りで一回ちょっと違うダンジョンを探索するのはどう?」

「違うダンジョン……ってどんなの?」

「謎解きのみ。雑魚モンスターはいるけど、ボスはいなくて遺跡最奥の宝物に辿り着くのが目的なんだ」

「へえ、カナデはそこの謎はもう解いた後?」

「いや。二人が来るって知ってたし、ここは残してあったんだ」

ボスがいない謎解きメインの珍しいダンジョンという情報を見たカナデは、自分でクリアすることもできるもののあえてそこは残してあった。この水中遺跡探索こそ八層エリアらしい要素であり、メイプルとサリーが味わいたいものであると思っていたからだ。

「じゃあ皆で考えて挑戦できるね!」

「カナデの速度に勝てるかなあ」

「頑張って。ふふっ、一問くらいは勝てるかもね」

「とりあえず二対一で頑張ろうメイプル」

「そうだね」

「酸素残量は結構シビアらしいから、頑張って謎を解いていこう」

「はーい!」

「オーケー。頑張るか」

しっかり暗号用に用意された文字を覚えた二人なら挑戦する下地は整っている。

潜水時間を伸ばすアイテムもしっかり用意して、現状可能な限り活動時間を確保した三人は目的地を水中深くに沈んだ遺跡に定めて町を出るのだった。

移動することしばらく。三人が辿り着いたのは水面から飛び出た尖塔の屋根。屋根には大きな穴が空いており、覗き込むと透明な水の中、下へと続く階段が見える。

「メイプルメイプル、ちょっと外観も見てみて。すごい大きさ」

「ほんと?見る見る!」

サリーに言われて尖塔の中ではなく、外を見るように水面に顔をつけると数十メートル先、遥か水底まで広がる大きな水中遺跡が見えた。

「……ぷはっ!すっごい大きい!ちゃんと息続くかな?」

「それは僕らの謎解きのペース次第だね。あとは雑魚モンスターに邪魔されすぎないこととか」

「そっちは任せて!」

「そっちも、ね。二人の謎解きも期待してるんだよ?」

「が、頑張る!」

「一応……ショートカットはできないんだよね?」

「無理な作りになってるらしい」

「了解。なら真っ当に正面から行くしかないか」

「準備ができたら行こうか。そんなに緊張しなくても大丈夫。最終手段として【大地の揺籠】もあるしさ」

「あっ、そっか!そうだね」

「メイプル普段あれ使ってないからなあ……強いけどなくても凌げちゃうから」

地面に潜ることで酸素ゲージが回復するのは八層で実証済みだ。スキルの封印等に気をつけておけば最後の保険はちゃんと用意されている。

謎解きに対するやる気も十分。メイプル達は潜水服を着るといよいよ水中へ向けて足を踏み入れた。

尖塔の屋根から見えた階段へと泳いでいくと、下にはそのまま螺旋階段が続いており、メイプル達はぐるぐるとそれを下っていく。

「あれ?」

「さっそく行き止まり……だけど文字ってなかったよね?」

メイプル達の行手を阻んだのは石の壁。まだ先まで続いていそうな螺旋階段は途中で隔壁によって遮られている。

しかし、ぱっと周りの壁を見ても暗号の文字らしきものはない。

いきなりの手詰まりに二人は何か手掛かりがないかとより詳しく辺りを確認することにした。

「確かにいくつかクリアしたダンジョンより難しそうだね」

「私はこっちの壁を見るね!何かあるかも」

「じゃあ私は逆」

「僕は階段と天井を調べるよ」

幸いモンスターはまだいない。メイプルはよく壁を観察して違和感がないかじっくり調べていく。

「うーん……あれ?」

壁をじっと観察していたメイプルは、ふと壁に生えた水草に目が止まった。特に規則性なく生える水草の中で、紛れるように長く一本の線になった部分がある。その先端に目をやるとそこでは確かに水草が小さく丸を描いていた。

「ねえねえ!あれ怪しくないかな?」

メイプルが声をかけながら指差した先を二人も確認する。

「お、それっぽい」

「ボタンになってるのかな?発見者でもあるし、罠だった時に耐えられもするし、メイプルに押してもらおうか」

「はーい!」

メイプルは天井近くまで泳いでいくと水草によってできた円の中心をぐっと押してみる。

するとメイプルの予想した通り、その部分はボタンになっていて僅かに沈み込む。それに合わせてメイプル達の行く手を阻んでいた隔壁は、ゆっくりと左右の壁の中へ格納され、螺旋階段の続きが姿を現した。

「やった!」

「正解みたいだね。ナイス観察眼、メイプル!」

「幸先いいね。まだまだ先は長いけどこの調子で行こう」

「おー!」

最初の謎をスムーズに突破して三人は尖塔をさらに下へと進んでいった。

尖塔を下る途中、申し訳程度に出てきた小魚の群れをビームで容易く滅殺し、あくまで謎解きメインのダンジョンであることを再確認して、これなら戦闘に関して問題はないと確信する。

そうして尖塔を下り切った三人が目の前にあった鉄扉を開けると、左右に分かれた廊下に出た。まず三人の目についたのは正面の壁に彫られた暗号文字である。

「あっ!二人とも、文字があるよ!」

「本当だ。あるならまずは読んでみようか……えーと?」

「ふーん……なるほど」

最早文字が日本語と同様にそのまま文字として入ってくるカナデに続いて二人も内容の解読を終える。しかし読み解いた文章は意味の通らない文字の羅列となっていた。

「あれ……?ねえねえ、サリー、間違えちゃったかも」

「いや、何か変だね。でしょ?カナデ」

「うん。素直に読んでも意味が通らないね。どこかにヒントはないかな?それで数文字ずらすとか置き換えるとか、そういう操作が必要そうだね」

「ふむふむ」

「ヒントか……さっきみたいに背景に紛れてるパターンが考えられそうだけど……あっ」

「サリー?……あっ!」

サリーに続いてその視線を追ったメイプルもあることに気づく。鉄扉を開けてすぐ目の前に暗号文があったことで注意がそこに向いて気づかなかったが、振り返ると鉄扉に小さく文字が書かれていた。

「あるある!えっと……『三歩下がりて戦況を見よ』?」

「素直に捉えて文字を対応の通りに三文字ずらしてみよう。私とメイプルで逆方向にやれば、解釈が合ってるなら絶対どっちかは当たる」

「分かった!」

二人が改めて文字を読み解くと、今度は暗号が意味の通る文章になった。

「『左は死の道骸あるばかり』か」

「じゃあ……!」

「ふふ、正解は右ってことみたいだね」

「カナデ、分かってたでしょ?」

「ほんとに!?ヒントも気づいてた?」

二人がそう言うとカナデは困ったような、どう言うべきか迷っているような笑みを浮かべた後話し始めた。

「答えは分かってたけど、ヒントは気づいてなかったんだよね。本当だよ?」

「ええっ?ど、どうやって……?」

「うーん。文字を見た瞬間に何文字かずらした文章も勝手に頭の中に入ってきちゃうんだ。だからヒントがなくても分かっちゃってさ」

「なるほど……いや、まあカナデなら……」

言っていることは信じ難い話ではあるが、カナデのこれまでの実績を鑑みれば、嘘でないことも分かる。サリーの回避がそうであるように、カナデの処理能力も普通では考えられないほどずば抜けているのだ。

「すごーい!ほんとほんと?じゃあ、五文字ずらしてって言ったら分かるってこと?」

「『ぷづわぴぜびやてゅごをぇゐふぐわ』だね」

「やば」

「えーと、えーと…………合ってる!わー!すごいねカナデ」

分かっているとしか思えない高速の詠唱。ゆっくりと言い直してもらって二人で確認するが、それが当然のことであるように五文字ずらせば完璧に復号が成功する。

「うん。【楓の木】の頭脳担当はもうずっと任せておこう」

無邪気に反応するメイプルと素直に驚嘆するサリーを見て、カナデは噴き出すように少し笑った。

「……あはは、ふふっ。うん、まあそういうこと。僕のこれはちょっとズルになっちゃうからさ。せっかく三人できてるんだし、ちゃんとヒントを探しながら一つ一つ解きたいんだ。それにその方が二人も面白いでしょ?」

「うん。気遣いありがとう。それならカナデには本当にどうしようもなくなった時にだけ答えを聞こうかな。泣きつけば絶対答えてくれそうだし」

「よーし、一回くらいはカナデより先に解読するぞー!」

「うん。でも、ちょっとハンデが欲しいかも?」

「ふふっ……いいよ。二人とも僕より早く解いてみせてよ。ちょっとずつハンデも増やしていくからさ」

「遺跡も長いし、どこかで勝てるタイミングが来るかな?」

「ね!頑張ってみよー!」

三人は最奥到達以外にもう一つ目標を定めて、解読した通りに右の道へと泳いでいくのだった。