軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

防御特化と霧の向こう。

マイとユイを背に乗せて、サリーを口の中にしまって、クロムが先導しながらの六層エリア攻略は続いた。六層エリアはアンデッドの不死性を活かした物量作戦や亡霊によるデバフ戦略を仕掛けてくることが多かったこともあり、メイプルの広範囲防御とマイユイの殲滅力が噛み合い、攻略難度は大きく落ちていた。

極振りの三人は元々一つのステータスが偏って高いため、生半可なデバフでは十分に能力を下げきれないのである。

そうして、今日もまた死霊や死体を薙ぎ倒したメイプル達を止めるものはなく。その勢いのまま『魔王の魔力』が手に入るダンジョンが最後の攻略先として挑戦可能になった。

ただ、その日は挑むことはなく、日を改めて再度六層エリアのギルドホームに集まった五人は作戦会議を開始する。

「さて、ここまで来たんだが……一つ、悪い知らせがある」

「な、なんでしょう……?」

「うーん、あ!ボスとの相性がすごく悪いとかですか?」

「いや。ボスも容易く勝てる相手ではないんだが……どちらかというと問題は道中だな」

「道中……えーっと、マイとユイの攻撃でも駄目そうってことですか?」

「いや。道中が所々ただただ狭い。【暴虐】で入れん」

「「「あー……」」」

【暴虐】で入れない。これでは移動と攻撃、サリーの輸送、全てを兼ね備えた最強のスキルが使えない。

「【発毛】で入るとか!どうですか?」

「スキルの解除もちらほらあってなあ……六層エリアのラストなだけあって厄介なデバフとかいやらしい攻め方が目白押しだ。【身捧ぐ慈愛】も今までみたいには使えない」

「むむむ……」

大盾使いが二人いるためマイとユイをそれぞれ守れば【身捧ぐ慈愛】がなくとも防御性能は担保されている。問題はサリーだ。

「どうするサリー?無理そうなら残ってても大丈夫だよ?」

メイプルのその言葉にサリーはしばらく迷った風であったが、やがて決心した様子でメイプルの方に向き直った。

「わ、私も……ただ口の中で待ってただけじゃないんだから……!」

「えっ?」

「ボスの攻撃範囲も発動スキルも、部屋の広さも……叩き込んである」

そう言うとサリーは恐れとやる気の混じり合った両の眼を黒い布で塞いだ。

「ボスの攻撃なら見なくたって避けられる」

「は、はぁ!?マジで言ってんのか?いや、さ、サリーなら……?」

反射的に疑ったクロムだが、その言葉を発したのがサリーだったことで、そのありえない言葉が信憑性を持って流れ込んでくる。

「メイプルと攻略するって決めた。だから今やれるやり方でやる」

「さっすがサリー!それなら大丈夫だね!」

「め、メイプルさん?」

「ほ、本当に大丈夫なんですか……?」

サリーならあり得る。頭の片隅でそうは思いつつも、前提とされているのは実際に見てみなければ信じがたい超絶技巧。

しかし三人が動揺する中で、メイプルはサリーの言葉をそのまま飲み込めているようだった。

「……オーケー。自分からできるというなら俺はもう疑わないぞ。言ってるのが他でもないサリーだしな……」

恐怖を克服する方が余程簡単だと言えるルートで無理やり参戦してきたサリーを作戦に組み込みながら話は進む。

「道中までは覚えてない訳だから、そこは俺とメイプルでカバーだな」

「任せてねサリー。それにボスの時も危なくなったら守るから!」

「さてと、やれるっていうならそれを前提に戦略を組むぞ。実際、サリーが動けるならやってもらいたいことはいくらでもある」

サリーがいれば戦い方の幅は大きく広がる。間違いなく強力ではあるものの、あくまで暴力的な出力を押し付けるだけのマイとユイにはできないことができるからだ。

信じると決めたものの、普段のサリーと比べリスクの高い選択であるのは間違いないため、作戦と敵の攻撃への対応を詰められるだけ詰めてからギルドホームを出る。

黒い布で目を覆った状態のサリーは、メイプルに手を引かれてシロップの背に乗せられた。

「じゃあ行くよー!」

全員が乗り込んだことを確認し、メイプルの掛け声でシロップが宙へと浮かぶ。飛行機械の方が速くはあるが、シロップで全員が固まって移動した方がマイとユイの被弾リスクが減り、サリーの安全な輸送を遂行するにも都合がいいのだ。

「とりあえずサリーは一旦これに入ってて!」

「うん……」

サリーの対応可能箇所はあくまでボス部屋のみ。目隠しをつけていても分かるほど顔色は悪く、ボス部屋までは役に立てというのも酷な状態だ。

メイプルは自身が砲弾になることが自然に作戦に組み込まれるタイプのプレイヤーであるため、マイとユイが打ち上げるための人の入れるボックスを何種類かインベントリにしまっている。

今回は足場がシロップの甲羅であり不安定であるため、円形ではなく長方形の安定したものを選び、サリーを中へしまい込んだ。

「空もモンスターは出るぞ、迎撃を頼む」

「守りは私達に任せて!」

「「はいっ!」」

メイプル達に気付きゆらゆらとゆっくり寄ってくる亡霊達。今のマイとユイにとってこの程度は障害にならない。

「「【飛撃】!」」

放たれた衝撃波が一瞬で亡霊達を成仏させる。【救いの手】によって安全に射程を伸ばせる二人は、【飛撃】のクールダウンを突かれて危険に陥ることもないだろう。

「【救いの手】やっぱ強えなあ。単純にスロットが増える訳だしな。ま、ただ……いつも思うがよく使いこなせるな」

マイとユイが操る武器は八本。攻撃極振りのステータスがうまく働いて、とりあえず当てられればそれでいいという事実は操作難度を下げてはいるが、それでも普通に武器を振るよりは遥かに難しいことに違いはない。

「マスターしたら役に立てると思ったので!」

「頑張って練習しました……!」

「いや本当、どのギルドも欲しがるくらいすごいプレイヤーになったと思うぞ」

「うんうん!二人ともすごいよ!」

「「えへへ……ありがとうございます!」」

少し照れくさそうに笑う二人が次々に雑魚モンスターを薙ぎ払う。フィールドでは敵は無し、まずはダンジョンへと入るところからだとメイプル達は空を行くのだった。

空を飛んでいたシロップが着陸したのは、不気味な紫の霧が充満する沼地の手前。ここから先は空から行こうとすると霧に包まれ外に戻されてしまうため、ショートカットせずに真っ当に攻略する必要がある。

「言った通り毒っぽい見た目の霧ではあるんだが無毒だから安心してくれ。あー、ただ毒の沼はあるからな?」

霧の向こう、眼を凝らすと確かにポコポコと気泡が音を立てる紫の沼が見える。マイとユイは足元にも注意しておかなければならないだろう。

「ユイはそのままで。私がツキミに運んでもらうから」

マイは装飾品を変更して大槌を二本減らす替わりにツキミを呼び出し、サリーの入った箱を背中にロープで巻きつけた。

「道程は長い。【身捧ぐ慈愛】はまだ切りたくないからな。慎重に進むぞ」

「「「はいっ!」」」

クロムとメイプルでマイとユイを囲んで互いに違う方向を見て警戒しつつ進んでいく。

注意すべきは突然の先制攻撃。【身捧ぐ慈愛】が発動していない今、当たってしまいましたなどということはあってはならない。

「メイプル!」

「はいっ!」

ボッと音を立てて、メイプル達を取り囲むように濃霧の中に紫の人魂が浮かび上がる。

勢いよく飛んでくるそれらに対し、メイプルとクロムは素早く意思疎通すると大盾を構えて防御の構えを取った。

「「【カバー】!」」

大盾使いが二人いることで、最低限のスキルだけで十分守るべきアタッカー二人を人魂から遠ざけられる。

人魂そのものはモンスターではなく、炎魔法のようなものでメイプル達が盾で防ぐと霧散して消えていった。

「いい反応だ。メイプルも大盾の使い方が随分上手くなったな」

「本当ですか?」

「ああ、強敵との戦いがいい経験になったってとこだろ」

「そうかもしれません」

PVPもPVEもメイプルの相手は一筋縄ではいかない強敵ばかり。当人が特別意識はしていなくとも、その環境そのものがメイプルの技術向上に役立っているのは間違いない。

「……!話してる余裕はないな。本体が来たぞ!」

濃霧の中ゆらゆらと漂うのは三体の半透明のゴースト。淡い光の中に透き通る人骨が確かに見える。これが先程の人魂を放った張本人だ。

メイプルとクロムが何かするより先に、マイとユイが着火した燃え盛る大槌で殴りつけるが、直前で霧に溶けるように消えたゴーストを前にそれは空を切った。

「「【カバー】!」」

その後の動きについて事前に知っていたメイプルとクロムは先に反応してマイとユイの前に立つ。直後目の前に転移し、至近距離から炎を吹きつけてきたゴーストを押し止めると、マイとユイの大槌で叩き潰され今度こそ消滅するのを見届ける。

一発目は転移で回避。転移による妨害のしようがない移動で距離を詰め強烈なカウンターを放つのだが、対策しておけば戦いやすい相手になる。

大盾使いは受けて切り返すための武器選択。敵の攻撃パターンを把握しているか否かは戦いの行方に大きな影響を与えるのだ。

「残り一体も俺達で止める。撃破は頼んだ!」

「任せてください!」

「防御はお願いしますっ」

「もっちろん!」

「おうよ!」

一人あたり一体であっても完璧に捌いたのだ。二人で一体を相手にして守りきれないはずもなく、無事最後のゴーストを撃破したメイプル達はその後も現れるゴーストや、毒沼から這い出てこようとするスケルトンなど、数種のアンデッドを問題なく対処しながらボスを目指す。

「六層エリアが終わればこの後は晴れて八層エリア攻略になる訳か」

「はい!それでようやく最後です!」

「あれだろ?【集う聖剣】が言うには魔王は三パーティーでの攻略が普通だとか。いよいよ終わりっていってもそこがキツイよなあ」

「勿論【楓の木】の皆はすっごい強くて頼もしいんですけど、サリーも流石に難しいんじゃないかって。ね?」

「うん……」

サリーが詰まった箱の中からも微かな声が返ってくる。

「『魔王の魔力』を何周分も集めるのは時間も人手も厳しいものがあるからな。一発突破を狙うために必要なら、俺の知り合いにも声をかけられる。もし三パーティー分の人員を集めて欲しい場合は頼ってくれていい」

「ありがとうございます!」

「【炎帝ノ国】の皆さんも魔王まで辿り着きそうでしたよね」

「【thunder storm】と【ラピッドファイア】もきっと時間はかからないと思います」

「私達も皆に負けてられないね!」

ライバル達のことを思いながら、まずは目の前の『魔王の魔力』を確実に手に入れることが先決だと気を引き締める。

「さてここからはしばらく洞窟だ。特に敵が強い訳じゃないんだが……こいつのせいで【暴虐】がな……」

「うぅ、仕方ないですよね……」

「どうにかできればよかったんですけど」

「ダンジョンの形を変えるスキル……は聞いたことがないです」

マイとユイの膂力を持ってしても、ダンジョンの壁は壊せない。

ここは予定通り【暴虐】を温存したまま進むしかないとメイプル達は洞窟へと踏み入った。

クロムが敵は強くないと言った通り、洞窟内は特に苦戦することなく抜けることはできた。

最初に話した通り懸念点は【暴虐】が使えないことだけだったのだ。

順調に一歩一歩奥へと進むメイプル達は再び沼地に足を踏み入れていた。

とそんな中、突然の大きな地響きを感じたメイプル達はそれぞれがちらと顔を見て確信する。

「メイプル、次が来るぞ!『例のアイツ』だ!」

「分かりました!【全武装展開】!」

メイプルが武器を展開し、前方へ巨大な砲口を向けてレーザーを放った。

それは濃霧を裂いて飛んできた大きな瓦礫に直撃し、着弾する前に爆散させる。

狙ったのは敵ではなく瓦礫そのもの。破片もメイプル達には届かず、脅威は未然に取り除かれた。

しかしこれはあくまで初撃を撃ち落としただけ。この瓦礫をメイプル達目掛けて放った敵が深い霧に紛れて隙を窺っているのだ。

マイとユイは浮かべた大槌の操作に集中し、それを守るように外側に体を向けたクロムとメイプルが立つ。

敵が近づいてきたことを示すシグナルが見て取れるのはほんの一瞬。重要なスキルをボスまで温存するためにもここは見逃せない。

そうしてじっと霧の向こうを見つめていたクロムは、赤い小さな光がすっと素早く動いた瞬間を捉えた。

「ネクロ【覚醒】!【死の重み】!」

クロムの声に反応して、敵を見つけたことを理解したメイプル達も同じ方に向き直ってクロムを先頭に霧の中を走る。

クロムが敵の移動速度を落とし、こちらからも距離を詰める。敵も同時に移動していたが故、彼我の距離は大きく縮まり、濃霧に隠された敵の姿が露わになった。

肥大化した筋繊維の塊。荒い息を吐く死体の大男。メイプルの胴よりも遥かに太い腕は先程の瓦礫を放り投げるくらい容易だろう。一段階強い敵が現れる中盤の山場である。

「ネクロ【幽鎧装着】!【マルチカバー】!」

先頭のクロムが接敵し、ネクロを纏い防御を固めてマイとユイを庇って大盾を構える。力を込めて振るわれた大きな拳を大盾の中心でしっかりと受け止めると盾で攻撃を弾き敵の体勢を崩す。

「「【飛撃】!」」

「【古代兵器】!」

それに合わせてマイとユイが放った衝撃波に寸前で高いバックジャンプを繰り出して回避する。そこを狙ったメイプルの青いレーザーも体を捻り強靭な腕を振り抜いて打ち消してきた。

「くっ、機敏なやつだな!」

「シロップ【覚醒】!【大自然】!」

「ナイスだ!」

メイプルがシロップに命じると地面を割って太く大きな蔓が伸び、メイプル達ごと敵を包み込む。逃げ場を減らせば攻撃も避けにくい。

「【挑発】!【活性化】!」

そっちから距離を詰めてこいとクロムがスキルでヘイトを稼ぐ。素早く重い連撃にHPが削られるが、自動回復速度も凄まじい。クロムはその自己回復能力を活かしてあるダメージを受けることを前提として戦えるのだ。

クロムが食い止めるその隣からするりと伸びた大槌が両側からすり潰さんと迫る。

それをバックジャンプで避けようとしたところで、ドンッと音を立ててシロップの生み出した【大自然】の檻にぶつかった。

「【【ウェポンスロー】】!」」

放り投げられた大槌は逃げ場をなくした敵の肉体を粉砕し、伸びた太い蔓をバラバラにして遠くへ吹き飛んでいく。

当たってしまえばそれで終わり。敵も上手く攻撃を捌いてはいたものの、この勝負は素早く敵の逃げ先を潰したメイプル達に軍配が上がった。

「ふー、一撃必殺はやっぱいいな。本当はまだ多彩な攻撃を持ってたんだぞ?腕が伸びたりとか」

一定量以上のダメージに対する軽減を持っていない場合、形態変化をさせずに倒せるのは大きい。形態変化や行動パターンの変化がHPの減少によって起こる場合、変化前はある程度落ち着いた動きになりがちだからだ。

周りにさらに敵がいないことを確認し、武器を収めて一息つく。

「ここをこの調子で抜けられたんなら、後はボスまでそう苦しい所はない。油断せず行くぞ」

「「「はいっ!」」」

箱の中のサリーを含めて、攻撃を受けてはいけないプレイヤーの方が多いのだ。勝って兜の緒を締めよ。メイプル達は道中の敵への対処を再確認すると霧の向こうへと歩を進めるのだった。