軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

防御特化と助力。

それから数日。攻略も順調に進む中、メイプルとサリーはというと情報交換も兼ねて、【炎帝ノ国】の面々と共に町の中のカフェで話をしていた。

「流石に私達の方が先に魔王までは辿り着きそうだな」

「ま、攻略速度に関してはこの人数で遅れを取るわけにはいかないよなぁ」

「そうですね。ギルドの皆さんも頑張ってくれていましたし」

「聞きたいことがあれば教えられる……はず。ある程度はね」

「ミィ達も早いねえ。【集う聖剣】の方ももう挑戦するかもって!」

「一度挑むだけならもう少し早められそうだが、今回は事前に強いとわざわざ触れ込みがあるボスになる。一度での突破は難しいと考えて挑戦権になる『魔王の魔力』を複数回分集めている所だ」

「強いボスは情報を集めて繰り返して勝つのが基本の動きだからなあ。【楓の木】も複数個集めておくのをおすすめする」

「うーん、一回じゃやっぱり難しいのかなあ」

独り言のようにそう溢すメイプルだったが、【炎帝ノ国】の面々も簡単に無理とは言い切れないと思っているようだった。

「難しい……と思うけど。普通なら……」

「ただ……【楓の木】の皆さんでしたら、一度で勝ってしまうということも、あるかもしれませんね」

「どうですかね。難しいのは間違いないですけど、メイプルも私も全力は尽くすつもりです」

「【集う聖剣】とも話ができているのなら、詳しい情報ももうしばらくすれば聞けるかもしれないな。強敵であることは間違いないが、それでも【楓の木】の勝利を祈っている」

ミィはそう言うと、さりげなくちらとメイプルに目配せをする。

頑張って。と改めてそう言ってくれているのだとメイプルが察してこくっと小さく頷いて返すと、ミィは微笑んでみせた。

「と、励ましはこれくらいにしよう。あくまで今日の本題は別にある」

ミィは一つ咳払いをすると、切り替えて本題とやらを話し始める。

「本筋のクエストとは異なるが、一つ強敵に出会した。とはいえ私達のギルドで何度も挑戦すれば勝利を掴むことはできるだろう。ただ……魔王挑戦に注力する今、あまり時間と人を割きたくはない」

「じゃあ私達が協力すれば……」

メイプルがそこまで言ったところで、話が早いとミィは頷く。

「メイプルの防御能力があれば面倒な部分の対処をスキップできる。力を貸してもらえるならいくつかの情報を対価としよう」

十層攻略の速度は【炎帝ノ国】が上。十層に降り立ってすぐならば、攻略順の自由度もあって【楓の木】しか知らないこともあったが、時間が経つにつれ流石にそれも無くなっていた。

ならばメイプル達が情報の対価にできるのは、別の情報などではなく、各ギルドメンバーが持つ特殊なスキルを活かした戦闘における独自の手助けだ。

その特異性ゆえにメイプルにしかできないことは多く、それは一定数の敵の攻撃に対する強烈なカウンターとなり得る。

ミィの提案にメイプルは大きく頷いて、協力を申し出る。

「そう言ってくれると思っていた。ただ、改めて……助かる。礼を言う」

「うん!すぐに行く?」

「二人に時間の余裕があるのなら向かいたい」

「メイプル、私は大丈夫」

「じゃあちょうどいいね」

「であれば件の場所へ案内しよう。イグニスに乗って移動する」

「はーい」

「よろしく、ミィ」

「んじゃあ行くか!」

「そうですね。頼りにしています」

「先に二人に欲しい情報について聞いておこうかな……向かっているうちにまとめたいし」

「はいっ!」

メイプルはサリーと相談して、マルクスに求めている情報について伝えた。

そうして、メイプル達は会計を済ませて店から出ると、【巨大化】させたイグニスの背に乗って目的地へと向かうのだった。

空を飛んでいったイグニスが辿り着いたのは細かな文字が刻まれた石柱が立ち並ぶ森の中の開けた場所だった。

「いかにもって感じ」

「何かありそうだけど……」

「ね」

メイプルもこういった怪しげな地形を何度か見てきた。ここもその一つで、何かが鍵になっていることは察せられるが、その何かが何なのかが重要なのだ。

それが分からなければ怪しいと感じてもできることはない。

「メイプル【身捧ぐ慈愛】を頼む」

「……!分かった!」

ミィの言葉に従ってメイプルは【身捧ぐ慈愛】を展開する。使わせるということはすぐにでも暴風のような攻撃に晒されることを示しているからだ。

「全員、準備はいいか?」

ミィは全員の準備ができたことを確認するとインベントリから一つの小瓶を取り出した。

小瓶の中で不思議に燃え続けている黒い炎、それがキーアイテムであることを証明するように、ミィが小瓶の蓋を開けると同時に周りの石柱から黒い炎が噴き上がり、メイプル達を包み込むように空まで広がり覆っていく。

辺りに広がっていた森は黒炎に包まれながらも同じように残っているようだが、これが別空間であることは明らかだ。

「メイプル、問題はないか?」

「うん!」

「おおー、流石だな。なら、第一関門は突破ってとこか」

「ここはエリア全体が燃えているようなのです。私の回復魔法をかけ続けることで強行突破できなくもないのですが……」

四層エリアのラスボスがいた異界にも似ているが、ここのダメージゾーンは全域かつ途切れることがなく、盾や障壁で防げるものでもない。それでもメイプルならそのギミックを丸ごと一つ無視し、このエリアの難易度を大きく下げることができる。それは優秀な大盾使いが何人も所属する【炎帝ノ国】でも実現不可能な、高い防御力と【身捧ぐ慈愛】を保持するメイプル特有のものなのだ。

「トラップでの防護も要らなそうだね。あとは……明かりも」

本来なら明かりにならない黒炎によって暗い周囲も【身捧ぐ慈愛】の発光が照らし出してくれる。手持ちのランタンとは違い、敵に壊されることも片手を塞ぐこともない、これまでもメイプル達を何度も助けてくれた頼もしい副産物だ。

「地形そのものは変わっていない。最奥までの道程は把握済みだ。二人は私達から離れず着いてきてくれ。シン、索敵と迎撃を頼む」

「オーケー、いつも通りな!【崩剣】!」

シンは手に持った剣を細かく分離させて空中に浮かべると燃え盛る炎の向こうへと飛ばす。

複数の剣を同時に別方向へ動かす超絶技巧。

さらっとやってのけてはいるが、メイプルが同じスキルを手にしたとしても安全かつ確実な索敵は難しいだろう。

「敵が索敵にかかり次第私達で遠距離から叩き落とす。敵は全て黒炎に包まれた獣だ。サリーは水でメイプルは……毒以外で頼む」

「分かった」

「任せて!」

一歩一歩慎重に進みながらシンの指示に合わせて五人で迎撃する。

「【水竜】」

「【滲み出る混沌】!」

「【蒼炎】!」

「……【遠隔設置・風刃】」

「【ホーリースピア】!」

シンの的確な索敵によって場所を割り出されたモンスターは、燃え盛る炎の奥から飛び出すよりも先に広範囲の攻撃によって撃墜されていく。

フィールドの炎上ダメージの厄介さによって全体としての脅威度を引き上げていたモンスター達は、連発される魔法とスキル、そして他でもないシンの攻撃で姿を見せることもなく消滅した。

シンの索敵は自由に動く武器によって行われている。故に索敵と攻撃にタイムラグはなく、速やかに殲滅に移ることもできるのである。

「っし、問題なさそうだな」

六人の元まで辿り着いたモンスターがいなかったことで、これなら道中はクリアしたも同然だとシンは索敵を継続する。

「メイプルの守りがあるうちは問題ないか。ミィ、ボスまでは行ってるんだっけ?」

「ああ。その時は道中以上の継続ダメージで対策を組んでからの再挑戦を余儀なくされた。敵は黒炎を纏う不死鳥だ。」

「不死鳥ね……」

「察したようだな。恐らく二人がこのボスへの挑戦権を手に入れるのは難しいだろう」

このエリアへの直接的な鍵となっているのはあの小瓶に詰められた炎だが、そこに至るまでにミィのテイムモンスターであるイグニスが必要なのだ。

「他のテイムモンスターにも似たような特殊クエストが用意されている可能性はあるけど……見つけられるかどうかは怪しいよ」

「私達もこのクエストを知ってから探してはいるのですが……」

【炎帝ノ国】の人数で探しても見つからないなら、相当見つけづらいかそんなものは他にはないかのどちらかだ。

「何か強力なスキルや装備に繋がると思ってはいるが……それを使って二人にリベンジする機会がほとんどないというのは寂しいところだ」

個人でのPVPの機会はまだあるが、二人が離れるまでにギルドを挙げて大規模戦闘をすることはないだろう。とするとメイプルとサリーには勝ち逃げされてしまうことになる。

「私もメイプルもまたイベントの時くらいは顔を見せるかもしれない」

「はは、そうしてくれ。それまでに私達も【楓の木】の戦闘力を追い抜いておくとしよう」

「多少離れたところでメイプルの防御は結局貫けないのが厄介なとこだよなぁ」

「サリーの回避は鈍ったり……するかなあ。しなそうだなあ……」

「どう、サリー?」

「大事な戦いなら数日あれば鍛え直してくるかな」

「そりゃそうだ。っと、あんまり話してらんねえな!追加が来たぞ!」

索敵に引っかかったモンスターに、再度完璧にスキルによる迎撃を合わせて、メイプル達の進撃は続くのだった。

進むにつれて、初めてここに踏み入った二人も辺りの変化に気がついた。

「風が……」

「うん。でも、ダメージはないよ」

「火力は上がっているんだがな。ただ、流石メイプル期待通りだ」

「こっから敵の数も増える。ボスまでもうちょっと頼むぞ!」

「メイプル、【古代兵器】も展開しておこう」

「そうだね!こんなに燃えてるし、エネルギーも十分!」

ドリルを巻きつけなくとも全域が燃えていれば勝手にメイプルのエネルギーは溜まっていく。

効果のないダメージゾーンはメイプルにとってバフ効果のあるフィールドのようなものだ。

「また来るぞ!前に集中してる!」

「【古代兵器】!」

音を立てて割れたキューブがガトリングガンに変形し、シンに言われた通りに前方へ青い光弾をばら撒くが、それだけでは倒しきれず何体かが抜けてくる。

そこで初めて見たモンスターの姿は駆け込んでくる豹や高速で迫る鷲。メイプルの光弾によって体を抉られながらも纏う燃える黒炎の奥に赤く輝く瞳は強い敵意を感じさせる。

「残念だが、させない!」

「【豪炎】!」

「【水竜】!」

シンの剣は索敵にも使えるが、あくまで本分は攻撃だ。自分の元に【崩剣】を引き戻して背後からモンスターを貫き、正面からはミィとサリーが迎撃する。

プレイヤー内最高峰の戦力相手に、フィールドギミックを無効化された不十分な状態で戦わされては勝負にならない。

「快適快適、そろそろか?」

「うん……前回もこの辺りだった」

「メイプルさん。強力な持続回復スキルを重ねがけしておきますね」

「はいっ!」

「基本テイムモンスターは出さないように。これ以上はメイプルへの負担が大きい」

メイプルの【身捧ぐ慈愛】は範囲内の味方であれば必ず攻撃を引き寄せてしまう。対象を絞ることができないため、全員が固定ダメージや防御貫通攻撃を同時に受けるような時は、想定以上のダメージが集中してしまうことにもなりかねない。

「オーケー、俺は【崩剣】で攻める」

「サリーは範囲外に出ないように……って余計なお世話だよね」

「ミスはしません」

ここから先はボスとの戦いになる。そこでは黒炎がメイプルでも無効化できない固定ダメージに変化することは確認済みだ。

「【救済の残光】」

メイプルの背から追加で白い羽が伸びるのに呼応するように、吹いていた風は強まりながら渦を巻いていく。

巻き上げられた黒炎の中から甲高い鳴き声が響いたかと思うと、燃える体を持ち大きな翼をはためかせる巨大な不死鳥が姿を現した。

「……!」

メイプルもすぐに変化に気づく。吹き荒れる火炎混じりの風が自分の体を燃やしてHPを削り始めたこと。

六人分を引き受けているために、地形由来とは思えない程のダメージがメイプルに入る。それは【救済の残光】のダメージカットがあってなお無視できるものではない。

「大丈夫ですよ。安心してください」

ここからは自分の仕事だとミザリーは杖を構えてメイプルを落ち着かせる。

「【回復の泉】【治癒の光】!」

足元に追加で設置した持続回復ゾーンと強烈な回復がメイプルのHPを即座に全回復させる。

「対象が一人なら回復量の多い魔法も多いです。守り切ってみせますから信じてくださいね」

「はいっ!」

メイプルが被害を一手に受け持つことでミザリーの回復も十分間に合う。

そして、二人が安定して耐えられていることを確認し、残りの四人が自由に動ける状況も整った。

「攻め続ける。二人のためにも早期決着が望ましい」

「うん、同意見。シンさん、【崩剣】いくつか浮かべて足場用にしてくれると助かります」

「はは、すごいこと言うな。ま、サリーならそんなこともできるか。オーケー」

「情報は揃い切ってない。ボスには未知の部分もあるから気をつけて……」

気を引き締めて、四人は上空を旋回するボスに武器を向ける。

「飛んでくぞ!」

索敵に回す【崩剣】はもう必要ない。シンは足場にした剣を加速させると、円柱状に展開される【身捧ぐ慈愛】の性質を活かして周りに剣を浮かべながら空へ舞い上がった。

「借ります!」

サリーは糸を伸ばしてシンの剣をアンカーにすると糸を縮めて急加速し、その勢いのまま飛行機械を起動して、シン同様空へと飛び上がる。

それを見て大きく羽ばたいた不死鳥は巻き上げた炎を風に乗せて放射状に炎の竜巻を生成し攻撃する。

その程度は当たらないと、シンとサリーは【崩剣】と飛行機械の機動力を活かして大振りな攻撃である竜巻をスルリと躱して肉薄する。

「【クインタプルスラッシュ】!」

「【崩剣】!」

防御はメイプルが担当しているため、燃える体を持っていようとアグレッシブに攻められる。シンも距離を保って次々に繰り出される竜巻を避けながら攻め続ける。それでも不死鳥もただやられっぱなしとはならず、旋回しながら体をより大きく燃え上がらせて地上に向けて急降下して突撃する。

それを見て迎撃に移るのはミィとメイプルだ。

「【インフェルノ】!」

「【砲身展開】【攻撃開始】【古代兵器】!」

不死鳥の炎にも負けない豪炎。属性相性は悪くともその圧倒的な火力で勢いを削り、そこにメイプルの二色のレーザーが突き刺さる。

敵もダメージ覚悟の突撃、だが、冷静にそれを見ていたのはマルクスだった。

「【聖なる鎖】」

黄色の魔法陣から伸びた鎖がフェニックスの体を拘束すると、一度見た攻撃への対策は立ててあるとばかりに続くスキルを起動する。

「【チェンジ】!」

選んだ罠の場所を入れ替えることで、不死鳥のすぐ側にトラップ起動用の札を持ったメイプルが召喚される。

ダメージを受け続けていて【カバームーブ】にリスクがあるなら、他のプレイヤーで運ぶまでだ。

「【水底への誘い】!」

拘束時間は数秒で十分。今のメイプルは一瞬で【悪食】のバーストダメージを叩き込むための触手を持っている。

「やっ、た!」

暴れる不死鳥の羽に薙ぎ払われ、マルクス達の元へ弾き返されてはしまったものの、作ってもらった一瞬の好機にここまで全員で稼いだよりも多くのダメージを叩き込んだ。

「本当、相変わらず……おかしなダメージ」

「味方でいるうちは頼もしいですけれどね」

「っと、話してられない。畳み掛けないと……!」

十回分の【悪食】を一気に消費したことで、ボスは大ダメージに怯んでダウンしている。残されたHPを削り取るため、上空からはサリーとシンが後を追うように急降下し、正面からはミィ、ミザリー、マルクスが攻撃を仕掛ける。

「【崩剣】!」

「【水竜】」

「【炎帝】!」

「【ホーリースピア】!」

「【遠隔設置・水弾】……」

全員が攻撃を加えて不死鳥の体がボロボロになっていく。が、ここでは僅かに倒しきれず、辺りの黒い炎を吸収し、HPを回復しながら空へと逃げようとする。

「メイプル!」

「狙い撃て!」

サリーとミィが振り返る。吹き飛ばされて倒れていた分、一斉攻撃に参加できなかったメイプルは少し遅れて武器を構えていたこと。

それが幸いした。

チャージを終えてバチバチと青いスパークを散らせる【古代兵器】。そして赤く輝くレーザーを放たんとする【機械神】の巨大な砲。

「【攻撃開始】【古代兵器】!」

強烈なレーザーが空へと舞い上がる最中の不死鳥を貫き黒炎の向こうへ消えていく。

胴に風穴を開けたその一撃は、この戦闘を終わらせるだけの威力を持っていたのだった。

不死鳥に死をもたらしたメイプルが展開していた武装を解除するのとほぼ同時に、辺りに広がっていた黒炎は収まっていき、替わりに帰還用と思われる黒い魔法陣が現れた。

「メイプル、サリー。助かった。お陰で随分楽に攻略が済んだ」

「それは良かった。で、何か期待通りのものは手に入った?」

「【冥界の炎】」

話すより見せてやる。そう言わんばかりにミィがスキル名を口にすると辺りに黒い炎が溢れ出し、ミィの周りには防御用とばかりに浮かぶ六つの黒炎が暗い輝きを放っている。

「おおー!」

「さっきのと同じだと……厄介だね」

固定ダメージがあればメイプルに対しても有効打となる。ミザリーのような強力な回復役を有さない【楓の木】は対応も難しい。

「フルパワーの【楓の木】に振るう機会がなさそうなのが寂しいところだ……が、スキルの中身を予想して対策は考えておくことだ。私も立ち止まっているわけではない」

「うん!」

「今度私達に困ったことがあったら助けてもらおうかな。その時に見せてくれるかも」

「はは、期待などしていないだろう」

「まあね。でも、時には手伝ってもらいたいこともあるかもっていうのは本気」

「その時は声をかけてくれればいい。いい返事ができるだろう」

「期待してるね!」

「うんうん。いやー、助かった!お陰で探索に時間が割ける」

「そうですね。ですから……」

「予定通り情報は対価として共有するとして、僕らも必要になったら手を貸すよ」

「ありがとうございますっ!」

ミィだけでなく三人も協力の意思を見せて、改めて親交を深めるメイプル達なのだった。