軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

防御特化と四層エリア4。

急いで四層エリアへやってきたメイプルは既に待っていたサリーとカスミに合流する。

「おまたせー!ごめんね!」

「大丈夫大丈夫、カスミにこのエリアの話を聞きながら待ってたとこ」

「装備は完成したのか?」

「見た目だと分からないでしょ?イズさんがそういう風に作ってくれたんだ!」

そう言うとメイプルは耳を出して銀の耳飾りと新しくなった指輪を見せる。

「おおー。これなら髪に隠れて見えないね」

「準備は整ったみたいだな。なら早速行くとしようか」

バージョンアップしたメイプルを連れて、まず目指すのはより強い重力が働くエリア。カスミはマップを確認すると飛行機械を起動する。

「ハクの【超巨大化】は一旦温存する」

「そうだね。行った先の状況次第で暴れてもらえる可能性もあるし」

「じゃあ飛んでいこー!」

町から出て太陽の下を飛んでいく三人はしばらくして目的地付近で着陸する。

「何もない……よね?」

目の前にはどこまでも続くような広大な草原。吹き抜ける風は心地よく、草食獣をモチーフにしたモンスターが駆け回っている。が、事前に聞かされていたような強い重力は感じない。

「メイプルが来る前に四層エリアについて聞いたんだけど、魔法陣ともちょっと違う方法でエリアを分けてるんだって」

「……?」

「説明されるより見た方が早いだろうな。ちょっと待っていて欲しい」

「うん!」

カスミはインベントリから一枚の札を取り出す。持った手を空中にすっと突き出すと、紫の炎が燃え上がり大きな赤い扉が現れた。

ボス部屋の扉の雰囲気にも似た、ここと別のどこかを区切っているのだと感じ取れる明確な境界線。

「四層エリアは戦闘に関してはこうして封じられた異界を巡るクエストがほとんどだ。入ろうか、この先はおそらく聞いていた通りの場所になるはずだ」

準備はいいかとカスミが振り返る。メイプルとサリーも武器を抜いていつでも問題ないと頷いた。

「よし、行こう」

カスミが扉を開けると同じ紫の炎が溢れ出る。それはメイプル達を包み込み。気づけば辺りは常夜の荒野に変わっていた。

「おおー……あっ!」

メイプルの後ろからギイッと音が聞こえる。見るからに重そうな赤の大扉はバタンと閉じて、元の世界との繋がりを絶った。

「普通のルートで元の世界に戻るにはボスを倒すか、ここに戻ってくるかだ。あとは……一応ログアウトや全滅でも弾き出されるな」

「なら次は踏破して最奥から出るのが目標かな」

撤退より完遂を目標とするのは当然のことだ。二人もそれに異論はない。

「そうなるな。しかし……確かに重い」

「重力……って話だったけど、デバフ項目を見ると正確には移動速度低下と強制的な落下だね。カナデとかヒナタもそんな魔法を持ってたし同じ仕組みかも」

正体は二種類の移動制限。ただ、そうなると単純に重力と形容した時とは変わってくる部分もある。ここは間違いなく敵に有利に作られたフィールド。戦闘になる前にまずは細かい部分の確認からだ。

「メイプル、確認しておこう。【機械神】の銃撃はどれだけ機能する?」

「試してみるね。ちょっと離れてて……よーし【砲身展開】【攻撃開始】!」

音を立てて飛んだ砲弾は一メートル程で地面に落下して爆発する。

これでは本来の射程の十分の一もない。カスミの刀とほぼ変わらないと言っていいくらいだ。

「あー……とりあえず【毒竜】はなしで」

「そうだね……」

長射程であるからこそ、毒沼の生成が問題なくできているのだ。

目の前に着弾しては思わぬところで事故が起こりかねない。

「私も試しておくか。【水の道】!【氷柱】【糸使い】!」

空中に伸びていくはずの【水の道】はその形を維持できず、糸で引かれるように地面に落ちてきてバシャンと音を立てて弾け消滅していく。【氷柱】自体はいつも通りだが、糸で体をつなげてよじ登っていこうとすると、すぐに糸が切れて地面に落とされてしまった。

「駄目か……なら地面に足をつけて戦うしかないかなあ」

本来地面に落とされるはずでも、糸で結びつけていればあるいはと考えたサリーだったが、空中に体を留めておくために使ったスキルが解除されてしまうなら、無理に抜け穴を探すより地上で戦うことに集中する方が分かりやすい。三人は気になる部分の検証を済ませて事前準備を終えると、扉を背にしていよいよ出発することにした。

「飛行機械が環境にある状態だからな。ただの平地には空に対する回答が用意されている……ということだろう」

「制空権取れれば完封できるタイプのモンスターなんていくらでもいるし仕方ないね」

「敵は未知だが、なに勝てないことはないはずだ。そのために装備も揃えてきたわけだからな」

「防御はまっかせて!」

「うん。頼りにしてるよ。必要なら回復はすぐかけるから安心して」

【ヒール】は投射物ではなく対象に直接作用するものであるため問題なく機能したことは幸いだった。緊急時にポーションを放り投げるのは難しいため、事前にイズ特製の回復の霧を展開するなど用心することにして、三人は敵の強さを確認するためこの場所最初のモンスターを探すことにした。

「向かうべきは……向こうっぽいよね」

「だろうな」

一番星の如く空に輝く十字の紫の光。これといった目印がない中で、その輝きは三人に進む道を示しているように感じられた。

「他に目印もないし、一回行ってみよう!」

「どちらにせよ動いてみないことには始まらないな」

「この広さなら……ハクを呼んでもいいんじゃない?移動速度も揃っていた方がやりやすいし」

移動速度そのものを落としてきており、どうやら【AGI】が0のメイプルにも影響はあるようだ。メイプルの高速移動は自爆の反動によるものであり、地面に落とされるとうまく前には進めない。ハクならば手を塞がない分、サリーとカスミが台車に乗せて運ぶよりもいい選択だ。

「そうしよう。ハク【覚醒】!」

【超巨大化】を温存していたことが幸いした。カスミはハクを呼び出すと【超巨大化】させて移動手段と頼もしい戦力を同時に確保する。

そうして移動を開始して少し、メイプル達を囲むように輝く六つの紫の魔法陣が展開され、雷の落ちる音と共に紫のスパークを散らせる雷電を纏った獣がそれぞれの魔法陣から出現する。

狼より一回り以上大きく、唸り声を上げるその姿は一体だけ見ても十分な威圧感を放っている。

「メイプル!カスミ!」

ハクの上では戦いづらい。サリーの短い呼びかけで適切に意図を把握し地面に飛び降りた所に、獣達は駆け込んできた。

「速いな……!」

「メイプル!」

「【身捧ぐ慈愛】【救済の残光】!」

「【ヒール】!っと!」

移動速度低下も強制落下も無視した動きで、雷光の尾を引いて跳ね回りながら距離を詰めてくるのに対し、メイプルは背に六枚の白い羽を伸ばし二重の防御フィールドを展開する。

サリーは【身捧ぐ慈愛】発動で減ったメイプルのHPを回復させると、アイテムを地面に投げつけ持続回復効果を発揮する緑の霧を噴出させる。

「くっ……」

「強い動き」

ジャンプして一方的に上を取ってきた獣にカスミとサリーは目を細める。

遠距離攻撃を封じられている今、適切な距離をとって飛び上がった所を咎めることは難しい。

飛び込んできたところへのカウンターを狙う二人だが、獣達は体毛からバチバチと弾ける紫の電撃を強め、咆哮と共に一気に迸らせた。

道中のモンスターとはいえ流石に六体分、ベルベットのそれにも負けない強烈な電撃が紫の光で辺りを包み込む。

スキルなしでの回避は不可能と判断したサリーは、回避を一旦完全に放棄しメイプルの状態確認を優先するべく目を向ける。

「だいじょーぶ!これは貫通じゃないみたい!」

「オーケー安心した!」

「なら攻めよう!サリー、一体ずついく!」

「了解!」

【楓の木】が誇る最強の要塞は雷撃に揺らぐことなく二人を守り切る。

その事実さえ確認できれば心配事はない。ここからは二人の番だ。

「【一ノ太刀・陽炎】!」

移動速度など関係ない。カスミにしかできないスキルを使った問答無用のゼロ距離戦闘。敵の着地に合わせて懐に飛び込んだカスミは一閃と共に大きなダメージを与えると、体を捻って背後へ回り込む。

「【七ノ太刀・破砕】!」

重い一撃が獣の体を浮かせて吹き飛ばす。強制落下の影響下にないが故に飛んだその体は待ち構えるサリーの元へと綺麗に運ばれた。

何とかサリーを倒そうと降り注ぐ雷は全てメイプルが庇って無効化する。

「朧【火童子】!【水纏】【クインタプルスラッシュ】!」

炎が、水が、ダメージエフェクトが、同じくらいに鮮やかな輝きで雷の中に散る。

本来五連撃のスキルは二本の武器によって十連撃に、そこに一撃ごと三種の追撃がさらに乗る。四十回の多段ヒット。見た目以上の重さでもってサリーのダガーは獣のうち一体を消し飛ばした。

「頑張ってー!」

「ん、さくっと片付ける」

「もう少し待っていてくれ。次は奴に行く!」

「合わせる!」

メイプルを突破する術を持っていないことを後悔しろとばかりに、一方的な各個撃破によって三人はこの包囲を突破するのだった。