軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

防御特化とHP確保。

二人足並みを合わせて、メイプルとサリーはリリィ達と悪逆の限りを尽くして蹂躙した、雲の中へ続くボス部屋にやってきていた。

一度倒してしまえばあとは素通りできる。リリィの言った通りボスはもうそこにはいなかった。

「ふー、いよいよだね!」

「うん。上に上にって話だから、ガンガン上っていっちゃおう」

「おー!」

二人は奥に出現している魔法陣へと一直線へ向かう。行く先は雲の中。立ちはだかる敵を倒し、頂点を目指して進む巨大なダンジョンの入り口だ。

飛び乗るとすぐに光に包まれて、次に周りが見えるようになった時には、既にそこは一面真っ白な雲でできた迷宮の中だった。

「雲の中も久しぶりかも」

「流石に五層に行かないとこんな所はないもんね」

地面がふわふわと沈み込むのも五層と同じ、足を取られないように注意しつつ、歩き回って周りを確認する。

二人が転移してきたのは広い空間。そこからは五本の道が伸びており、どれか一つを進むしか選択肢はないようだ。

「どれにする?」

「上に行くって聞いてるから……上り坂の方がいいよね」

「確かに。じゃあ最初は素直に上に向かってそうな道にしよう」

「うん!」

二人は通路の入り口に立って奥を覗き込むと、五本の道の中でも最も険しい道を選択した。

一部突き出た雲が足場にはなっているものの、垂直の壁をよじ登るように進まなければならないが、そこは二人の攻略順が功を奏した。

「飛んでいくよ。操作は大丈夫?」

「だいじょーぶ!」

先に三層エリアをクリアしてから来たことによって、高低差はたいした障害にはならない。

用意された足場をスルーして、二人は空を飛んで先へと進む。

「あっ!サリー、モンスターだよ」

「そうだね。んー……遠距離攻撃はなさそうだけど」

空中に止まって通路の先を注視すると、背景の白い雲に同化してしまいそうな、真っ白な鎧を着た兵士らしきモンスターが複数体歩き回っているのが分かる。持っているのは同色の槍や剣で、パッと見た限りでは魔法使いや弓使いはいない。よく見るとその装備は床や壁と同じく雲でできている。

おそらく今後も出会うモンスターになるだろうと少し観察していると、それらは足元の雲に沈み込んで消えたり、再出現したりを繰り返しているようだった。

「潜って待ち伏せしてるんだ」

「何もいなそうに見えても注意しないとね」

「飛んでたら大丈夫かな?」

「地面よりは安全だと思う。今回も一旦先制攻撃で様子を見たいな」

「分かった!」

メイプルはもうすっかり慣れた手つきで展開した兵器を構え、赤いレーザーを地面に向かって放つ。

雲の床を覆うように拡散していくレーザーが雲の兵士にダメージを与えていく。

しかし、体力が高いのか防御力が高いのか想定よりもダメージが入らず、攻撃によってメイプル達を認識したようで二人の方を向き武器を構えた。

「っと……!」

二人の見ている中、兵士は空中に雲の道を作るとそれを素早く駆け上がってくる。

プレイヤーが飛行機械を使えることも想定されているため、飛んでいるからといって一方的には攻撃させてもらえない。

「止めるから援護お願い」

「分かった!」

サリーが加速し前に出たことで兵士が引きつけられる。メイプルはさらに銃を次々に生成し弾幕によって兵士にダメージを与え続ける。

サリーはメイプルの弾丸を回避し、兵士への攻撃を阻害しないように戦闘に入った。

目の前には槍使いが一体、ロングソードを持った剣使いが二体。現状敵に特別おかしな動きはないが、接近しながらも攻撃より回避に集中する。

「……!」

回避に意識を向けていたことが活きて、サリーは敵の攻撃を回避した。雲の剣と槍は射程外と思われた距離から、突きの勢いに合わせてぐんと伸びてそのまま後ろのメイプルをも越えて壁に突き刺さる。

「いい武器持ってるね」

伸ばしたかと思えば元の長さで千切れて攻撃の後隙もない。

それでも最初の一発、まだサリーが性能を把握していない初撃を外した。この事実は重くのしかかった。

射程が伸びるといえども軌道は変わらない。多少速いだけの単純な突きや薙ぎ払いでは、背後からのメイプルの弾幕すら避けているサリーには届かない。

「効きは悪いけど……【水纏】!朧【火童子】!」

スキルを使って、【追刃】を含めサリーの攻撃に付随する追撃は三種類。

一度ダガーで斬りつければ水と炎が散り、通常の四倍の攻撃が敵を攻め立てる。

メイプルの銃弾は高威力で強力だが、レベルアップのステータス増加に合わせてダメージは伸びない。

だからこそメイプルが強く扱えてもいるのだが、やはり以前程高火力とは言えなくなった。

それに対して、サリーの攻撃は【STR】に振った分強くなる。

【AGI】だけでなく【STR】も伸ばし、【剣ノ舞】でさらにダメージを底上げしている、サリーの連撃は十層のモンスターにも深い傷をつける威力を誇っていたのだ。

すり抜けるようにモンスターの間を抜け、その度に大きくダメージエフェクトが散る。

何とか生き残れそうなところにはとどめを刺すように銃弾の雨。

威力は物足りなくなりつつある。そうは言っても放置していては無事では済まないのもまた事実。振り回す雲の武器をいなして、二人が敵を霧散させるのにはそう時間はかからなかった。

しばらく待ってみても雲の床から追加のモンスターが湧き出てこないことを確認して二人は一旦着陸する。

「ナーイス援護射撃」

「サリーもさっすがー!」

「雑魚モンスターは何とかできそうだね。足場を作ったり武器が伸びてきたりしたのはびっくりしたけど」

「ねー。あんな武器あったらサリーは上手く使えそうだよね」

「新しいユニークシリーズのお陰で似たようなことはできるようになったけど、流石にあそこまでは伸びないなあ。でも、一回イズさんに聞いてみるのもありかも。三層エリアでも新しい素材とかあったみたいだし」

「今度聞いてみよっか!」

「そうだね。メイプルも新しい装備とか作ってもらうのもありかも。ほら、最終決戦の前は一番いい装備にしておかないとね?」

「確かに……」

メイプルは既に強力な装備を複数持っており、その上でスキルスロットの都合もあってユニークシリーズで戦うのが基本だ。もう装備は十分揃っているといってもいい。それでも装飾品などは場面に合わせて変えられた方がいいのは確かだ。

「HPを増やしてもいいし、他の状態異常に耐性を付けられるようにしておくのもよし」

「魔王とかすごいことしてきそうだもんね」

「そういうこと」

メイプルは毒と麻痺には強いが睡眠やスタンは未だ弾けない。いくつかのスキルで耐性は強化できるが、盤石にするならサリーの言うように装備を整えておくのがベストである。

今はもうゴールドや素材で困るような懐事情でもない。最後はきっちり勝って終わるために、今のうちにできることはやっておこうとメイプルは意識を改めるのだった。

飛行機械を手に入れてから来たことで地形で手間取ることがなく雲の中を進んでいく。そうしてしばらく進むと、目の前に飛ぶ必要のない地形が現れた。

天井が低く、床も平らで先は二人が並んで歩くのがやっとの細い通路になっている。一面が白であるが故分かりにくいものの、左右に分岐した道があるようだ。

「迷路みたいになってそうだね」

「じゃあ一つずつ見ていくしかないかな?あ、壁に手をついて歩くといいんだっけ?」

「敵も出てくるだろうから出会い頭にぶつからないよう、曲がり角に注意していこう。さっきみたいに床から出てこられると直前まで気配もないし」

「分かった」

大盾を構えたメイプルを前にして雲の迷路へと足を踏み入れる。

「飛んでいけたら簡単なのにー」

「流石に天井はどこも塞がってるか」

「ねー」

「まあ飛行機械がなくても飛べる人多いし、屋根はつけておかないと」

ここは真っ当に迷路を攻略するしかないだろう。二人は奇襲に警戒しつつ歩を進める。

いくつかの行き止まりで引き返して、どこまで来たかも分からなくなりそうな雲の中を進んでいると、先頭を行くメイプルは足元が少し柔らかくなったことに気付いた。

「……?」

「どうかした?」

「床が柔らかくなったよう……なぁっ!?」

「メイプル!」

一歩踏み出したメイプルがずぶっと床に沈み込んだ瞬間、サリーは糸を伸ばしてメイプルを繋ぎ止める。

腹部まで床に埋まったメイプルだが、サリーの糸のお陰でとりあえずそれ以上の沈下を免れた。

「ゆっくり落ち着いて飛行機械で上がってきて」

「うん……ふー、びっくりしたあ」

メイプルは飛行機械によって上昇しすぽっと床から抜けると、はまっていた場所を二人覗き込む。

「「うわっ……」」

見えた光景に二人が思わずこぼすのも無理はない。穴の先には遥か向こうの地上が見えていた。落ちれば地面まで一直線ということだろう。

「私だったら落ちても大丈夫かな?」

「んー……ここって空を飛んでも辿り着けないっていう話だったし、単純に落下ダメージじゃなくてちょっと落ちたところで強制死亡みたいなこともありそう」

「そっかあ」

「飛行機械でさっと止まれるように意識しておいて。猶予はありそうだから」

「分かった!」

「さてと、床が抜けるって分かったし飛んでいきたいところではあるけど……」

一度強化を済ませて伸ばしてはあるが、連続での飛行は時間に限りがある。

本当に必要になったタイミングでちょうど飛べなくなったという最悪のケースは避けたいところだ。

「じゃあ盾に乗っていくのはどう?」

「ん、いいね!久しぶりにそれでいこう」

「おっけー!準備するね!」

メイプルは装飾品を付け替えると宙に浮かぶ二つの手に盾を持たせ地面と平行にセットする。

不気味な手についてもマイとユイが四六時中振り回していたため、サリーももう慣れたものだ。

「どうぞどうぞ」

「操縦よろしく」

「まっかせて!」

地面に罠がある時のメイプルの対処法の一つ。今回は浮いた盾に乗って、二人は改めて迷路の奥へと飛んでいく。

すると、曲がり角を曲がったところで地面から這い出るように先程の槍持ちの兵士が現れ、今度は向こうから先制攻撃を仕掛けてきた。

雲の槍は銃弾にも負けない速度で真っ直ぐな通路を伸びてきて、メイプルの額に直撃する。

それは一瞬でメイプルのHPを全損させ、【不屈の守護者】が発動する。

予想はしていなかったダメージに、メイプルが硬直する中、サリーはぐっとメイプルの体を引いて敵の追撃を拒否する。

「……っ!」

「メイプル、バック!【氷柱】!」

曲がり角だったことは幸運だった。【氷柱】で射線を切ると、敵が攻撃を仕掛けるより早く浮かんだ盾を操作して、二人は来た道を戻っていく。

「びっくりしたあ……すっごい強いんだね」

「確かに高威力ではあったけど……んー、ちょうどいいタイミングだったかも」

「……?」

「流石にメイプルのHPが足りなくなってきたのかなって」

「……!なるほど。変わってないもんね」

メイプルはユニークシリーズによって防御力は際限なく増加し続ける。ただ、HPは装飾品で多少盛っただけ。必要な時は空いた頭装備に大天使装備のティアラを乗せるか【クイックチェンジ】で対応してきた。

「皆メイプルのHPが低いことを突こうとすると思ったから、どこかで裏をかけるようにその一手は取っておいたけどもう戦うこともそうないだろうし」

「うんうん」

メイプルのHPが認識外で増えていれば計算もずれる。それを活かせるのは対人戦の場だが、それはもうあと一度あるかないかだ。

今なら装備を整えてHPを増やしても、気付いた時はそれが最後の戦いになるだろう。

「イズさんに目立たないやつを作ってもらおうか。思わぬところで【不屈の守護者】が発動しないようにHPを増やしちゃおう」

「じゃあ戻ろっか」

「うん。攻略は一旦【不屈の守護者】が回復してからで」

「はーい!」

状況が悪い時は無理せず慎重に。流石十層、一矢報いることができる力を持った手強いモンスターも少なくないのだと、ここは相手を立てておいて一度撤退となるのだった。

二人にしては珍しく強い敵に出会ったことで撤退してきた後、向かったのは頼れる生産職イズの所だ。

「イズさーん!」

「助けてください」

工房の扉を開くと待っていたイズが振り返る。

「今は五層エリア……だったかしら?何かあったようね」

二人が事情を話すとイズはすぐに自分に求められていることを理解した。

「HP特化の装備品ね。今度はHPコスト用じゃなく普段使いのもの」

「そういうことです」

「勿論用意できるわ。ユニークシリーズやレア装備と違って特別なスキルはないけれど、強化した後のステータスの伸びなら負けないもの」

「お願いできますか……?」

「ええ。早い方がいいものね。急いで取りかかるわ。余っている素材を見せてもらえるかしら?」

いい素材があればそれを材料に最高のものを用意すると言うイズ。二人もすぐさまインベントリの中身を見せ、これまでの冒険で手に入れてきた多種多様な素材からイズに選んでもらうことにした。

「流石あちこち冒険して強いモンスターを倒しているだけあるわね。これなら数日もらえれば用意できると思うわ」

「本当ですか!?」

「助かります」

「どんどん頼ってくれていいわよ。アイテムはともかく装備は皆必要としないことが多くて……腕が鳴るわ!」

「ユニークシリーズ使っている人多いですしね。そうでなくても既に最高品質なものを用意してもらっているので」

「大事にしてもらえているのは嬉しいわ。でも新しい装備も作りたくなるものなのよ」

「「ありがとうございます!」」

イズが快く引き受けてくれたことで、メイプルのHP問題にはさっそく解決の兆しが見えた。

とはいえ、装備ができるまでは五層エリアに行くのは止めておいた方が賢明だろう。

「数日は安全に観光して過ごすのがいいかも。他にも似たようなモンスターはいてもおかしくないし」

「そうだね。せっかくイズさんが作ってくれてるんだし!」

勿論【不屈の守護者】や早めの【暴虐】など取れる手はあるが、出来上がる前に倒されてしまいましたでは悔やんでも悔やみきれない。

メイプルとしてもここは無理はせず町でおとなしくイズの装備を待つことにしたのだった。