軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

防御特化と十層へ。

そうして待ちに待った週末。いよいよ十層へと続くダンジョン、そして十層が実装される日。メイプル達は順にギルドホームへと集まってきていた。

「いよいよだね!」

「まずはダンジョン攻略から、一発で勝ちたいところ」

「流石にまだ情報もないしな。でもまあやれると思ってるぞ」

「ああ、油断することなく戦えば問題ないだろう」

メイプル達は少し前に八人で強力なボスである王を撃破したところだ。【楓の木】で行う連携攻撃への自信は高まっている。

十層に至るまで、積み上げてきたスキルと上げてきたレベルは多彩な戦闘を可能にしていた。

カスミなら機動力を活かしたノックバック。サリーなら水と氷を使った妨害や足場の生成、クロムやカナデには移動速度低下がある。

麻痺が効くボスも随分珍しくなったが、メイプルも状態異常による支援が可能だ。

あとはイズが掛けたバフがあれば、ツキミとユキミの力を借りてマイとユイが懐に飛び込める。

メインアタッカーへのセットアップルートは多岐に渡る。最もリスクが低く成功しやすいものを選択し、こちらの強みを押し付けるのだ。

「揃ったし、僕らも早速ダンジョンまで移動する?」

「アイテムの準備もできているわ。いつでも大丈夫よ」

「ならハクに乗って行くとしよう」

「よーし、じゃあしゅっぱーつ!」

狙うはダンジョンの一発突破。上手く攻略が進めば残った時間でそのまま十層を軽く探索することもできるだろう。

準備が済んだのならすぐ出発するに限る。メイプル達はフィールドまで移動すると【超巨大化】したハクの背に乗ってダンジョンへと向かう。

道中は特にモンスターに邪魔されることもなく、八人は無事ダンジョンまで辿り着く。

今回のダンジョンの入り口は、水と自然、炎と荒地、両方の国のちょうど境にあるどちらの特色も持ったエリアに位置していた。

かつて神殿でもあったのだろうか。ボロボロになった石柱を水と氷、繁茂する植物が覆っている部分もあれば、既に古びた石材による舗装を溶岩と弾ける雷が抉っている部分もある。

そんなエリアの中央に青く輝く魔法陣が一つ。

今回のダンジョンは転移先に広がっている。ここからでは状況を窺い知ることはできない。

「飛んだ先がどうなっているかは分からないが……」

「【身捧ぐ慈愛】を使ってもらっておくってのもちょっと躊躇っちまうな」

頭によぎるのは以前王の放った、スキルやバフの打ち消し。王は別格である。しかし、ないと言い切れないのも事実だ。こちらが強くなった分、モンスターもそれに合わせて強くなっているのは間違いない。

情報がない以上、現状答えは得られない。

【身捧ぐ慈愛】の有無は戦闘において選択肢の数を大きく変える。雑に失うわけにはいかないスキルの一つだ。

「ここは温存してもらうか。転移して即危険なら俺が【守護者】で時間を稼ぐ。必要ならそこで使ってくれ」

「分かりました!」

「最悪の場合、僕も魔導書を使うよ。ほんの少しだけど防御用の強い魔法もストックできたからさ」

安全第一。防御寄りに思考を統一して、メイプル達は魔法陣へと足を踏み出した。

バシャンと音を立てて、メイプル達は着水する。転移先はメイプルの胸元あたりまで水に沈んだ白を基調とした古い建造物の中だった。

壁にはライトのようなものが設置されており、明るさは確保されているため、高い天井と広い通路幅を確認できる。

「マイ、ユイ、大丈夫?」

「はい……な、何とか」

「ユキミに乗れば大丈夫です!」

メイプルで胸元近くの水位であるため、それよりも背の低いマイとユイはテイムモンスターに乗らなければ顔が水面近い状態だ。

「げ、この水【AGI】低下付いてるな。30%ダウンだからかなりデカいぞ」

「私の【大海】みたいな感じですね」

体が触れている限り、移動速度の低下は免れない。スキルを使って水上を行くのも不可能ではないが、ダンジョンの作りを見るに無理やり回避し続けるより受け入れた方が進みやすいと思えた。

地に足をつけていれば【AGI】は落ちるものの、足元は安定している。どうしてもまずい場面はバフで相殺して乗り切ることに決めて、メイプル達は歩き出した。

「んー……何だかいかにも戦闘が起こりそうな感じだね?」

「ああ。そのための通路幅だろう」

「噂をすれば。早速来たわよ!」

通路の奥。水に沈まないように輝く魔法陣の上に乗って滑るように移動してくるのは一人の人。その手には大きな青い宝石のついた長杖を持っている。

頭上にはHPバー。ダンジョン最初のモンスターの出方を見つつ八人は武器を構える。

「一体だな」

「ああ、後続はいないようだが……」

前衛もおらず、後続もおらず。魔法使い一人というのが何とも不気味でメイプル達はじっとモンスターの動きを見つめる。

直後。

大きく広がる足元の魔法陣。

凪いだ水面が大きく膨れ上がり、竜巻のように激しく渦を巻くいくつもの水流が一気に襲いかかった。

「メイプル!」

「【身捧ぐ慈愛】!」

サリーは一瞬の防御では防ぎきれないことを即座に判断。メイプルが【身捧ぐ慈愛】を展開したのとほぼ同時に、抉るように凄まじい勢いの水流が着弾する。

「……!」

体が押し流される感覚。完全に水に沈み、上下すらもわからなくなってしまうような。

【身捧ぐ慈愛】はあくまでも範囲内を守るのみ。押し流されれば、その場に残された皆を守ることはできない。

焦るメイプルだったが、壁にぶつかりその場に止まれたことで何とか水面に顔を出す。

「……ハク!ありがとー!」

「よかった。何とか全員囲い込めたか」

「ナイスカスミ、助かった……ったく、十層に繋がるだけあって雑魚も容赦ねえな」

「どうしましょう?」

「メイプルさんがいないと私達は流石に……」

「でも本人があの状態だと難しいわね」

【超巨大化】したハクがとぐろを巻いて八人を囲い込んで激流から守ってはいるものの、滝壺にいるかのような轟音がハクの巨体の向こうから響く。【身捧ぐ慈愛】はハクにも当然適用されている。ハクはダメージを受けないが、激流に付与された陣形破壊のためのノックバック。これがメイプルをハクの体に押し付け続けていた。

「うーんずっとノックバックだね。僕らと一緒に前に出るのは難しそう」

誰かを庇うたび後方に飛んでいかれては防御が安定しない。

「いくつかやりようはありますが……相手は雑魚モンスター扱いっぽいですし、できるだけリソースは使わずに、安定した勝ち方を確立したいですね」

「ハクは私が守ってあげられるから……こういうのはどうかな?」

絶え間なく吹き飛ばされハクの体に打ち付けられながらメイプルが提案する。

「……確かに安定して勝てそうだね」

「よし、今回はそれでいってみるか」

「前方確認は私がするわね」

イズはインベントリから長い筒のようなアイテムを取り出すと、とぐろを巻いたハクの上までするすると伸ばす。これで伸ばした先端から前方を確認できるというわけだ。

「バッチリ見えるわ。すごいわね……水は止まる気配がないわ」

「なんでも持ってんな」

「なんでもはないわよ?作ったものだけ」

「怪しい動きがあれば教えてもらえると助かる。ハク!」

カスミがハクに指示を出すと地響きと共に巨体が動く。とぐろを巻いたままじりじりと、竜巻が前進するように、ゆっくりモンスターににじりよる。

「この距離なら行けるはずよ!」

「ハク!」

カスミがハクに再度指示を出す。ハクはその長い体を伸ばし【楓の木】の面々を守りながらも、放たれる水の合間を抜けて素早く魔法使いに襲いかかった。

バツン。閉じた口は魔法使いを胴を境に両断する。驚かされはしたものの、あくまで一人きりで出てきた後衛モンスターだ。距離さえ詰められれば倒し切るだけのダメージは出せる。

魔法使いが倒されるのと同時に、荒れ狂う激流は収まり、凪いだ水面が戻ってきた。

「幸い通路は広い。ハクにはこのままついてきてもらうとしよう」

「だな。次に来た時も同じ方法で対応できる」

「本当に助かりましたー……」

「流石カスミさんです!」

「でも中々嫌なモンスターだったね。【AGI】低下の水を張った上でノックバックの激流かあ。僕らはメイプルとカスミのおかげで何とかなったけど水に飲み込まれてたら大変だったよ」

「見た目は覚えたし、他のモンスターと同時に出てきた時は要注意だね」

「今度はやられる前に先制攻撃しちゃおう!」

「確かにそれもいいわね」

幸い耐久力は低いことが分かっている。メイプルの【機械神】による攻撃が決まれば有利に戦闘を進められるだろう。

「まだまだ入り口だからね。残量に気をつけながら奥を目指そう」

「はーい!」

まず最初のモンスターを返り討ちにして、メイプル達はさらにダンジョンの奥へと進んでいく。