軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

防御特化と夢のような旅路。

元の姿に戻った王は地面に着地すると豪快に笑った。

「はは、やるな!楽しかったぞ。これは礼だ、持っていけ」

王が指を鳴らすと大きな宝箱が一つその場に出現する。

「またやろう。互いに強くなった頃にな。そうだな、ちょうどお前達がこんな城をいくつか攻略したら……とするか」

王はそう言い残すと、満足したように最後にもう一度大きく笑って炎に包まれ姿を消した。

「おっと……まだ続きがある風だったな」

「隠しステージのまたさらに隠し要素といったところか」

「ヒントが少ないから探すのは大変そうだね。僕の読んできた本にもそれらしいものはなかった気がする」

「なら今の言葉が全てってことになるかな」

「心当たりがありそうね?」

隠しエリアかつ城とくれば思い出すのは以前メイプルと攻略した浮遊城だ。

「そういえば……あそこのボスもドラゴンだったね!」

「なんだか関係がありそうな気がします!」

「いくつかということは……他の層にもあるんでしょうか?」

「それは探してみるしかないだろうな。ここが見つかったのも偶然だ。そう簡単には見つからないだろうが……ヒントがある分だけいいだろう」

探索のついでに気を配っておけば見つけられる可能性も高まる。

長い時間をかけて達成を目指す【楓の木】としての新たな目標の一つというわけだ。

「っと、それはそれとして開けてみようぜ。よしここは我らがギルドマスター、よろしく頼む」

「メイプルは運もいいしね。中身がランダムなら僕達が開けるよりもいいものがでそうな予感」

「そ、そうかなあ?」

隠しエリア最奥での全力の激戦。かなりの強敵だった王が残した宝箱となると期待も高まる。

八人での攻略。【楓の木】の代表として、メイプルが宝箱を開けることに異論はなかった。

「い、いくよ?あんまり期待しすぎないでね?」

メイプルは宝箱の蓋に手をかけてゆっくりと開く。

「おお!」

「なかなか詰まっているわね」

まず目についたのはぎっしりと詰まった金銀財宝。換金可能なアイテムの山。もちろんありがたいが、せっかくの隠しエリアだ。もっと何かないかと財宝の山を退けて、その奥の素材や消費アイテムを掘り返して、底に残ったのは二つの巻物と一つの腕輪だった。

「流石に全員分はないようだな」

「巻物ということは……」

「こっちはスキルですね!」

「皆で読んでみよっか」

メイプルは巻物を手に取ると、習得できるスキルが何なのかを確認する。

巻物に記録されたスキルはどちらも同じものだった。

【竜炎の嵐】

消費MP50

空中に炎の槍を生成し、一定時間辺りを攻撃する。

「散々やられたアレか」

「効果はシンプルね。誰が使っても強そうだけれど……」

王の攻撃を再現できるなら、どんな相手にも相当なプレッシャーを与えられるだろう。

しかし。

「MP50だと私とお姉ちゃんは今は使えません」

「ですから、皆さんで」

「私も足りない……あ、でも装備のスロットにセットすれば何とか使えるよ!」

「あとは俺とカスミ、カナデにイズ、サリーの五人だな」

スキルと魔法が重要なこのゲーム。最低限のMPは確保してあるのが普通だ。

消費MP50なら使えないことはない。

「僕はパスかな。皆と戦っただけでも満足したし、範囲攻撃には困らないからね」

そう言ってカナデは背後に浮かべた本棚をコンコンと叩く。その言葉に嘘がないことはこれまでのカナデの活躍を思い出せば明らかだ。

「私もいいわ。元々戦うことをメインにしていないもの。戦闘中はあくまでサポートなんだから」

「ダメージ出せるのは知ってるけどな……まあ、言いたいことは分かる」

マイとユイ、カナデとイズが降りて、残りは四人となった。

「ねえねえサリー。一つ思ったことがあるんだけど……」

「……当ててあげよっか?」

「え?分かるの?」

「カスミとクロムさんに譲ろうってことでしょ?」

サリーがそう言うと、メイプルは何で分かったのかと目を丸くする。

「メイプルならそう言いそうだなって。あと私も同じこと考えてたから。ここを見つけてくれたのも二人だしね」

「……マジでいいのか?」

「貰えるなら、それはありがたいが」

貴重なアイテムであることは間違いない。それでもメイプルとサリーは構わないといった風だ。

「ふふ、その分活躍期待してますよ?」

「期待してます!」

それならばと。クロムとカスミは巻物を開く。それは二人に新たな力を与え、【楓の木】に強力な範囲攻撃が二つ追加された。

クロムは接近された時の強烈な迎撃として、カスミは機動力を活かし敵陣に飛び込んでの強力な攻撃手段として。【竜炎の嵐】の使い所に困ることはないだろう。

「んじゃあこれはありがたくもらったとして、そっちの腕輪は何だ?」

クロムは腕輪を手に取ってどんなものかを確認してみる。

『竜の残火』

MP+30

【竜炎槍】

炎の槍を二本まで生成することができる。槍は一定時間経過で消滅する。

「おお、スキル付きだ」

「レアアイテムかもしれないな。装飾品で攻め手を増やせるものはそう多くないだろう」

「そうね。感覚が麻痺するところだったわ」

「僕らの周りには不思議といくつかあるからね」

宙に浮かぶ計十二本の白い手と、兵器に変形する黒いキューブが後ろでふわふわと揺れているが、それはそれ。

貴重なものには変わりない。

「ユニークシリーズってわけでもないですし、試してみたらどうですか?」

「空中に出るのかな?」

「どんな効果なのか……」

「見てみたいです!」

「おし、ちょっと待ってろ」

クロムは装飾品を外すと『竜の残火』を装備し、早速スキルを使ってみる。

「うおっ!?」

スキルを発動してすぐに変化は訪れた。短刀を持つ手から赤い炎が迸り、炎は槍の形となってそのままそこに留まったのである。

もう一度スキルを使用すると、大盾を持った方の手からも炎が伸びて、同じように槍を形取った。

「持ち直したりはできるが……うーん、ちょっと俺には向いてないかもな」

「射程延長といったところかしら?」

「ベルベットのような武器を手に持たないタイプや、魔法使いなどは緊急時の接近戦用として重宝するかもしれないが……」

既に両手に武器を持っていると、そこにさらに槍まで持たされても上手く使うのは難しい。

「私達はもう装飾品はいっぱいなので……」

「それに二本だったら数も増えませんし」

手に追加で槍二本よりも、空中を自在に振り回せる大槌二本の方が、貴重な装備枠の使い先としては適している。

「本来そんなことはそうないんだが……二人の場合はそうなるなあ」

「私は譲ろう。既にスキルを貰っているからな」

「僕はパスで。流石に使いこなす自信がないかな」

「私もよ。フェイもいてくれるしここまできたらもうアイテムで戦うスタイルの方がいいわね」

そうなると、候補となるのはもう一人しかいない。

「じゃあサリー!」

「いいの?」

サリーがメイプルにそう聞き返すとメイプル含め全員がそれでいいと頷く。

「まあどう考えても一番上手く使えるだろ」

「既に他の武器も使いこなせるのは証明済みだしね」

「そういうことなら遠慮なく貰っておきます。これを使って次の探索ではもっと活躍してみせますね」

サリーは装備を変更すると短剣を鞘に納め、腕輪のスキルを起動して二本の炎槍をその手に生成する。

「扱いとしては武器をしまっている状態なんだ……なるほど……」

リーチを確認し、炎でできているものの攻撃はしっかりと防げることを確認し、新たな武器で二槍流として戦う為に最低限必要なことを把握していく。幸い炎でできている以外は妙な部分はないようで、サリーが使いこなすまでそう時間はかからないだろう。

「十層もそろそろ実装されそうだし、それまでに隠しエリアの城探しでもしておくか」

「今のところ城があったなんて話は浮遊城くらいかしら?」

「僕は聞いたことないなあ」

「時間がかかってもいいだろう。この隠しエリア自体は逃げたりしないからな」

「時間……」

それを聞いてメイプルが珍しく悩むような迷うような様子を見せる。

「そろそろ勉強にも集中しなさいよーって言われちゃって……十層とイベントは遊べそうなんですけど、その後は今みたいにログインできないかもしれなくて」

メイプルがそう言うと全員が今がそういった時期であることに思い至る。

「ああ、確かにそんな時期か。そりゃ仕方ない。ゲームも大事だがリアルも大事だ」

「そうね。どっちも大事だわ」

「じゃあ次の十層は僕ら皆で協力して最終目標の達成を目指そうか。ほら、強力なボスがいるみたいだし」

「いいですね!」

「頑張ります……!」

「となると狙うは素早い攻略だな。それならば結果的にメイプルも最後まで遊べるだろう」

広大なエリアの探索。八人では難しい部分もあるだろうが、節目となる十層の目標としてはちょうどいい。

道中の苦労は目標達成後の達成感を何倍にも大きくしてくれるからだ。

「そういえばメイプルがそうならサリーもか?」

「そうですね。残念ですけど……」

サリーは言葉通りの表情を浮かべる。

【楓の木】は全員強力なプレイヤーだが、ギルドを作った二人でもあるメイプルとサリーはやはり中心となる存在だ。

いるのといないのとでは日々の探索も、イベントでの戦闘も大きく変わってくるだろう。

「サリーもメイプルと同じ頃までは大丈夫なの?」

「うん」

であれば。八人の目標は固まった。素早い探索と強力な敵の撃破。そして、最奥に控える最強のボスを倒すことだ。

「じゃあ、皆よろしくね!」

メイプルの声かけに全員が任せておけと応じる。中途半端に終わらないよう、最後まで全力で楽しむのだ。

「…………」

分かっていた。

気づいていた。

それでも見ないようにしていたのだ。

ずっとずっと。いつか来るこの日を。

サリーはほんの一瞬目を閉じる。

ここまでの幸せな旅路が、夢のような時間が、鮮明に浮かび上がるのは、それだけ全てが楽しかったから。

このまま時間が止まればいいのにね。

サリーは無理な願いを思い浮かべて、ほんの少し寂しそうに笑った。

「……メイプル、なら全力でボス倒しに行こう!」

「うん!頼りにしてるよサリー!」

「ふふ、任せて!」

どんな旅にも終わりがあるなら。

どうしようもないのなら。

メイプルが最後まで一番楽しんでくれるように。

サリーは今度はメイプルに自信あり気な笑顔を向けたのだった。