作品タイトル不明
防御特化とイベント後。
激戦に次ぐ激戦を制したメイプル達。イベントが終わって一週間、『New World Online』には再びのんびりとした時間がやってきていた。
ある者は九層のクエストや探索の続きを、ある者は一休みだと観光に近い探索を。
そして、またある者は今回のイベントであればよかったと思えたスキルを探しに奔走する。
こうして、それぞれの日常が戻ってくる。
そんな中、【楓の木】にはイズから真っ白なお皿の山を受け取ってせっせとテーブルに並べるメイプルの姿があった。
「打ち上げ打ち上げー!」
「ちょっと経っちゃったけどね」
「まあ……それも仕方ないんじゃないかしら?」
イベントが終わってすぐとはいかなかったのには理由がある。
【楓の木】のメンバーが続々とやってくる中、遅れた理由の内一つ。ギルドホームの扉を開けて、ベルベットがひょこっと顔を出した。
「きたっすよー!」
「お邪魔します」
「あ!早かったね!」
「んん?一番乗りみたいっすね!」
「うん!皆もすぐ来るから待ってて!」
二人を並んだ椅子に案内して、メイプルは招待した残りのプレイヤー達を待つ。
イベントが終わってすぐに打ち上げとはいかなかった理由。それは【thunder storm】に【ラピッドファイア】、【炎帝ノ国】に【集う聖剣】と、単純に二十人のプレイヤーの予定を合わせる必要があったからだった。
一週間で予定が合ったのはむしろ運が良く、かなり早いほうだと言える。
そうしているうちに、【楓の木】の扉がまた開き【ラピッドファイア】の二人が入ってきた。
「やあ、招待どうもありがとう」
「イベントは激戦になりましたね。お疲れ様でした」
「空いている席に座って待っていてくださーい!」
「そうさせてもらうとするよ」
席についたリリィとウィルバートに早速ベルベットが近づいていって話し始める。
決着時にはそれぞれ別の王城にいた二人だ。最終盤のあれこれについて、話題には事欠かないだろう。
と、そこに【集う聖剣】と【炎帝ノ国】の八人もやってきた。同盟を組んでいた【集う聖剣】はできることなら全員招待したいくらいだったが、【楓の木】のギルドホームではキャパオーバーだ。よって今回もメイプルがフレンド登録している面々を呼ぶこととなった。
「メイプル、お陰でイベントを勝ち切ることができた。同盟を組むことができてよかったよ」
「次は負けはしない。どのような形式のイベントであってもだ」
「私達も頑張ります!」
ギルドマスターとしてペインとミィと軽く挨拶を済ませて、全員が席についた所でイズが料理を並べ、それぞれが感想を交わしつつ、イベントを振り返って盛り上がる。
「にしても……すげえ面子だな」
「ああ。納得といえば納得だが……」
クロムとカスミは集まったプレイヤーを見て呟く。この場にいるのはイベントでも中心となったギルドのマスターを中心に、各ギルドの核となるプレイヤーばかりである。
メイプルを倒そうとするだけの者となると、自然と強力なプレイヤーばかりになる。戦場でやりとりをしたプレイヤーと交友関係を築いていった結果、メイプルのフレンド欄はとんでもないことになっていたのだ。
「うちのミィとベルベットのパワーで押し切れると思ったんだけどなあ」
「はは、ペインも負けてなかっただろ?」
自分のことのように得意気なドラグに、どうしようもなかったという風にシンは軽く首を振る。
「流石に【崩剣】じゃ対応できなかったなあ」
「【多重全転移】からの攻撃は本当に危なかったですね。私の【リザレクト】が間に合っていなかったらそれだけで……」
「ふつーに巻き添えで吹き飛んだからなあ。暴力的だった……」
シンは思い出して深く頷く。全てのバフを集約したペインは【崩剣】の直撃も意に介さず聖剣を振るった。
ミィの炎とベルベットの雷にも劣らない聖剣の光は【炎帝ノ国】が想定していた以上のものだった。ただ、それも仕方のないことだろう。あの【多重全転移】は今回限りの特別仕様。全員を味方とみなした異次元の強化。使い手であるフレデリカすらも初めて見る威力と範囲だったのだから。
「どこかで一回上手く勝てれば違ったっすけどねー……悔しいっす!」
「そうだね。惜しい勝負だったと言える。私があと数分耐えられていれば」
「十分過ぎるくらいでしたよリリィ」
「ベルベットさんもいい攻めだったと思います」
昼間の大規模集団戦。
真夜中の奇襲から続く戦闘、最終盤での城攻め。
どれか一つの結果が変われば勝敗すら変わりうる重要な戦いばかりだった。
紙一重のところで上回り有利を築き上げたメイプル達が僅かな差で逃げ切った。そんな勝利だった。
そんな話をしていると、ベルベットは思い出したという風にぱっと顔を上げ、サリーの方を見る。
「そうっす!サリーに聞きたいことがあるっすよ!」
「私に?」
「イベントでのアレ!どういう仕組みっすか?」
ベルベットのいうアレとはもちろんサリーの戦法のことだ。スキルを途中でキャンセルし、見えない攻撃を放ち、魔法のエフェクトも違えば武器そのものすら変わる。はっきり言って滅茶苦茶である。
「俺もそれにやられたからなあ。本当にカスミのスキルを持っている……なんてことないだろ?」
シンを正面から斬り伏せ、ヒナタとウィルバートを倒すだけの優位を作ったサリーの戦いは、実際に体感して、観戦エリアから余裕を持って眺めて、それでもなお謎に包まれているのだ。
「勿論、秘密です」
「じゃあ実践の中で探り当てるっす!」
「ちょっとー、私が先約なんだけどー?」
「ウィルもどうだ?探っておいてくれると助かるね」
「検討の価値アリですね」
サリーを追い込まなければ、そもそも虚実織り交ぜた戦法は使いはしないだろう。
ベルベット、フレデリカ、ウィルバート。相性だけを見れば圧倒的にサリーが不利なスキル構成だが、それを捌き切るのがサリーなのだ。
「サリーさん……」
「だ、大人気です……!」
「あはは、そろそろ決闘と予約制かな?」
「何だか本当に果たし状を送っているみたいよね」
「ああ、それが近いかもしれないな」
「俺なら戦場で敵にしたくはない」
観戦エリアで見ていた時にも思ったように、今やサリーの警戒度はメイプルにも負けていない。
むしろメイプルが目立ち過ぎて隠れていただけで、ここにきての対人戦でその脅威は一気に顕在化したのだ。
【楓の木】は全員が要警戒。その中でもメイプルは。これが共通認識だったが、サリーも抜け出たと言える。こと対人戦において、メイプルとは違い全く隙がないことも、サリーの警戒度上昇に拍車をかけていた。
「【集う聖剣】としてもより高みを目指さなければならないな。追い上げてくる一筋縄ではいかないギルドも増えてきた」
「ああ、仕方ねー。チェックしておかねーとな」
「【炎帝ノ国】もそうだ。うかうかしてはいられない」
「そうだね。想定通りに抑え込めなかったし……他のギルドのことも調査しないと……」
今回のイベントはペインとミィにとってもギルドマスターとして得るものが多いものだった。自分達の現在の立ち位置が第四回イベントと比べてどう変化したか、実際に戦って初めて見えてくる部分も多かった。
【楓の木】は勿論のこと、【thunder storm】に【ラピッドファイア】。他にも追い上げてきたギルドは多い。それでもそう簡単に負けてやるわけにはいかないのだ。
ただ、それもまた次のイベントでの話。情報収集も大事だが、今は何より楽しむことが目的だ。
盛り上がる感想戦。あそこでああしていれば、あそこは上手くやれた。あのスキルの効果は何だったのか。
一日と少し。それでも、あまりにも濃いイベントだったこともあり、話題には事欠かなかった。
フィールド上の戦場全てに顔を出すことはできない。特にあちこちで起こった少数戦の話はそれぞれが知らないことも多く、興味深いものになったようだった。
ギルドの垣根を越えてそれぞれが盛り上がる中、サリーはメイプルに話しかける。
「どうだった?久しぶりの対人戦だったけど」
「皆強くって大変だったー……でも、サリーと【楓の木】の皆が助けてくれてよかった!」
メイプルの表情と言葉からは難しい局面もあったものの、それをそのまま楽しめたことが真っ直ぐに伝わってくる。
「勝てたのはメイプルのお陰でもあるね。【再誕の闇】での押し込みとか」
「皆がやれーって言ってくれたから気づけたんだー」
「期待に応えられたね」
「うん!」
勝利。ただそれだけでなく。そこに至るまでの多くのやり取り自体も記憶に残るものだった。
全体を通して楽しいイベントになったと笑うメイプルに対してサリーもまた微笑んで返すのだった。