軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

防御特化と夜を前に。

観戦エリア。大規模な戦闘が終わり、ここまで見ればまあ十分だと元のフィールドに戻る者、今の先頭で得た情報をまとめる者。それぞれがそれぞれの動きをしつつ、だが全体として山場を越えたような落ち着きと弛緩した空気が流れていた。

「いやー、ミザリー生き残らせられなかったかあ……」

「すみません。ベルのスキルももう少し上手く使ってあげられればよかったんですけど」

「仕方ない。あれは相手が強かったなぁ」

「中々上手く攻め立ててたな。ミザリーの全体無敵をほぼ無力化できたのは運が良かった部分がでけーけど」

「くぅー、俺も残ってたかったぜ!」

「ってかさ。サリーやっぱ何か変なことやってるよな?メイプルのスキル使ってたし、何ならペインとカスミのも使ってるぞ」

同じ陣営なんだから何か知ってるんじゃないかと、シンはドラグとドレッドの方を見る。

「さあな。フレデリカからも何も聞いてねーし。その辺り詳しく共有はしてねーんだ」

「ちなみにマジだぜ」

どうやら嘘は言っていないようで、シンもそれなら聞いても仕方ないと自分で振り返って考察する。ミザリーもそれがデスの原因になっているため興味があるようだ。

「装備は変わっていないように見えますし、本当に使っているのか……それとも何かのスキルでしょうか?」

「聖剣系のスキルだろ?んー、ペインのスキル一つ使えたなら全部使えるんだろうけどなぁ、でもそんなことあるか?」

「流石にちょっと考えにくいと思ってしまいますね……願望も込みの話になりますが」

聖剣と名のつくスキルが一つだけ独立しているなどということはない。なんなら、二人はあれがユニークシリーズである可能性すらあると思っているくらいだ。他にもメイプルしか使っていない【機械神】やカスミしか使っていない【始マリノ太刀・虚】など使っているスキルが希少過ぎるため、何かカラクリがありそうだと感じるのは当然だ。

「ただ、本当に使えるとなったらいよいよ手がつけられないかあ……」

元々プレイヤースキルはトッププレイヤーの中でも頭一つ抜けているのがサリーだ。仮にスキルが何もなくともサリーは怪物である。だからこそ一つ強力なスキルを手に入れる度、脅威度は跳ね上がっていく。

「シンはこのあとはどうしますか?」

「俺は見ていくぞ!やっぱ、気になるだろ!ドラグとドレッドもどうだ?」

「いいぜ!どうせ外に出てもそこまで経験値稼ぎができるわけでもねえ。見てた方が価値があるってもんだろ!」

時間加速空間から出ても、現実世界では少ししてイベントが終わり全員が出てくるだけである。疲れたというわけでないなら、中で見ていた方が情報の分だけ得である。

「ま、外から落ち着いて見ている方が分かることってのはあるからな」

ドレッドとドラグも残って続きを見ると決める。

「次の戦闘は夜だろうなぁ」

「きっとスピードタイプのアサシンが生き生きしてるぜ。ぐぅ、ドレッドがいりゃあなあ」

「そこは見越してちゃんと捕まえた【thunder storm】の作戦勝ちか」

「いや……それに関して言うと、あいつはそこまでは考えてなさそうな感じだったがな。ヒナタの方はは別かもしれないが」

「……それは、まあ否定はできない」

【炎帝ノ国】を含めた作戦会議中の様子を振り返りながらシンが苦笑いを浮かべる。

「最後にペインが上手く勝ってくれれば俺は言うことはねーよ」

「ミィにも頑張ってほしいですね」

「飲み物と、なんか食べ物出すよ。ほら、ずっとただ見てるってのもな!」

「おお!いいねえ!俺もなんか持ってたっけな……」

「フレデリカなら色々詰め込んでそーだが」

「ではテーブルのある席に移りましょうか」

「おう、そうしよう!」

四人は変わらずモニターが見えて、テーブルのある席へと移動する。できるだけ情報を集めるのも、味方を応援するのも他のプレイヤー達と同じなのだ。次の脱落者が自分の陣営の主力でないといい。そう思いながら、四人は移動した先で話しながらモニターを眺めるのだった。

王城に戻ってきたメイプル達は、改めて生存者を確認する。

死亡して観戦フィールドに転移した味方は表示が変わるため一目でわかるのだ。

「うん。皆生きてるみたいだね」

「よかったー!一緒にいないとどうなってるか分からなくて不安だよね」

「あとは何もなければそのうち戻ってくるんじゃないかな」

そうしてしばらく待っているとそれぞれ別方向から六人が順に帰ってきた。

時間としてはそれほど経っている訳ではないものの、集まったのが久しぶりに感じるのは、それだけ戦闘が緊迫したものだったということなのだろう。

「おー、よかった。マイユイ、無事だったか!」

「はい!」

「皆さんが全力で守ってくれて……」

「その分活躍したのなら誇るといいさ。皆もそのつもりで守ったのだろうからな」

「僕とイズは削りあって終わりって感じだったかな?」

「そうね。デバフは気づかれると解除されちゃうのが辛いところねー」

敵のバフを解除する方法はそう多くないが、味方のデバフを解除する方法は光魔法を中心にそれなりに存在するのである。

カナデとイズが味方を安定させるような立ち回りをしたこともあって、相手を倒すというより進撃を食い止めるような戦闘となったのだ。

「俺のとこはカスミがぴょんぴょんワープして好き放題してたが、死人はそこまで多くないな。結構押され気味だったってのもあって、数の差がちょっと響いた」

「【心眼】の効果が終われば無茶もしにくい。もう少し大胆に攻められればよかったのだが……」

いやいや十分大胆だったと笑うクロムに。話を聞く分には確かにそうだと他の面々も賛同する。四人の向かった戦場は壊滅的被害を避けることができたようで、死ぬはずだったプレイヤーが生き残ったのは大きい。

「マイとユイのところは?」

「さっきの話からして、前線にでたみたいだけど」

「はい!」

「私達は……」

マイとユイは自分達の戦場で起こったことをメイプル達に話した。端的に戦果だけを述べるなら敵部隊を殲滅したと、そうなるわけである。

「な、なるほど。流石というべきか」

「鉄球もやべーけど、本領発揮ってかんじだな……」

「いやそもそも鉄球が武器になるのがおかしいんだよね、うん」

「全部大槌でやっちゃったなら鉄球の補充は大丈夫そうね」

今回のイベントでは後方支援でも十分。持っているのが近接武器であることを鑑みればこれもおかしな話ではあるものの、鉄球を投げるのがメインだった二人が、いざ敵を殴りつければこうなるのも当然だった。

「すごーい!大活躍だね!」

「うん。それに、臆さず攻撃できるってそれだけでもすごいんだよ」

「ほ、本当に一緒に戦ってくれた方々のお陰です……」

「すごく背中を押してくれたんです!」

互いに求めるプレイヤーに出会えたということなのだろう。二人も何とか上手くやれたことで安心したようで、少し疲れが出たようだった。

「とりあえず休もう。念のために城近くの方がいいかも」

「ああ、確かに。敵も目的地は玉座だもんな。城のほうにいれば何があっても最後に防衛には参加できる」

反対意見もないようで、【楓の木】は王城へと向かうことにする。

「減ったアイテムは補充しておいた方がいいかもしれないわね。町の機能は残っているもの。もし、私の作ったアイテムで必要なものがあったら言ってね」

「あー、救援に行ったときに【ドーピングシード】は使ったな。あとポーション類を多少」

「いざという時になかったなんてことにならないようにしておかないとね」

「武器の耐久値はどうかな?僕は関係ないし、そもそも気にしなくてもいい人がほとんどみたいだけど」

「それなら……」

「私達は一応修理しておいて貰いたいですっ!」

「もちろんよ」

マイとユイの武器はイズが作ったものであるため、使い過ぎれば耐久値も減少する。イズによって隅から隅までカスタマイズされた計十六本の大槌は、その全てが店売りのものとは比べ物にならない性能だ。当然再度同じものを作るにはかなりの手間がかかるため、まかり間違っても壊すようなことがあってはならない。

今後の予定を固めつつ。一時休戦、コンディションを整えることにした【楓の木】は和やかな雰囲気で話しながら、ここまでの戦闘のフィードバックだったり、この後の予定だったり、それぞれ気になっていることを共有する。

いつまたバラバラに戦場へ出るか分からないため、共有し忘れるようなことがないように、いつもより気持ち念入りに。

「メイプルが心配するし。んー、ちゃんと休むかあ」

サリーは歩きながら体をほぐすように一つ伸びをする。

「そうだよー。それにお城の中には料理を作ってもらえるところもあるし、休憩もしやすいよ!」

「メイプルもう使ったことあるんだ?」

「まだインベントリの中に入ってるんだけど、すっごいおっきいお肉もらったよ!」

「……それ、料理なの?」

例としてあげられたものを聞いて、中々ワイルドだとサリーは目を丸くする。その後でこの国の王の姿を思い浮かべて、ある意味その方が自然かもしれないと納得したのだが。

「他にもあると思う!」

「じゃあ、イズさんの料理に勝てるものがあるか期待しておこうかな」

「えー?うーん、あるかなあ……」

流石にそれはどうだろうと、メイプルは何があったか振り返りつつ。そうして八人は王城へと歩いていく。

その後ろ姿を見送って、フレデリカは【集う聖剣】に必要な指示を出し終えたペインに話しかける。

「ドラグとドレッドがいなくなっちゃったし、一部作戦は練り直しだねー」

「ああ。しかし、原因となったあのスキル……」

二人が倒されたのはヒナタが使ったスキルによって強制的に隔離されたせいである。

「おそらくヒナタの方が中に取り込む相手を選んでいるのだろう」

「うん。それだよねー。正直私が選ばれててもキツかったと思うし、やだなー」

その場にいるプレイヤー、いくつもある組み合わせの中から最も勝ちやすい相手を自由に選べるというのは脅威だ。

たとえば楓の木のイズ、マイ、ユイなどは中に取り込まれれば相当苦しい勝負となるだろう。しかし、といっても現状あのスキルをこちらから拒否する方法もない。

「まずは近づかないようにする他ない」

「ベルベットもヒナタもスキル派手だしー。早めに見つけて、ちゃんと下がって対処するしかないかー」

試せていないことも多いため、何かあのスキルの効果をなくす方法があるかもしれないが、試す機会などそうはないだろう。

「夜の間はどうするー?メインで動く予定のドレッドはいなくなっちゃったし」

「【楓の木】に相談しつつ判断しようと思う」

「あー、サリーとか出ていきそうだもんねー」

暗闇に紛れることで、戦いやすくなるプレイヤーもいる。起こる戦闘の雰囲気は変化するだろうが、夜もまたフィールドにプレイヤーは一定数いる。敵にだけ好き勝手されないようこちらも出向く必要があると言えた。

「あ、そーだ。ドレッドから『手紙』戻ってきてたんだけどー、ペインどう?」

「内容だけ確認しよう。それ自体はそうだな……サリーに回すのがいいと思うがどうだろうか?」

「サリーなら上手く使えるだろうねー。うん、りょーかい!」

「よろしく頼む」

ペインはサリーに渡す前にその手紙とやらの内容を確認して、なるほどと一つ頷く。書かれていたのはペインにとっても有益な情報だったようだ。

「やはり皆切り札を持っているということか」

「そうだねー。情報は結構集めたけど、本当に強いスキルほど戦ってみないと分からないことが多いかなー」

誰しも切り札を切るのは、それ相応に厳しい戦いになった時だ。だからこそ平常時に見ることが難しいのも当然であると言える。フレデリカもそうポンポン【超多重魔法】など使わない。つまりはそういうことだ。

「対応力は高めてきた……上手く勝ちきれるといいが」

「あははー、二人倒されたからって弱気にならないでよー?皆ペインに一番期待してるんだからねー?」

【集う聖剣】のギルドメンバーだけでなく、その他多くのギルドが頼りにしているのは間違いない。第一回イベントから強者であり続けているのだから、困ったときになんとかしてくれるのではないかと期待してしまうのも仕方のないことだろう。

「ああ、分かっている。期待に応えて勝利に導いてみせるさ」

「うんうん、その調子でお願い。じゃあ、私は【楓の木】の方に行ってくるねー」

「何かあればメッセージを送る」

「こっちもそうするー」

やりとりを済ませてフレデリカは王城の方へと歩いていく。

「さて、どうしたものか」

ドラグがいなくなり、敵の接近や攻撃を拒否するスキルは随分減った。ドレッドがいなくなったことで複数人を攻撃から守る重要なスキルも失った。多くのプレイヤーを動かしての戦闘のリスクはより高まってたと言える。

「搦手がそう得意ではないのは俺の弱点だな」

ないものねだりをしていても仕方ない。かわりとなるものを何とか用意するか、なくとも戦えるように作戦を再構築するか。ペインは勝利のためにしばらく今後のことを考えるのだった。

探り合いから始まった前半戦。次第に激化する戦闘と、前回対人戦からの成長を各個人が証明してきた。そうしてやってきた正面切っての一大決戦は両者痛み分けといった形で決着した。

犠牲も増える中、それでもまだ戦いは終わらない。乱戦となった今回の戦いは、どちらにとっても相当ハードなものだったのは間違いない。少しでも休息し、心身ともに万全の状態を整える必要があるだろう。

そうして、イベント内で初めての夜が来る。暗躍するもの、あえて正面から行くもの。それぞれが事前に作戦を考えてきている。それだけこの夜が重要な時間帯だと思われているということなのだ。先に大きな動きを見せるのはどちらの陣営となるか。そのスタイルは様々に、されど全員が勝利を目指している事だけは変わらない。

イベントフィールドを闇が包み込み、昼とはまた違う緊張感がマップ全体に漂う。こうして、闇夜の中での攻防、その火蓋が切られることとなるのだった。