軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

防御特化と再戦直前。

今回は時間加速下でのイベントとなっているため、脱落したプレイヤーは用意された脱落者専用の観戦フィールドにて観戦が可能になっている。

ここでは飽きたり満足したりすれば、いつでも退出して加速下にない通常のフィールドに戻ることを選べる。

大型モニターには戦場のあちこちが映し出されており、発生した戦闘はどれも余さず見ることができ、これは貴重な情報収集の機会でもある。自分を倒したプレイヤーのスキルがどんなものだったか確認することができれば、次回の対人戦に活かせるだろう。

ただ、もちろんそういった理由はあるものの。ここではそんなことよりも、終わってすぐ今回の感想を共有したかったプレイヤー達によってがやがやと賑わっていた。

そんな中、一気に多くのプレイヤーがこのエリアへと転移してくる。それはそれだけあちこちで激しい戦闘が起こっているということの証明だ。

「おおー!流石に結構両軍死んだなあ」

「モンスターに合わせて攻められると困るからな。止めに行ってデカイ戦闘になった」

「見てたぞ。流石に主戦場はすごいことになってたな!いや……それでいうと今もなってるんだが」

イベントフィールド中央。この男が言うところの主戦場は大きなモニターに今も映し出されており、そこでは画面を埋め尽くすように黒い化物が地面から次々に湧き出してきている。それも対価として何かを生贄に捧げることで。

「わあ……祭壇」

「あれが人の所業か?」

「違うんじゃない?」

「俺あれに喰われたんだよなあ」

「ああー、化物強そうだもんな」

「いや、祭壇に捧げられた側なんだけど……」

「ええ……?」

味方を犠牲にする。そんなスキルに使い所はあるのかと疑問に思いつつ、今目の前で猛威を振るう様子を見るとやはりアレはちゃんと強いのだろうと思い直す。

「メイプルなら召喚系スキルもいくつか持ってるしな最悪それを喰わせればいつでも使えるんだろうが」

「九層には今回のイベント向きのスキルがいくつかあったみたいだし、あれもイベントで強く使えるスキルの一つだったんじゃないかなあ」

「ここで見てたから分かったけど、メイプルとサリー同じスキル持ってたな。水溢れさせて転移するやつ」

「それかあ……ミィの炎が後ろから来て決まったと思って油断して斬り返されて死んだんだよな。はー、しくじった……」

「こそっとメイプル羽増えてたしな。ペインは魔法使い並みに光飛ばして攻撃してるし」

「やっぱ広範囲攻撃あるといいよなあ。イベント終わったら探すかあ」

武器が剣や槍でも、より遠くに攻撃できる手段を持っていればこういう場面で輝ける。

「あとは味方勝ってくれー!頼む、メダルが欲しい!」

負けた側もメダルは貰えるが、勝った方がもらえる量は多くなる。どちらの陣営も勝ちを願いながら、戦いの続くイベントフィールドを見守るのだった。

時間の経過と共にモンスターの敵陣侵攻も終わり、凶暴化していたモンスター達は消滅して元の場所で再出現し、フィールドには元通りの平穏が帰ってきた。

いや、これには少し語弊がある。メイプル達の周りには消滅する前にと放り込めるだけ闇の中に放り込まれたモンスターの成れの果て、化物の群がメイプルの指示を待ってうろうろと歩き回っていた。

「よしっ、これはもう大丈夫!」

メイプルは広げていた【再誕の闇】を消滅させる。中に入れるものがなければ、展開していても味方にとって邪魔になるだけなのだ。

【再誕の闇】を解除したのを合図にして全員が敵陣王城に向けて進み出す。

その先頭を行くのは全員の反復作業で作り上げた化物達だ。死んでも構わない強力なこの兵は、使い捨てにしても問題ない。その巨体は壁になって、身をもって飛んでくる魔法を防いでくれるだろう。

「メイプルー!乗って!」

「うん!」

ハクの頭の上からサリーが声をかける。メイプルが進軍についていくには移動手段が必要だ。

「このまま勝負を決めるつもりで行くよ」

「うんっ!そのために皆で準備したもんね!」

眼下を駆け回る化物の活躍を期待しつつ、メイプルは敵陣へ向かっていく。

「また凍らされちゃうかな?」

「流石にクールタイムは相当長いと思う。私達も準備に結構時間かかったから、使えるようになってないとは言い切れないけど」

全員の動きを止められる規格外の効果範囲。あれなら一日に一度しか使えないレベルの大技だとしても何ら不思議でない。

「相手の策を上回ったとはいえ、撤退させることができたのはメイプルの得体のしれなさによるところが大きいだろう」

「戦えなくなるほどリソース吐いたわけじゃなさそうだもんな。気をつけないと足元掬われるぞ」

王城前ともなるといよいよ撤退は選択肢になく、何としても侵攻を食い止めにくるのは間違いない。敵の統率が乱れたのと同じように、その可能性はこちらにも存在する。

想定外の事象が起こり戦況が悪くなった時。退くか進むか、その意思を完璧に統一するのは困難だ。

「何ごともなく僕達が思っている通り進めばそれが一番だけどね」

「でも、そうはいかないでしょうね」

「私達も少しでも……」

「【集う聖剣】の皆さんのサポートもしながら頑張りたいです!」

この侵攻を勝利に繋げるために。近づくものは貪り喰らって、裂いて踏みつけて。メイプル達はまるで魔王の軍勢かのように国を一つ落としに行くのだった。

その頃。ミィ達もまた必ず迫り来るであろうメイプル達に対抗するため、時間も限られている中準備を進めていた。

「ベルベット、ヒナタ。まだかかるか」

「急いでるっす!」

「何とか間に合わせます……」

ヒナタの氷とベルベットの雷は勝つためには必須の力だ。先程の戦闘で二人はそれらのスキルが使えない状態となっているため、そのデメリットを解除しようと急いでモンスターを倒しているのである。

「次だ。ほら、呼んできたとも」

リリィの召喚した機械兵が辺りのモンスターに【挑発】効果を与えることで、周りには次々にモンスターがやって来る。

「頑張って欲しいね。策はあるが、まず二人が万全でなければ話は始まらないからさ」

【thunder storm】の二人が集団戦で担う役割はそれだけ大きなもの、かつ替えの効かないものであるということだ。ベルベットとヒナタもそれを理解しているため、こうして急いでいるのである。

ただ、急いでいるとはいえ、順当に攻め込まれれば間に合わない可能性も十分ある。そんな時のために、【炎帝ノ国】の面々は倒されることも覚悟の上で、王城よりも手前に【一夜城】を中心として陣取って待ち構える。

「ははっ、ったく……守るしかないことが多くて大変だな!」

「仕方ないよ。僕達そもそも攻めるのが得意なタイプじゃないし……ミィはちょっと別だけど」

「何とか頑張りましょう。できることなら全員生き残りたいところですね」

「ま、つまりアイツらが間に合うといいなってことだな。悪いなウィルバート!ここが死に場所になるかもしれないけど」

「皆さんがいればそうはならないと信じていますよ。リリィがいないので出力は随分落ちてしまいますが、いるだけでも牽制にはなるはずです」

ウィルバートはこのイベント中に脅威度の高いプレイヤーとして再認識されている。そこにいると分かれば慎重にならざるをえないだろう。

「よし、マルクス最終確認だ。トラップの準備は問題ないな?」

「うん。ちゃんと残ってるよ。いつでも大丈夫」

「ミザリー、スキルのクールダウンは?」

「問題ありません」

「オーケー!もしもの時はまず俺が犠牲になるからな。二人の能力は貴重だ、相手も狙って来る」

ミザリーの広範囲回復とマルクスのトラップは、単純にダメージを与えるスキルとは違い、似たスキルが少ない。これもまた戦略の核となるもので、そう簡単に失う訳にはいかないのだ。

「……どうやら敵もきたようです。気を引き締めましょう」

いち早く敵の接近を察知したウィルバートに次いで、マルクスも設置したカメラで状況を把握する。そこに映っていたのは横一列に並ぶ黒。波のようになって押し寄せてくる化物達の姿だった。

「うわ」

「おお……ええ?マジで増えたな」

いくらなんでも想定以上の増え方に絶句しているマルクスだが、逃げてもどこかで戦うことになってしまうと仕方なく前を向く。

「ミィには改めてこちらからなるべく急いでもらえるよう連絡しました。回復は任せてください」

「ああ頼む。んじゃあウィルバート行くか!」

「はい。そうしましょう」

シンは【崩剣】を発動するとそのうち一本の上に乗り、ウィルバートの周りに護衛用に複数の剣を浮かべる。

「なんか飛んできたらなるべく弾くからな。こっちでやれるだけ削る。とどめは頼んだぜ!」

「ええ、一体でも多く倒しましょう」

こうしてウィルバートは【一夜城】の上で弓を構え、シンは射程内に化物を収められるように飛翔する剣に乗り前方へと飛んでいくのだった。