軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

防御特化と過剰蓄電。

そうしてしばらく。順調に進んでいたウィルバートはその足を止めた。

「ベルベットさん。出番です」

「……!」

それはこの先に多くのプレイヤーとは一線を画す強力な敵がいたことを意味する。

「同じように私が先手を取ります。ですので、それに合わせて飛び込んでください」

「分かったっす!」

ウィルバートの矢を受けたところから始まれば、ベルベットの追撃一発で倒し切れる。

ウィルバートは射線が通るよう近くの高台に陣取り、ベルベットは気づかれないようギリギリまで距離を詰めて待機する。

ウィルバートが先に察知したのは、倒壊した建物が残る遺跡の太い柱の裏。そこで周囲を警戒するドレッドとドラグだった。

「フレデリカのやつ、向こうで上手くやってるといいが」

「やるときはやるやつだから多分心配ねえと思うぜ?あれこれ全開でやれば純粋な火力役としてもつええしな」

「それもそうだ……?」

「どうかしたか?」

「いや、確信はねー。が、見られてるかもな」

「おっと……オーケー」

それはただの直感で、現状何も裏付けるものはない。ただ、ドレッドのその感覚はここまで何度も【集う聖剣】を生かしてきたのだ。その直感は信じるに値する。

「フレデリカと比べて貴重なスキルだが……ここで切るぞ」

「ああ、慎重に行こうぜ」

「シャドウ【獲物追い】」

ドレッドの隣にいたシャドウの足元から狼型の影が次々と現れて一気に走り出していく。

クールダウンは長いが、その分広い範囲を安全に索敵できるスキルだ。

そのうちの一匹が少しして一つ大きな遠吠えをあげる。

「【雷神再臨】!【落雷の原野】!」

直後、その一帯に凄まじい量の雷が落ち、そこにいるものの存在を認識する。

「はっ……面倒くせー」

「チッ、やべえヤツが来たな」

そんなことをするプレイヤーは一人だけ。ベルベットしかいない。

「シャドウが知らせた感じ少なくとも範囲内にいるのは二人。アイツと隣の……ヒナタ。あのデバッファーだけだ」

「連絡だけ入れとくぜ。で、どうする。アイツもすぐ突っ込んではこないみてえだが」

派手に落雷は落としたものの向こうから仕掛けてはこないようで、二人も落雷の音で接近していないことを認識しつつ、手短に作戦を立てる。

「……囲い込むか。リスクはあるけどよ」

「いいぜ!元々そのつもりだったしな。なに、最高の獲物がかかったってことだぜ!」

「はー……やるか。そっちもアースに準備させろ」

ドレッドは最後に一つドラグにあることを伝えると準備を整え、二人で柱の裏から飛び出した。

それに合わせて飛来した高速の矢。それは先に前に出たドラグの体を反応すら許さず一瞬にして貫いた。

と、同時。隣にいたゴーレムのアースの体が弾けHPが1まで減少する。

「……ああ、やっぱいるのか」

「【地割り】!アース【ロックドーム】【バリケード】【再構築】!」

ドラグはノックバック付きのスキルでベルベットの接近を拒絶すると、アースに大量の岩壁を生成させ射線を切る。

「ハハッ、その勘当たるなあ!ドレッド!」

「……外れて欲しかったけどな」

事前にアースに使わせた【身代わり】によってアースはその攻撃を受け持った。死なずに耐えるパッシブまで使わされたものの、死ぬよりはよほどいい。

「左の高台だな。あれは手が出せねー。壁を活かすぞ」

「おうよ!」

ウィルバートとは距離がある。幸い今いる場所に遮蔽は多い。壁を使い援護射撃を避けつつ、目の前の二人を相手取るのだ。

「素早い対処……すごいっすね!飛び込めなかったっす!」

「そうだろ!お返しだ、行くぜ!【バーサーク】!」

ドラグはバフをかけると大斧を片手で持って突進する。武器のリーチは圧倒的に上だ。擬似的な二体二に持ち込めた今、【ラピッドファイア】が次のアクションを起こす前に二人に痛手を負わせに行く。

「【嵐の中心】!」

ベルベットを中心に発生した電撃が、落雷と共に接近するドラグに向かって襲いかかる。

「アース【避雷針】!」

「シャドウ【影の群れ】」

しかし、当然無策で突っ込んだわけもなく。アースのスキルによって生成した岩の柱に範囲攻撃を吸い寄せて、ドラグはドレッドの呼んだ狼の群れと共に突き進む。

【避雷針】はベルベットの高威力の稲妻にすぐに破壊されるが、一瞬あればそれで十分だ。

だが、あと数歩で大斧の射程に入るその直前。

「【コキュートス】」

吹き抜けた強烈な冷気は接近していた全ての存在を氷漬けにしその場に縫い止めた。

「【電磁跳躍】!」

ヒナタのデバフをさらに受けて、防御力がほぼゼロにされたその瞬間。ベルベットが一気に飛び出す。

「【轟雷】!」

ベルベットを中心に発生した電の柱は狼もろともドラグを巻き込み空を照らした。

光はやがて収まりベルベットは前を向く。

「やるっすね!言ってた地面に潜るスキルっすか?」

「……はー、キツイ。マジでつえーわ」

「ナイスドレッド!まー、一つ使ったろ?」

「ああ、それはそうだ」

移動はできずともドラグを地面に潜り込ませ、回避させることはできる。あとは【コキュートス】が切れてから退くだけだ。

「拘束するスキルは強いからな。クールダウン長いだろ?全部吐かせてやるよ」

「……負けません」

敵味方のスキルのクールダウンを考慮し、ドラグとドレッドは前に出る役を入れ替える。

「矢の雨も来るぞ!」

ドラグが岩壁を補充しつつドレッドに呼びかけるがその時にはドレッドは走り出していた。

「構わねー」

短剣ならリーチの差もそうないとベルベットも合わせて距離を詰める。ヒナタの防御力低下のデバフは避けられないため、当たれば即死だが、それはドレッドにとっていつものことでもある。サリー程ではないものの、ドレッドもまた当たらないことを前提としたステータスなのだ。

「これぐらい捌けねーと始まんねーんだよ……!」

ドレッドは矢の雨を躱すと、そのままベルベットの稲妻の雨を避ける。

落雷があった場所に次に落ちるには少し間がある。サリーのようにそのまま前に進むとまではいかないが、回避に専念すれば避け切れる。

自分の方が速ければ追いつかれもしないのだ。

「【トップスピード】!」

ドレッドは急加速すると隙を見て前へ一歩強く踏み込む。

「【凍てつく大地】!」

「【スタンスパーク】!」

「なら下がるけどな」

ドレッドはスキルを発動させると、素早く範囲外に逃げる。一度拘束されれば終わりなため、相手に使わせてクールダウンに入ったところを狙うのだ。

「むぅ、上手いっすね!」

「そりゃどうも。短剣使うなら避けねーと死ぬんでね」

細かいプレイングはドラグとドレッドが上回る。その分ベルベットとヒナタには強烈なスキルがある。今は上手くいっているが常に綱渡りなことに変わりはない。

「じゃあ……もっと上げていくっすよ!」

ベルベットは一つ息を吐くと仕切り直しとばかりに構え直す。

「【 過剰蓄電(オーバーチャージ) 】!」

「……!」

ベルベットのスキル発動に合わせ、胸元の黄色い宝石が強烈な電撃を発生させ、降り注ぐ雷が異様に太く、その範囲が広がっていく。纏う電撃はより激しくスパークし、青白い光となって周りをより激しく焼き焦がす。

「ここまで範囲を広げれば簡単には避けられないっすよね」

「そりゃあそうだ」

とんでもない力技、太くなり続けるベルベットの稲妻の柱を見て、ドレッドは撤退を決断する。

細かいやり取りで有利を積み上げる、そんな技術ではどうにもならないような暴力的な強さ。ベルベットが隠していたスキルは近接主体の二人にはあまりに不利なものだった。

「ドラグ、立て直す!シャドウ【影世界】!」

「アース!【地震】!」

ドラグは接近を拒絶するため、再び移動阻害スキルを放つとシャドウによって展開された影の中に潜って、一気に距離を取る。

「あれ何とかするにはメイプルがいるな」

「おう。最後なんかもう一つの光る柱みたいになってたぜ?」

避けるスペースが一切存在しなければ回避も駆け引きもありはしない。ベルベットはひたすら前に突っ込んで範囲内に入るまで距離を詰めるだけでいい。

「追撃が来るなら予定通り囲い込む。ここは時間稼げれば十分だ」

スキルを確認できただけでも十分である。二人は万が一にもヒナタの拘束スキルの範囲内に入らないように、そして【ラピッドファイア】が降りてこないうちに急いで撤退するのだった。

それをしばらく追いかけていたベルベットは、二人を見失ったところでスキルを解除する。

「私にもあんな目があればよかったんすけど……」

「リリィさん達と一旦合流しましょう。二人で追いかけ続けるのは危ないですから」

二人は来た道を戻り、リリィ達と合流する。

「逃げられちゃったっす」

「残念だが、仕方ないさ。相手の退き方と始まってすぐの対処が丁寧だったね」

「スキルではないようですが……どうやら離れた私達にも気づいていたみたいでしたね」

「その辺りは経験によるものなのかもしれない。二人の攻撃は流石だね。ここで退いたということは相当分が悪いと感じたということさ」

ウィルバートは素早い対処により、そこまで脅威となれなかったため、今回退いたのはベルベットとヒナタに勝つのは厳しいと判断したからだ。

「次はもっと相手が退きづらいタイミングで戦えるといいね」

「それまでに雷溜め直しておくっす!ちょっとモンスターを倒したいっすね……」

「なるほど?ウィル、この辺りなら?」

「少し東へ行けばちょうどいい場所があるかと」

ベルベットの【過剰蓄電】はいつでも使える技ではない。その名の通り蓄電する必要があるのだ。

「そのスキルは必要だからね。現状、敵にとって最も大きい脅威だからさ」

【集う聖剣】の二人をも即座に撤退させるその破壊力は常に使えるようにしておきたい。四人はベルベットの蓄電のため、一度東へと向かうのだった。