軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

防御特化と黒い渦。

ギルドメンバーに助けてもらったこともあり、足りないアイテムを着実に揃えていったメイプルは、イベントまでまだ時間を残して要求されていたもの全てを手に入れることに成功した。

最後のアイテムをサリーから受け取り、メイプルはインベントリ内に表示された指定の枠にアイテムをセットしていく。

「これで終わりだといいんだが……」

「そろそろ時間の余裕もなくなってきたものね」

大ボスとのバトルなら決戦兵器であるマイとユイがいるため何とでもなるのだが、今回のようなアイテム収集とならば、次は時間との勝負になってくるだろう。

「メイプルさんどうですか?」

「何か……変わりましたか?」

「待ってねー。これで最後!」

メイプルが最後のアイテムをセットするとクエストクリアの表示が出て、次のクエストが表示される。

「むぅー、まだあるみたい」

「本当に?うーん、結構ボリュームあるみたいだね」

「内容はどういったものだろうか?」

「えーっと……目的地に向かう感じみたい!」

「となるといよいよ終わりかな?んー、ボス戦の香りがするなあ……」

サリーの言うように、辿り着いた先に何かが待ち受けているというのはよくあるパターンだ。もちろん、それがボスであるケースも多い。

「俺達もついていけそうか?いつもならいいんだが今のメイプル一人だとな……」

スキルが使えないままならアイテムで攻撃するしかない。そうなると多少防御力が高かったり、少しでも回復能力があったりすればそれで終わりである。

「メイプルどう?」

「皆と一緒でも大丈夫みたい!今マップ見せるね!」

メイプルがマップを表示すると、これから向かう必要があるルートが表示されていた。

「んん?何だこれ」

「えっと、何というか……」

「すごく離れてますね!」

メイプルが見せたマップには経由すべき場所を意味する赤い点があちこちにあり、それが線で繋がれている。点と点の間はフィールドをかなりの距離移動する必要があることが分かる。ただ、ルートがいくつかあるようで、全ての点を通るものから、数個しか通らないものまで、ルート選択によってかかる時間に違いがあるように感じられる。

どうやらクロムやサリーが予想していたようなボス前までの移動とは少し訳が違うようだった。

「だがどうであろうと私達がついていけるなら、ついていくことに変わりはないだろう」

「それはそうね」

七人は最後まで付き合うつもりなのだ。メイプル一人に行かせるよりも全員で協力した方がよっぽど効率良く終わるのは間違いない。

「このあと全員空いてるならそのまま進めてもいいんじゃないか?」

「そうだね。さくっと終わらせればいいと思うな」

「皆、もう少し手伝ってくれる?」

メイプルが聞くと全員が頷く。そうと決まれば早速出発だと八人はフィールドへと移動した。

「ハク、頼むぞ」

いつも通りハクに乗ってフィールドを縦断し、サリーがマップを見つつ目的の場所へ近づく。

「この辺りでいいだろうか?」

「うん。カスミ、止めて大丈夫」

ハクから降りた八人は辺りを見渡すまでもなく、目の前の特徴的な地形に注目する。

「となるとこれか?」

「大きな穴ですね……」

「底が見えないねー。崖側を沿って移動すれば下りられそうだけど」

目の前にあったのはかなりの深さを誇る大きな穴である。以前縦穴を攻略した時は、メイプルが【身捧ぐ慈愛】を展開しつつ飛び降りるという力技によって一瞬でクリアすることができたが、今回は同じようにはできない。

「カナデ、多分何か持ってるだろ?どうだ」

「持ってるよ。いくつか方法はあるけど……どう下りたい?」

「一番皆が安全な方法で!」

「メイプルがそう言うならそれにあったものを用意するよ」

誰もダメージを受けずに下りる方法としてカナデが七人に提示したものを聞いてメイプルはうんうんと頷く。

「それなら大丈夫そうだね!」

「メイプル基準なんだよなあ……」

「だが安全なのも事実か……」

覚悟は決まったようで全員が固まって穴の淵に立つ、【楓の木】の高低差のある地形攻略はやはりこれだということだ。

「せーの!」

メイプルの掛け声に合わせて一気に空中へと身を投げ出す。重力で急激に加速する体は壁際にいる何者かも分からない存在から放たれる炎や風を振り切って地面までまっすぐに落ちていく。

「【守護障壁】!」

カナデのスキル宣言に合わせて八人の体を覆うように光が発生し、直後地面に足から着地する。

するとパリンと音を立てて光は消失し、受けるはずだった落下ダメージを全て引き受けて無効化してくれた。

「おおう、贅沢な使い方だ」

「ダメージ無効はいくつか持ってるし、普段はメイプルがいるから使わないしね」

一人の場合でも、危険な状況になっても無理に魔導書を使わず、死亡してから再挑戦すればいいと考えているカナデは、この手の魔導書には余裕があるのだ。一冊くらいなら使ってしまっても問題はない。

「ただ、ここはボスはいなかったような……」

「そうね。いい採取ポイントがあるのはしってるのだけれど」

サリーとイズの認識は間違っておらず、壁際に鉱石があるだけでボスが待ち構えているわけではないはずだ。

「皆で探してみよう!何かあるかもしれないし!」

「だね。何かあったらメイプルに知らせる感じで。八層で【救済の残光】を手に入れた時みたいに、クエスト中のメイプルにしか感知できないこともあるかもしれないから、メイプルはより注意深く探してみて」

「分かった!」

来るのが手間な場所なためついでに素材も集めつつ、八人は広い穴の底をくまなく見て回る。そうして少ししたところで、メイプルが何かを見つけ全員を呼ぶ。

「これじゃないかな?」

メイプルが指差す先の壁には黒色の小さな渦巻きが描かれており、ゆっくりと回転している。

「何も起こらない?」

「触ってみるね」

見ている分には変化がないため、メイプルがそっと手を伸ばしてその渦に触れてみる。すると、黒い渦は一瞬で大きくなり壁に広がっていく。さらに渦状だったものは隙間が埋まり、ゆらめく黒い壁に変化した。

「ゲート……って感じだな」

「そうね」

メイプルが壁の前に手をかざすと、活性化しているかのように黒い光を放ち始めるが、実際この先に何かがあるのかどうかは一歩踏み出してみなければ分からないだろう。

「なら何があってもいいように準備を整えてから踏み込んでみようか」

「うん!アイテムとか準備するね!」

準備をしなかったことで負けるよりも準備をしてそれが無駄になるだけの方がいい。

どんなモンスターをも破壊できるだけの態勢を整えたところでメイプルが壁に手を触れる。

すると黒い光が溢れ出して八人を包み込んでいく。それに合わせてそれぞれが足元から感覚が消えていくような転移の予兆を感じ取る。

「やはり来るか!」

「戦闘準備だ!」

「「はいっ!」」

少しして視界が全て黒く塗り潰され、八人は暗い空間に転移する。八人が構える中、両側の壁に設置された松明に火がついていき、部屋が照らし出される。

その最奥にいたのは六本の腕に三つの顔を持った巨人だった。手にはそれぞれ武器を持っており、それで攻撃してくるのだろう。一目見た限りでは手数と攻撃力によって攻め立ててくる印象を受ける。

「六本腕か……でも」

サリーは後ろに目配せをする。こちらは八本腕が二人だ。アイテムによるバフも受けた今、攻撃力も負けてはいない。

「俺が守って連れて行く!できる限り注意を引いてくれると助かる!」

クロムがマイとユイの前に立ち、カスミとサリーが一気に飛び出す。敵の腕は六本、マイとユイを狙う本数が少なくなればなるほど勝率は上がるのだ。

「【ウインドカッター】!」

「【血刀】!」

二人がそれぞれ遠隔攻撃によってボスに先制攻撃を仕掛けると、それに反応してボスもその巨体ゆえのリーチによって手に持った武器を振り下ろして攻撃してくる。

二人は壁際へ寄ってマイとユイへ攻撃が行かないようにすると、スピードを活かして振り下ろされた武器を避けてそのまま攻撃を引き受ける。

「【マルチカバー】!」

残りの腕からの攻撃をクロムが受けて着実に前進する。カスミとサリー以外はダメージを与えていないため、徐々に他の腕も二人へと狙いを変えていく。当然、【楓の木】としてはそれを待っていた。

「今だ!走れ!」

「「はいっ!」」

クロムが盾を構えつつ、カナデは防御魔法を準備しながらマイとユイを走らせる。

近づくことさえできれば、それがHPを持ち撃破可能なものとして作られているボスであるかぎり、どんなものでも立ってはいられない。

合計四本の腕がサリーとカスミに引きつけられ、残りの二本で飛び込んでくるマイとユイを迎撃する。

「これくらいなら……!」

「大丈夫です!」

振り下ろされる武器に合わせて二人も大槌を構えると、タイミングを合わせて叩きつける。

「「【巨人の業】!」」

あらゆるものを凌駕するそのSTRによって大きさで遥かに上回る相手の攻撃を跳ね返し、受けるはずだったダメージをボスに跳ね返す。

怯んだ隙にさらに距離を詰め、ここで二人は宙に浮かぶ六つの大槌も含めて全ての大槌を振りかぶる。

「いくよお姉ちゃん!」

「うん……!」

「「【ウェポンスロー】!」」

スキルの宣言とともに二人が装備している武器が一斉に光を帯び、直後ボスに向かって回転しながら高速で飛んでいく。

装備している武器を投げるスキル。当然、そうびしている武器が八つあるマイとユイはその全ての武器が手元から離れ投射される。

遠距離から攻撃できるかわりに自ら武器を放り出すという大きなデメリットのあるスキルだが、二人が使うと訳が違う。

グシャッという鈍い音と共にボスの体に次々と大槌がめり込んでいき、凄まじいダメージがボスの体をよろめかせる。

武器を全て放り投げようが関係ない。ただ、その一撃で確実に敵の命を刈り取れればいいのだ。

最後の大槌が三つあるうち正面を向いているボスの顔に突き刺さりそのまま頭を抉って後ろの壁を砕いた所で、全身を黒い炎が包み込みボロボロと崩れ、最後には光となって消えていってしまった。

「足下まで行かなくても大丈夫そうだな……」

「替わりの武器を用意しておいてあげれば盤石よね」

「イズがいれば投げた後も心配なしだね」

イズのインベントリの中に入っている使い所のなかった武器も、日の目を見ることがあるかもしれない。

「すごーい!そんなスキルあったんだ!」

「はいっ!【飛撃】と【投擲】でモンスターを倒していたら覚えたんです!」

「一つだけ投げたりとか調整はできないんですけど……」

そもそも武器を八つ持っていること自体が特殊であり、その状況をベースとして作られたスキルではないため、いくつ武器を持とうとデメリットが変わらない。むしろダメージが伸びて攻撃範囲も広がり、その後相手が生き残っている確率も落ちるのだから投げられるだけ投げる方が得なのだ。

特に二人の場合なら、今回のように撃破することによって後隙をなくすことも可能になる。

「本来ここまで強く見えるスキルじゃないと思うんだけど……」

「ともあれこれでより戦略の幅が広がるだろう」

目の前の腕の攻撃を捌いていたカスミとサリーは、ふと目を向けると十六本の大槌がボスにめり込んでいたわけで、相当衝撃的な攻撃だったと言える。

「マイとユイがいるなら全部回っていってもたいして時間もかからないかあ」

「全員の時間があるなら最長ルート通っていけばいいんじゃないか?クエスト自体かなり長いし、どうせならやり残しもない方がスッキリするだろ」

「私達は大丈夫です!」

「はいっ、まだまだ戦えますっ……!」

「皆が大丈夫なら!」

ボス戦続きなら普通はかなりハードなものになるが、【楓の木】なら問題なしだ。

そうと決まれば早速次の目的地だと、現れた魔法陣に乗って外へと出て行く。

「……?メイプル」

「どうしたのサリー?」

「んー、顔の黒い染みがちょっと広がったような……」

「そうなの?見えないから分からなくて」

「いや、気のせいかも。クエストが進んで変化があったのかもしれないし、時間制限とかもありえるし、時々見せて」

「うん!」

こうして二人も六人の後を追って外へと戻って行くのだった。

それから始まったのは正しく蹂躙と呼べるものだった。先程の穴のような特殊な地形からダンジョンまで、モンスターの巣と言える場所に踏み入ってはその中にいる動くもの全て薙ぎ倒して次へ次へと進んでいく。

特別に対策をしなければ理外の膂力によって攻撃してくるマイとユイを止められない。しかしそれは、フィールドの一ボスにとっては難しいものだ。

そうして倒せるものは倒し、マップ上の全ての点を通過して、どのルートを通っても辿り着く最後の点までハクに乗って移動を続ける。

「にしても随分広がったな……」

メイプルの顔に広がっていた黒い染みは背中や肩、太腿などにも拡大している。ステータスを確認する分には状態異常やステータスの変化は起こっていないため、これがいいことなのか悪いことなのかさえ不明である。

「メイプル、今のところ変化なし?」

「うん!見た目以外は何もないみたい」

「ボスを倒す度に広がっていることは確かだが……状態が悪くなっているように思えてしまうな」

「ヒントも何もないし、僕らが判断するのは無理みたい」

一番多く示された点を通過したため、もたらされる結果としては最もいいか最も悪いかのどちらかになるだろう。

どうあれ今更引き返すことはできないため、このクエストを完走する他ない。ただ、マイとユイの攻撃を全て無効化できる術を持たないモンスターであれば何ひとつ問題はないため、【楓の木】としてもそれほど重く考えてはいないのが現状だ。

「地図の通りならそろそろ着くが……」

「平地のど真ん中だぞ?何かあるか?」

「下りて探してみるしかなさそうね」

ここまでと同じならメイプルに反応する黒い渦巻のマークがどこかにあるはずである。カスミは一旦ハクを指輪に戻し、全員で目印がないかと辺りを探してみる。

平地なため上手く隠れてしまって見つからないというようなことも起こりにくい。そのまま丁寧に探索を続けると地面に浮かび上がるマークを見つけることができた。

「お、あったよメイプル!こっちこっち!」

サリーの呼び声を聞いてメイプルが駆け寄ってくる。するとそれに合わせてクエストクリアとなり、さらに新たなクエストに切り替わる。

「中でボスと戦うみたい……なんだけど……むー」

「スキルはどう?」

「それはまだ駄目みたい」

「またクエストが終わってボスってことは……いよいよラストか?」

「頑張ります!」

「どんなボスでも……倒してみせます!」

ここまで【楓の木】の快進撃を支えたマイとユイが改めて気合を入れる。ここまでよりもさらに強いモンスターが出てきたとしても、そう何発も耐えることはできないだろう。

「えっとね。私一人で行かないと駄目みたい」

「おっと?僕らは行けないってことかな」

「ソロ限定って書いてあるし……合ってるよねサリー?」

サリーもメイプルの受けたクエストを確認するが、そこにはメイプルの言った通りソロ限定と書かれている。

「改めて聞くけど、スキルはまだ戻ってきてない?」

「うん。パッシブ?スキルしか使えないままだよ」

宣言せずとも効果のあるスキルは変わらず発動しているため防御力には変化がないが、それだけである。攻撃手段をほぼ全て奪われたメイプルはここまでの道中も特に何かできることもなく、着いて歩いてきただけなのだ。それ故に【悪食】は全て残っているものの、それだけで倒し切れるかどうかはかなり怪しい。

「となるとアイテムで倒すしかないわけだが……」

「ボスがどういったものか分からからな。広く準備する他ない」

八人で知恵を出し合って戦略を練るだけ練って、少しでも勝率を高め、その上でイズから役に立ちそうなアイテムを大量に受け取る。あとはメイプルを信じる以外できることはない。

「すごい長い戦いになっちゃうと思うから……また結果は別の日に!」

アイテムでボスを倒すとなるとメイプルが昔やっていたような、防御力に物を言わせ地道に削る異常なまでの持久戦が予想される。

その間ここで待っていてもらうのも悪いため、メイプルは覚悟を決めて一人渦巻に触れる。

「いい報告期待してるぞ!」

「勝てるよう祈っている」

「「頑張ってくださいメイプルさん!」」

「アイテムは惜しみなく使っちゃって構わないわ」

「ふふ、面白いスキル持って帰ってきてね」

「メイプル!頑張って……勝ってきて」

メイプルは七人からの声援を受けて大きく一つ頷くと、闇に包まれて消えていくのだった。