軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

防御特化と炎と毒。

二人が降りたのは大きな湖の近くだった。森に囲まれる形になっているものの、上空から見れば万に一つも見逃すことはないだろう。

湖の近くは木々が幹を力ずくでへし折られ横たわっており、巨大化したイグニスでも直接降りることができた。

「ありがとうイグニス」

「ここかあ」

「あんまり相性のいい相手じゃないし、メイプルがいてくれるならそのうちにやっておこうかなって。あとは戦い方のコツを忘れないうちにっていうのもね」

そうして少しすると、ミィがコツと言ったのも納得できるモンスターが現れる。水面が大きく波打って、九層のあちこちにみられるような重力を無視した水の塊が、湖から何本もの柱とそれをつなぐ無数の道となって伸びていく。

その中を高速で泳いでいるのは五十センチメートル程の魚達だった。

前々回のイベントと八層でこんなモンスターには嫌というほどであったものだ。

その速度や戦法への対処が体に染み付いているうちに、このクエストをクリアしてしまおうというわけである。

「【身捧ぐ慈愛】!」

「【豪炎】!」

メイプルが防御を固めるとそのまま安全圏からミィが強烈な炎を放つ。それは水の柱を貫いてなお燃え盛り、中にいる魚に大ダメージを与える。

「おおー!」

「動きが早いなら逃げ場がなくなるくらい広範囲の攻撃で倒せばいいよね。って言っても水の中はダメージ減っちゃってるんだけど……」

重すぎる一撃を受けたものの流石は九層と言うべきか、魚達のHPはかろうじて残っており反撃とばかりに力を合わせて力強くうねる水の渦を放ってきた。

「【ヘビーボディ】!」

そこはかとなく吹き飛ばしてきそうなその見た目にメイプルは咄嗟にノックバックを無効化してその大渦を受け止める。

見た目こそ派手な攻撃だが、貫通効果はなかったようで、メイプルを傷つけるには至らない。

こういった場面で咄嗟にスキルが出るようになってきているため、多少なりともゲームというものに慣れてきたのだろう。

「やっぱり避けなくていいのは気が楽でいいね……【蒼炎】!」

ミィは超高火力の固定砲台として放たれる水に炎で応戦する。そうしているうち、メイプルもこの戦闘が普段とは違うことに思い至る。

サリーなら飛び込んでいってダメージを稼ぐだろうこの場面、普段なら使えないようなスキルも使ってしまって問題ないわけだ。

「よーし、【毒竜】!」

メイプルがそう高らかに宣言すると毒の奔流が湖に向かって放たれる。それは水の柱や水の道を紫に染め上げ、中にいる魚達にダメージを与えていく。中を泳ぐために水域を汚染しないで保っておく必要はないのだ。

「うわっ……」

やっていることがもたらす結果、モンスターを倒すという目的はミィも変わらないのだが、毒という攻撃方法になると絵面の酷さが一段増すのは気のせいではないだろう。

じわじわとHPが減っていくにつれ、あと僅かにダメージの足りなかったミィの攻撃も魚達を一撃で葬るようになっていく。

一度水の中に注ぎ込んでしまえばあとは魚が素早かろうが関係ない。水中でしか活動できないという制限があるならば逃れようもないのだ。

その光景だけを見れば炎と毒、そして水の飛び交う激しい撃ち合いだが、その実起こっているのは一方的な蹂躙なのだった。

クエストのクリアと同時に湖から伸びていた水の柱は全て消滅し、元の静かな湖が戻ってくる。

「ふー、ありがとうメイプル!お陰で攻撃だけしてればよかったし楽できたよ」

「こっちも本当だったらすっごい待たないといけなかったし!」

メイプル一人なら毒が回って順に倒れていくのを待つことになっていただろう。

ミィとしても倒木で足場が悪い中で本来必要な回避について考える必要がなくなり、簡単にクリアまで漕ぎ着けることができた。

「ミィとパーティーになるとまたいつもと違う感じだね」

「そうかな?んー、カナデ……は魔法は使うけどちょっと異質だし、サリーもメインで使ってるわけじゃないし……そうかも」

八人しか所属していないため、当然存在しない役割もある。真っ当に高火力を叩きつける魔法使いは【楓の木】にはいないのだ。

カナデも攻撃力ならマイとユイがいるからと特別魔法攻撃で打点を求めることはしていない。

もちろんメイプルの存在がそれに拍車をかけている部分はあるだろう。高い威力で何もさせずに倒すことを狙わずとも、メイプルが全ての攻撃を受け止めてなかったことにしてくれるのだから、短期決戦をする必要がなく、攻撃能力の優先度は一般的なギルドより下がるのも当然だ。

「思ったより早く終わっちゃったなあ」

「ミィはもうたくさんクエスト受けたの?」

「最初に出てたのはこれで全部。そうしたら、また次が出てくると思うけど。今後進めるのは大変になっていくだろうからペースは落ちるかも」

今受注可能なクエストは九層の中で最も簡単なものになる。その段階でも既にこちらの行動を封じる強力な攻撃を持ち、有利な空から攻撃してくるさっきの竜のようなモンスターもいて、ベースとなるモンスターの強さは確実に上がっている。今後難易度が上昇すると考えるなら、それに合わせて相対する敵も手強くなるだろう。

「メイプルはまだ全部は終わってない?」

「まだまだだよー。でも、どんなクエストがあるかはギルドの皆で分担して確認してるんだ」

「そっか、【楓の木】のメンバーならよっぽど相性が悪くなければこのくらいの難易度なら一人でもクリアできるもんね」

「【炎帝ノ国】みたいなおっきいギルドにも負けないように情報集めなんだって」

「なるほどね。実際情報収集は大事だし、そういうのはマルクスが上手いんだけど……」

「確かに得意そう!」

「今回みたいな拠点のあるイベントだと大活躍だからね。本人は自信なさげなんだけど」

それでもここまでのイベントの結果はその能力を確かなものだと裏付けている。だからこそ、ミィも信頼しているわけだ。

「特にミザリー、マルクス、シンとはよくパーティーも組むし、多分イベントは四人一緒の陣営で参加することにすると思うけど、敵味方別れた時に味方になったら存分に頼って大丈夫だから」

「うん!そうする!」

共闘も敵対もそこまで回数が多いわけではないものの、メイプルもミィ達の強さはよく知っている。それに磨きがかかっているというなら尚更頼りがいがあるというものである。

「ここまで長かったけど、最後の準備期間だからね。メイプルも隠し玉……きっと何か持ってるんでしょ?」

「えっと、ここは言わない方がいいんだよね!」

「ふふ、正解。怖いけど……楽しみに策を練ってはおく」

「こっちも頑張って準備しておく!」

メイプルがすぐにやめてしまった今までのゲームではできなかった、ライバルであり友人。そんな関係性を持つ一人。特にライバルなどというものとは無縁だったメイプルは慣れていないながらも、サリーのそれを真似るようにして自身ありげな笑みを浮かべてみせるのだった。